逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
81 / 483
第五章 学園編

第79話 試験 その1

しおりを挟む
 現実をゲームのように動かすには、まず情報を集めて現状を把握しなければならない。
 ロゼリアは前回の経験とチェリシアからの情報で、そのような結論に至っていた。
 そのために、シアンをはじめとした使用人たちに、様々な情報収集を行わせている。
 チェリシアも現状把握の大切さは重々承知である。知っている異世界転生ものの物語を思い出しても、ヒロインに転生した事で慢心し、悪役令嬢の様に断罪されていったものが多いからだ。先人の失敗に学べるのは、後発の特典と言ってもいいだろう。本来の悪役令嬢とヒロインの二人の協力が得られるのも、きっと大きなアドバンテージだろう。
 それだけではなく、当然ながら、ロゼリアたちは自身以外にも、両親や商会に係わる人間の周囲の情報にも注意を配る。どこから状況が変化するか分からない。その変化が良い事でも悪い事でも、逐一把握する事にした。

 さて、翌日からは講義が始まった。
 ちょっとした情報だが、学園に通う多くの学生が、マゼンダ商会で扱う万年筆を持っている。ペンとインクの二つを持ち歩かず、しかもインクの漏れを気にしなくてよいという事で、価格もある程度抑えた事で、庶民まで含めてかなり浸透しているようだった。
 一時間の講義が終わると、座学の試験が始まる。
 学園に入学して二日目は、新入生たちの能力を測る試験が大量に待っている。それも、学園のあらましを語る講義を行った上で、昼休憩を挟んで怒涛の進行で、である。
 午前中は座学の試験。歴史と計算問題が中心で行われる。
 午後は魔法と武術の試験が行われる。
 これらは、新入生の実力を把握するためにいつも行われる事で、二年次以降の一応の指針とするためのものである。
 午前中の座学の試験は、ロゼリアたちにとっては簡単すぎた。未来の女王候補であるがために、既に叩き込まれた知識ばかりだし、商会の仕事を手伝う上で、計算に関してもかなり場数を踏んでいる。手応えがありすぎたのだ。
 座学の試験も終わり、昼休みになる。
 昼食は、学園の食堂で食べる。普段は使用人に用意してもらっている食事も、自分たちで配膳して片付けも行わなければならない。多くの貴族学生たちは、不満にしている様子が見受けられた。
 ロゼリアたちは、その様子を横目に見ながら、黙々と席まで食事を運んで食べ始める。侯爵令嬢と伯爵令嬢が文句も無く、自ら食事を運んでいる様子を見て、周りは小声で騒めき始めた。
 ロゼリアたちは、その様子を完全に無視している。
「ご一緒よろしいかしら?」
 ロゼリアたちに声を掛けてきたのは、ブラッサとグレイアだった。ドール商会の娘と取引先の娘という組み合わせである。
 特に断る理由も無いので、ロゼリアたちはそれを了承する。すると、二人は礼を言って席に座った。
「午後の魔法と武術の試験は、どうなさるおつもりですか?」
 ブラッサが尋ねてきた。
「私たちは両方とも受けるつもりですわ」
「あら、それは頼もしいわね」
 ロゼリアの返答に、意外と言わんばかりの顔で反応するブラッサ。
「私は魔法が使えなかったので、武術だけを受けましたね。そちらもからっきしでしたので、今は文官科で勉強しています」
 ブラッサの説明では、二年次以降は四つの科に分かれるらしい。
 魔法が得意な魔法科、武芸に秀でた武術科、頭脳労働をこなす文官科、そして、選択肢豊富な一般科の四つである。それぞれ専門的な事を学ぶようになるのだが、貴族は一般科を忌避しているらしい。
「まあ、平民の雑用係のようなイメージが強いからでしょうね」
「ええ、その通りです。就職先が使用人だったり、荷物の運搬だったりだとかしますからね」
 ブラッサは苦笑いを浮かべている。
 ちなみにロゼリアとペシエラチェリシアは、前回もゲームも魔法科であった。シナリオ通りに進めるのなら、魔法科一択である。だが、今回は三人とも少し悩んでいた。
(努力しすぎたせいで、できる事が増えてしまって、他にも興味が出てしまったのよね……)
 そう、単純にハイスペック化した事による弊害である。ならば選択肢の多い一般科もいいが、器用貧乏になる可能性があるので悩ましいところだ。
「私は武術科にするわ。あそこは鍛冶に関しての知識も手に入るからね」
 グレイアは澄んだ目で言い切る。さすがは鍛冶屋の娘である。
「お三方とも決めかねているようでしたら、試験を受けてからでも遅くないと思います。進路を決めるのは年次末試験の後ですから」
 そう、十一ヶ月も先の話なのだから、今決める必要はないのである。
「仰る通りですわね。では、そうさせて頂きますわ」
 ロゼリアが返答すれば、チェリシアとペシエラも頷いた。
「午後はまずは魔法試験ですので、いい結果を期待しています」
「ええ、是非とも楽しみにしていて下さいな」
 ブラッサとロゼリアの間に、火花が散った気がした。
 お昼を済ませた後は、年次の違うブラッサと別れ、魔法試験の会場へと向かうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...