逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
116 / 483
第六章 一年次・夏

第114話 幻獣

しおりを挟む
 蒼鱗魚たちから呼び止められて、チェリシアたちは固まった。なぜ呼び止められたのかが分からないからだ。
『そこの変わったピンクの髪の子や』
「私?」
 蒼鱗魚が動かすヒレを見て、アイリスは自分が声を掛けられていると理解する。
『そうそう、君』
 蒼鱗魚は嬉しそうに言う。
 それにしても“”と言うあたり、この蒼鱗魚は色を認識している事になる。これは驚きだ。
『この世界には動物、魔物以外にも、幻獣や神獣が居るのは知っているかな?』
 唐突なファンタジーな単語に、チェリシアが少し興奮気味だ。どうどう、ペシエラが宥めようとしている。
「初耳です。あなた方が伝説の生き物とは聞いていますが」
『そうかい。まあ、あながち間違いじゃあないねえ』
 アイリスの返答に、蒼鱗魚たちはおかしそうに笑顔を見せる。
『私らは幻獣さね。そして、その変わったピンクの子は、それを使役する能力があるようだ』
 なんと蒼鱗魚たちは、自分たちが幻獣だと言い始めた。ペシエラやアイリスどころか、ゲームの世界と認識しているチェリシアも聞いた事のない話だった。
『なにさ、あんたが持ってるオレンジ色の球体、それを持たされている事がその証左さね』
「オレンジの球体? ……お父様に持たされた、使役の宝珠の事かしら」
 アイリスはエプロンからゴソゴソと、使役の宝珠と呼んだオレンジの球体を取り出した。
『そうそう、それさね』
『だが、あんたはそれが無くても、幻獣や神獣を使役できる。その球体はあくまでも補助じゃ。……まあ、言っても理屈じゃ理解はできんだろうが、わしらは確かに繋がりを感じられる』
 アイリスは驚いた。使役の宝珠を渡されたのは、ただの捨て駒だからと思っていた。まさか自分に、そんな能力があるなんて思わなかった。
『はっはっはっ、失われた技術だからねぇ、分からないなんて仕方のない事さね』
『だが、それが君の手に渡った事は、意味があったという事だ。どれ、手を出しなさい』
「こ、こう?」
 アイリスはチェリシアとペシエラの二人に確認を取ってから、蒼鱗魚たちに手をゆっくりと差し出す。
 すると蒼鱗魚たちは、その手に順番に口を当てる。その次の瞬間、眩いばかりの光が溢れる。
 しばらくして光が収まると、蒼鱗魚たちの姿はそこになかった。
「えっ、どうなったの?」
 そう言ったアイリスが、差し出していた右手の甲を見ると、そこには青色の魚の絵が浮き上がっていた。これにはチェリシアとペシエラは混乱している。
 ところが、アイリスは冷静というか静かだった。そして、ポツリと呟く。
召喚サモン蒼鱗魚サファイアフィッシュ
 その声に反応して魚の絵が光り輝き、目の前に再び、二匹の蒼鱗魚が姿を現した。
『うむ、やはり嬢ちゃんは古に失われた神獣使いの子孫じゃな』
『そのようですねえ』
 なにやら頷いている二匹。
「ちょっと待って? 私が……“神獣使い”?」
 アイリスが困惑の表情を浮かべるが、チェリシアとペシエラも反応できない。
 だが、二匹はそれに構わず話を続ける。
『さっきの召喚の呼び声がそれさね。自然と頭の中に浮かんできたろう?』
 アイリスはハッとする。
「た、確かに……」
 そう、誰に教えられたわけでもないのに、アイリスの頭の中にその言葉は確かに浮かんできたのだ。
『わしらを必要とする時に、その言葉を叫べばいい。わしらは、その声に応えようぞ』
「……はい。ありがとうございます」
 蒼鱗魚たちの言葉に、アイリスはきゅっと表情を引き締めた。
 この様子を見ていたチェリシアたち。
「お姉様、これはもうゲームのイベントだとか、そういう事は言ってられませんわね」
「ええ。もう元と違い過ぎて、どうしたらいいのか分からないわ」
 冷静に言うペシエラに対して、明らかに動揺しているチェリシア。
 元々、ペシエラという未来から逆行してきたチェリシアが居た時点で、本来の筋書きからは外れていた。
 しかし、ロゼリアとペシエラの居た世界線とも、アイリスを救った事で分岐してしまった。
 そもそもイベントは共通しながらも、規模が大げさになっていたりと違いはあったのだが、幻獣という未知の存在が出現した事で、本格的に未知の未来へと世界は動き出していた。
 もうゲームの知識が役に立たないかも知れない。
 言い知れない不安が、チェリシアを襲い始めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...