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第六章 一年次・夏
第118話 お互いのわがまま
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話がついたところで、エアリアルボードの実験をする。チェリシアはいつもの魔力量でエアリアルボードを作り、それに重装備の騎士が何人乗れるか試してみた。
半日余裕で持つエアリアルボードは、重装備の騎士十三人が乗っても平気だった。そこにはチェリシアも乗っているので、相当の耐重量があるようだ。しかし、十四人目が乗ろうとすると見えない壁に阻まれて、騎士は尻餅をついていた。重量オーバーのようである。
しかし、さすがに騎士十三人は、絵面的にきつい。ゴテゴテの鎧に身を包んだ人間が所狭しと立っているのだ。実際、チェリシアは圧迫されていた。
「重量的にかなり乗れますが、快適の限界は六人くらいまでですね……」
実験を終えて、チェリシアは疲れた表情で結論を話す。
エアリアルボードの大きさは、円形ではあるものの、畳四畳半より少し広い程度だ。
座って半畳、寝て一畳。
ゴテゴテ重装備十三人で乗れば、窮屈なのは当たり前である。
ちなみにエアリアルボードの魔法は、ペシエラが同性能で、ロゼリアのは少し劣る。魔力総量の差であろう。とはいえ、重装備の騎士六人と術者の七人で、高さ五十メートルの空の旅ができるとは、かなり高性能と言えるだろう。
「ふむ、気に入ったぞ。必要な時は依頼するから、その時は頼むぞ」
女王はご満悦のようである。
障害物を無視して乗り越え、しかも雨風飛来物を防いで移動できる快適な乗り物なのだ。これを知ってしまえば、馬車など二度とは使えなくなってしまう。王族の乗る馬車は悪路であっても振動が少ない、サスペンションのよく効いた馬車ではあるが、エアリアルボードの前にはそれも霞んでしまったのだ。馬車は豪華に装飾を施しているが、それがどうしたと言わんばかりの快適さ。勝ち目は無かった。
このエアリアルボードの快適さには、オフライトやヴィオレスも驚いていた。一往復乗った事のあるアイリスが、兄に自慢げにしていたが、身バレは危険じゃなかったのだろうか?
その中で、アイリスはヴィオレスに疑問をぶつけてみる。
「ヴィオレス様は、神獣使いについて聞いた事はございますか?」
唐突な質問に、ヴィオレスは目を丸くした。何を言っているのか分からないといったところだろう。
「すまないけれど、聞いた事は無いですね」
ヴィオレスがそう答えれば、
「そうですか。それならいいです」
アイリスはばっさりとそこで言葉を切った。
どうやら兄は何も聞かされていないし、知らないのだろう。アイリスは次の行動に出る。
「ヴィオレス様、訓練の邪魔をして失礼しました」
ヴィオレスからあっさり離れると、アイリスは宰相のところに行く。
「失礼致します、宰相閣下」
「どうしたのかね?」
「神獣使いについて調べたいと思いますので、王家の書庫の利用を許可頂きたいのです」
アイリスの申し出に、宰相は大いに悩んだ。
アイリスは今は大罪人として平民落ちした立場だ。こうして王宮に立ち入れているのも、ロゼリアやチェリシアたちの功績あってのこと。そこで、宰相はこう結論を出す。
「あの三人のうち誰かと一緒であるなら、許可を出しましょう。ただし、己が立場をゆめゆめ忘れぬように」
「重々承知しております。……許可を下さり、感謝致します」
宰相の言葉に、アイリスは深々と頭を下げた。
神獣使いの子孫とはいっても、父方、母方、どちらからなのかが分からない。となれば、文献に頼らざるを得ないのは明白である。
というわけで、アイリスは国王たちにせがまれるロゼリアたちに、王家の書庫の事を報告に行く。同時に国王と女王の耳に入る事になったが、宰相が言った事と同じ事を言われ、ロゼリアたち三人に許可証が発行された。これで、アイリスは三人のうち誰かを伴えば、いつでも王家の書庫を閲覧できるようになったのだった。
この世界は謎が多過ぎる。改めて、知識の必要性を感じるロゼリアたちであった。
半日余裕で持つエアリアルボードは、重装備の騎士十三人が乗っても平気だった。そこにはチェリシアも乗っているので、相当の耐重量があるようだ。しかし、十四人目が乗ろうとすると見えない壁に阻まれて、騎士は尻餅をついていた。重量オーバーのようである。
しかし、さすがに騎士十三人は、絵面的にきつい。ゴテゴテの鎧に身を包んだ人間が所狭しと立っているのだ。実際、チェリシアは圧迫されていた。
「重量的にかなり乗れますが、快適の限界は六人くらいまでですね……」
実験を終えて、チェリシアは疲れた表情で結論を話す。
エアリアルボードの大きさは、円形ではあるものの、畳四畳半より少し広い程度だ。
座って半畳、寝て一畳。
ゴテゴテ重装備十三人で乗れば、窮屈なのは当たり前である。
ちなみにエアリアルボードの魔法は、ペシエラが同性能で、ロゼリアのは少し劣る。魔力総量の差であろう。とはいえ、重装備の騎士六人と術者の七人で、高さ五十メートルの空の旅ができるとは、かなり高性能と言えるだろう。
「ふむ、気に入ったぞ。必要な時は依頼するから、その時は頼むぞ」
女王はご満悦のようである。
障害物を無視して乗り越え、しかも雨風飛来物を防いで移動できる快適な乗り物なのだ。これを知ってしまえば、馬車など二度とは使えなくなってしまう。王族の乗る馬車は悪路であっても振動が少ない、サスペンションのよく効いた馬車ではあるが、エアリアルボードの前にはそれも霞んでしまったのだ。馬車は豪華に装飾を施しているが、それがどうしたと言わんばかりの快適さ。勝ち目は無かった。
このエアリアルボードの快適さには、オフライトやヴィオレスも驚いていた。一往復乗った事のあるアイリスが、兄に自慢げにしていたが、身バレは危険じゃなかったのだろうか?
その中で、アイリスはヴィオレスに疑問をぶつけてみる。
「ヴィオレス様は、神獣使いについて聞いた事はございますか?」
唐突な質問に、ヴィオレスは目を丸くした。何を言っているのか分からないといったところだろう。
「すまないけれど、聞いた事は無いですね」
ヴィオレスがそう答えれば、
「そうですか。それならいいです」
アイリスはばっさりとそこで言葉を切った。
どうやら兄は何も聞かされていないし、知らないのだろう。アイリスは次の行動に出る。
「ヴィオレス様、訓練の邪魔をして失礼しました」
ヴィオレスからあっさり離れると、アイリスは宰相のところに行く。
「失礼致します、宰相閣下」
「どうしたのかね?」
「神獣使いについて調べたいと思いますので、王家の書庫の利用を許可頂きたいのです」
アイリスの申し出に、宰相は大いに悩んだ。
アイリスは今は大罪人として平民落ちした立場だ。こうして王宮に立ち入れているのも、ロゼリアやチェリシアたちの功績あってのこと。そこで、宰相はこう結論を出す。
「あの三人のうち誰かと一緒であるなら、許可を出しましょう。ただし、己が立場をゆめゆめ忘れぬように」
「重々承知しております。……許可を下さり、感謝致します」
宰相の言葉に、アイリスは深々と頭を下げた。
神獣使いの子孫とはいっても、父方、母方、どちらからなのかが分からない。となれば、文献に頼らざるを得ないのは明白である。
というわけで、アイリスは国王たちにせがまれるロゼリアたちに、王家の書庫の事を報告に行く。同時に国王と女王の耳に入る事になったが、宰相が言った事と同じ事を言われ、ロゼリアたち三人に許可証が発行された。これで、アイリスは三人のうち誰かを伴えば、いつでも王家の書庫を閲覧できるようになったのだった。
この世界は謎が多過ぎる。改めて、知識の必要性を感じるロゼリアたちであった。
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