143 / 545
第七章 一年次・後半
第141話 王子対決
しおりを挟む
シルヴァノとペイルは、開始の合図と同時に一気に距離を詰める。そして、互いに剣を振り抜いた。
潰れた模擬剣ではあるが、甲高い金属音が会場に響き渡る。音の大きさからして、どれ程の力で振り抜かれたのかが分かる。
しかし、この後決勝戦、オフライト戦が控えているというのに、全力で試合をしている。こんな調子で大丈夫なのか。
だが、この二人にはそんな事を言っている余裕などなかった。これはただの意地とプライドのぶつかり合いなのだ。
この二人が見ているもの……。それはペシエラただ一人である。あの年齢と小さな体躯で、年齢と体格差を物ともしない剣技。さすがにオフライトには体力負けをしてしまったが、二人が真剣に打ち込むきっかけになったのは、間違いなくペシエラなのである。それが故に、ペシエラが見守る前で最高の試合をしてやろうじゃないかと、決勝戦の相手オフライトを差し置いて、二人はすべてをここに賭けていた。
まさか「私のために争わないで」の状況にあるとは知らず、ペシエラは冷静に二人の試合を見ているのだが、そこはお互いが知らない話である。
さて、この王子対決はどちらに軍配が上がるのか。
剣をぶつけ合ってしばらく睨み合う二人。
「ふっ、なかなかやるな。アイヴォリーの王子は容姿が綺麗なだけのお坊ちゃんだと聞いていたんだが、なかなかやるじゃないか」
「モスグリネの王子は乱暴なだけと聞いていたが、意外と真面目なんだな」
煽り合いにお互いが不敵に笑うと、その瞬間に二人は距離を取り合う。力が拮抗しているのか、剣の押し合いでは埒が開かないと判断したからだ。
仕切り直したかと思うと、二人は同時に飛び込んでいく。剣と剣がぶつかり合う音が響き渡り、会場はその凄まじさに息を飲むばかりだ。
かと思えば、時折拳や蹴りまで織り交ぜていく。よくこうも動けるものである。
武術大会であって剣術大会ではないので、こういった攻撃へのお咎めはない。だが、あの剣戟の合間にそういった剣以外の攻撃を織り交ぜられるのは、二人の戦闘センスの高さが窺い知れる。どれ程の鍛錬を積んできたのだろうか。
お互い一歩も引かない攻防、……いや、ほとんど攻めっぱなしである。当たりそうな攻撃は躱しているにはいるが、半分くらいはそのまま受けている。剣でなければそこそこ気にしないくらいには、体を鍛えているのだろう。筋骨隆々のイケメン王子……、悪くはないかも知れない。
盛り上がりを見せているこの二人の王子の対決だったが、力が拮抗しており、なかなか終わる気配が見られない。二人の息は上がってきており、体力勝負になってきた。完全に決め手を欠いている。
観客たちも長くなってきた事で、次第に飽きが見えてきている。だが、王子二人相手とあっては、ヤジも飛ばせない。会場が騒めき始めた。
武台上のシルヴァノとペイルも、この空気を感じ取ったようである。二人揃って深く腰を落とす。……次の一撃で決めるつもりだ。
「ハァッ!!」
気合いを込めた声が響くと、一気に詰め寄る。互いに互い目掛けて剣を振るう。
……しかし、その攻撃は共に当たる事はなかった。シルヴァノは上から、ペイルは横から剣を振り抜こうとしたのだが、そこで二人ともに動きを止めざるを得なかった。
「そこまでだっ!」
会場に響く大きな男性の声。
試合にドクターストップが入ったのだ。これには会場が騒めく。
「……スノーフィールド公爵、なぜ止めたのです」
武台の脇には、銀髪を靡かせた男性が立っていた。スノーフィールド公爵と呼ばれたので、プラティナの父親なのだろう。
「……二人は王子だ。何かあっては一大事だ。これ以上は危険と判断して、私権で止めさせてもらった」
「しかし、これは大会ですぞ。勝手な真似をされては……」
「国際問題化しても構わぬと言うのか?」
「……っ!」
実行委員の男が責めようとするが、公爵のひと睨みで黙ってしまった。
武台の上では、力尽きたシルヴァノとペイルが、剣を支えにして肩で大きく息をしている。
「お楽しみのところ悪いが、この場は私の判断で引き分けとしたい。よって、決勝戦は相手がおらず、オフライト君の勝利とする!」
会場からは響めきが起きるが、公爵の決定は重く、納得せざるを得なかった。
こうして、武術大会はオフライトの優勝で幕を閉じた。
潰れた模擬剣ではあるが、甲高い金属音が会場に響き渡る。音の大きさからして、どれ程の力で振り抜かれたのかが分かる。
しかし、この後決勝戦、オフライト戦が控えているというのに、全力で試合をしている。こんな調子で大丈夫なのか。
だが、この二人にはそんな事を言っている余裕などなかった。これはただの意地とプライドのぶつかり合いなのだ。
この二人が見ているもの……。それはペシエラただ一人である。あの年齢と小さな体躯で、年齢と体格差を物ともしない剣技。さすがにオフライトには体力負けをしてしまったが、二人が真剣に打ち込むきっかけになったのは、間違いなくペシエラなのである。それが故に、ペシエラが見守る前で最高の試合をしてやろうじゃないかと、決勝戦の相手オフライトを差し置いて、二人はすべてをここに賭けていた。
まさか「私のために争わないで」の状況にあるとは知らず、ペシエラは冷静に二人の試合を見ているのだが、そこはお互いが知らない話である。
さて、この王子対決はどちらに軍配が上がるのか。
剣をぶつけ合ってしばらく睨み合う二人。
「ふっ、なかなかやるな。アイヴォリーの王子は容姿が綺麗なだけのお坊ちゃんだと聞いていたんだが、なかなかやるじゃないか」
「モスグリネの王子は乱暴なだけと聞いていたが、意外と真面目なんだな」
煽り合いにお互いが不敵に笑うと、その瞬間に二人は距離を取り合う。力が拮抗しているのか、剣の押し合いでは埒が開かないと判断したからだ。
仕切り直したかと思うと、二人は同時に飛び込んでいく。剣と剣がぶつかり合う音が響き渡り、会場はその凄まじさに息を飲むばかりだ。
かと思えば、時折拳や蹴りまで織り交ぜていく。よくこうも動けるものである。
武術大会であって剣術大会ではないので、こういった攻撃へのお咎めはない。だが、あの剣戟の合間にそういった剣以外の攻撃を織り交ぜられるのは、二人の戦闘センスの高さが窺い知れる。どれ程の鍛錬を積んできたのだろうか。
お互い一歩も引かない攻防、……いや、ほとんど攻めっぱなしである。当たりそうな攻撃は躱しているにはいるが、半分くらいはそのまま受けている。剣でなければそこそこ気にしないくらいには、体を鍛えているのだろう。筋骨隆々のイケメン王子……、悪くはないかも知れない。
盛り上がりを見せているこの二人の王子の対決だったが、力が拮抗しており、なかなか終わる気配が見られない。二人の息は上がってきており、体力勝負になってきた。完全に決め手を欠いている。
観客たちも長くなってきた事で、次第に飽きが見えてきている。だが、王子二人相手とあっては、ヤジも飛ばせない。会場が騒めき始めた。
武台上のシルヴァノとペイルも、この空気を感じ取ったようである。二人揃って深く腰を落とす。……次の一撃で決めるつもりだ。
「ハァッ!!」
気合いを込めた声が響くと、一気に詰め寄る。互いに互い目掛けて剣を振るう。
……しかし、その攻撃は共に当たる事はなかった。シルヴァノは上から、ペイルは横から剣を振り抜こうとしたのだが、そこで二人ともに動きを止めざるを得なかった。
「そこまでだっ!」
会場に響く大きな男性の声。
試合にドクターストップが入ったのだ。これには会場が騒めく。
「……スノーフィールド公爵、なぜ止めたのです」
武台の脇には、銀髪を靡かせた男性が立っていた。スノーフィールド公爵と呼ばれたので、プラティナの父親なのだろう。
「……二人は王子だ。何かあっては一大事だ。これ以上は危険と判断して、私権で止めさせてもらった」
「しかし、これは大会ですぞ。勝手な真似をされては……」
「国際問題化しても構わぬと言うのか?」
「……っ!」
実行委員の男が責めようとするが、公爵のひと睨みで黙ってしまった。
武台の上では、力尽きたシルヴァノとペイルが、剣を支えにして肩で大きく息をしている。
「お楽しみのところ悪いが、この場は私の判断で引き分けとしたい。よって、決勝戦は相手がおらず、オフライト君の勝利とする!」
会場からは響めきが起きるが、公爵の決定は重く、納得せざるを得なかった。
こうして、武術大会はオフライトの優勝で幕を閉じた。
1
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…
雪見だいふく
ファンタジー
私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。
目覚めると
「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。
ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!
しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?
頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?
これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。
♪♪
注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。
♪♪
小説初投稿です。
この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。
至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
完結目指して頑張って参ります

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

元英雄 これからは命大事にでいきます
銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの
魔王との激しい死闘を
終え元の世界に帰還した英雄 八雲
多くの死闘で疲弊したことで、
これからは『命大事に』を心に決め、
落ち着いた生活をしようと思う。
こちらの世界にも妖魔と言う
化物が現れなんだかんだで
戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、
とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜
八雲は寿命を伸ばすために再び
異世界へ戻る。そして、そこでは
新たな闘いが始まっていた。
八雲は運命の時の流れに翻弄され
苦悩しながらも魔王を超えた
存在と対峙する。
この話は心優しき青年が、神からのギフト
『ライフ』を使ってお助けする話です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる