逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第六章 一年次・夏

第100話 湖畔の探索イベント

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 合宿は特にトラブルも起きずに、順調に日程を消化している。
 チェリシアとペシエラ姉妹はしょっちゅう食事の用意を手伝っており、ますます学生たちに話題を提供しまくっていた。ロゼリアには地味に頭の痛い案件である。
 ロゼリアたちは時々感知魔法を周囲に飛ばしているものの、怪しげな気配はなく、別荘に近付く者は、アクアマリン子爵の関係者くらいだった。
 そんな中、前回、そして、ゲームのイベントで魔物の襲撃が起きる、湖周辺の探索の日がやって来た。
 この探索では、馬車分けの面々を一班としてチームを組み、事前に教官が配置したポイントに向かって移動して、その場での課題をクリアしていくというもの。
 全部の課題の解決時間や正確さなどを競うとは言っているが、実は協力し合っても問題はない。個々の能力と臨機応変能力を見るものといった感じだ。
 ロゼリアたちの班は、チェリシア、プラティナ、シェイディアの四人。ペシエラたちの班は、グレイア、アイリス、男爵家令嬢二人の五人。物理と魔法を得意とする面々が含まれた、意外とバランスの取れたメンバーである。
 探索の開始前に、三人は揃って感知魔法を使って周囲を調べている。これといって怪しい反応はなく、魔物はその影すら感じられなかった。
 魔物の襲撃が起こる事が分かっているロゼリアたち三人が警戒する中、湖周辺の探索が開始する。
 あらかじめくじで決めた順番に、一班ずつ五分ずつスタートをずらしながら出発していく。順番はペシエラたちの班が最初の方、ロゼリアたちが最後あたり、シルヴァノたちが一番最後である。王族二人が居る班が一番最後とはなかなか斬新ではあるが、結果はくじ引きだったので仕方がない。一応、最後尾には教官と護衛が合わせて三名ほどついて行くそうだ。
 探索範囲は広く、かなり時間が掛かる事が予想される。途中には休憩ポイントが数カ所設定されており、昼食を取る事ができるようになっている。
 チェックポイントでは、知力や技術を問われる問題が用意されており、普通の学生たちの班は悪戦苦闘していた。ペシエラたちの前に出発した班は、ほとんどが二つめ三つめのチェックポイントで音を上げていた。いや、まだ序盤すぎるんですが?
「なになに……、『この看板から十メートル離れた的に魔法を当てよ』?」
 ペシエラは周囲を見る。すると、周りの木々の中に一本、何やら色とりどりの同心円の描かれた的が取り付けられた木を見つけるのだった。
「あれに魔法を当てればいいのですわね。お任せあれ」
 ペシエラはそう言って、他の面々を自分の後ろに下げさせる。そして、的に向けて圧縮された水魔法を放った。
 あまりの発射の反動に、ペシエラの腕が軽く跳ね上がる。次の瞬間、アイリスに持たせていたチェック用紙から光が放たれた。
 各班に配られた、チェックポイントの課題がクリアできたかを記録する用紙。探索が始まる前に、班の全員が触れるように言われていた紙である。おそらくは全員の魔力を記録する物だと思われるが、どういった仕組みになっているのかは誰にも分からないもので、学園に代々受け継がれている謎の技術である。
 それはともかくとして、アイリスに持たせていた紙はペシエラの班の物なので、先程の光はペシエラたちはこの課題をクリアした事を示すのだ。的を確認してみれば、確かに中心に小さな穴が開いていた。
 さて、他の班が手間取っていたのは、十メートル先に正確に魔法を飛ばす技術が足りなかったためである。まぐれ当たりもしないのだから相当である。
 そこでペシエラは、命中精度を上げる風魔法を、この課題に挑戦する学生に付与してあげた。そうしたら不思議な事に、手間取っていたすべての班が、あっさりと魔法を的に命中させたのである。
「こんなにも簡単に当たるのか?」
 魔法を使った学生たちは、目を白黒させている。
「勉強や剣術と同じですわ。日頃の研鑽あってこそ、魔法も精度が上がるというものですわよ。使えるだけでは、意味はありませんわ」
 ペシエラは、唇に人差し指を当てて意地悪そうに言う。
 目の前の少女は確かに十歳の少女だ。だが、その言葉には言い知れぬ説得力があった。そして、その場に居た学生たちは、たちまちペシエラの空気に飲まれていった。
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