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第四章 ロゼリア10歳
第64話 不思議な白
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チェリシアは一面白い世界に立っていた。
「ここは……?」
周りのどこを見ても、気持ち悪いまでに殺風景な白い世界。チェリシアは本当に気持ち悪くなりそうだった。
「私は死んだの?」
『あなたは死んだわけではないわ。○○○○さん』
不意に前世での名前を呼ばれ、振り返るチェリシア。
その視線の先には、一人の少女が立っていた。その姿は、チェリシアとよく似てはいるが、歳は少し上といった感じである。
『まさか、厄災の暗龍が不完全ながら顕現し、それを打ち倒してしまうとは思わなかったわ。それにしても、無茶苦茶な魔法の使い方ね』
目の前のほぼ同じ顔をした少女は、両手を腰に当ててため息をついている。
チェリシアは、容姿や声から目の前に居る人物が誰なのか分かって驚いている。信じられないが、それしか考えられない。
「……ゲームのチェリシア!」
『ゲームって何? でも、確かに私はチェリシアよ。本来の時間軸のね』
口を押さえて驚くチェリシアに、目の前のチェリシアはすました顔で反応していた。
「……という事は、ペシエラとも違う存在なのね」
『ペシエラって誰かしら。……あぁ、逆行して来たチェリシアね。癇癪持ちの』
腕を組んで頭を左右に振りながら、思い出すようにチェリシアは言う。
『あの子が素直に振る舞っているのは、私も信じられないわ。言葉遣いはかなり背伸びしているようだけど』
「あなたは、何もかもご存知なのね。神様かしら」
『私は神様ではないわ。近しい存在ではあるかも知れないけれど』
チェリシアは、ペシエラの普段の様子も詳しく知っているようだった。
ここまでのやり取りの中で、チェリシアにはある疑問が浮かぶ。そして、それを素直にぶつけてみる事にした。
「逆行したロゼリアやペシエラと同じ世界に私を呼び寄せたのは、あなたの仕業?」
チェリシアに問われ、チェリシアは顔を歪める。不意を突かれた質問だったようだ。
『正確には私ではないけれど、そうね、呼び寄せたようなものね』
チェリシアは、顎に手を当てて少し視線を下げた。
「少しずつだけど、前世の事も思い出してきたわ。この世界と似た世界で冒険するゲームの事だけは、最初から完全に覚えていたけど」
チェリシアは腰に手を当てて、頬を膨らませながら言っている。怒っているようだ。
「前世とは言ったけど、私は死んではいないわ。雷が落ちて家は火事になったけど、脱出には余裕があったもの」
なんと、チェリシアの前世は死んでいなかった。どうやら、火事で逃げ出そうとしたところを、この世界に呼び出されたようである。
「つまり、本来なら私は異世界転移のはず。でも、あなたが私にチェリシアの役割を果たさせるために細工をしたせいで、異世界転生となった、違う?」
チェリシアに指摘され、チェリシアはぎょっとして固まった。
しばらくの沈黙の後、チェリシアは大声で笑った。
『なかなか頭の切れる子ね。さすが独自の魔法を生み出してしまうだけの事はあるわね。その通りよ』
諦めたような顔をして、チェリシアはさらっとチェリシアの言い分を認めた。そして、腕組みをする。
『でも、本来の目的からしたらそんなのは些事よ。詳しい事はまだ語る時じゃないけれどね』
本来のチェリシアのイメージからかけ離れた態度と口調に、チェリシアは目の前のチェリシアがゲームとも違う事を認識し始めた。
『でも、ここであなたが死んでしまうと、それは大問題なの。こうしてあなたの前に現れたのは、それを防ぐためよ。干渉は御法度だけど、あなたはこちらの理から外れてるから問題は無いのよ』
腕を組んだまま、幾度となく頷きを入れるチェリシア。チェリシアの方は、その姿を黙って見ている。
『しかし、ロゼリア嬢と別のチェリシアが逆行して戻って来ているのは予想外だったわ。おそらく誰かが“時戻りの秘法”を使ったのでしょうね。その時、たまたまあなたを呼び寄せた世界とかぶったせいで、チェリシアがペシエラになったのでしょうね』
チェリシアは、一人うんうんと頷いている。
『でも、”時戻りの秘法”を使える人物が居た事も想定外ね。おかげでいろいろ計画が崩れそうだわ』
さらに加えて、ぶつぶつと独り言を始めた。
「計画って何なのよ! まったく、田舎で農業を営むつもりだったのに、先に計画を崩されたのは私の方だわ!」
一人で話を続けるチェリシアに、チェリシアは怒り心頭だった。しかし、その慟哭の様な叫びにもチェリシアは無関心だ。
『田舎で農業ねぇ。だったら、コーラル子爵領でやればいいじゃない。形だけの田舎の領地、耕作地なんていくらでも作れるわ』
実際その通りではあるものの、いくら何でも冷たすぎる反応である。やはり目の前のチェリシアはチェリシアであってチェリシアではない。それをはっきり認識できた。
「叱咤激励ありがとうございます。でしたら私は、現実世界に戻らさせて頂きます。できる限り、お世話になるつもりはありません」
どことなく不愉快なチェリシアは、そう啖呵を切った。
『ええ、それは是非とも楽しみにさせてもらうわ』
チェリシアは楽しそうに微笑んだ。そして、
『現実に戻りたいなら、私に背を向けてまっすぐ進みなさい。決して振り返ってはダメよ。振り返るという事は、あなたに迷いがあるっていう事だからね。振り返らずに進めば、光があなたを導くわ』
無表情で戻り方を教えてきた。
チェリシアは無言で頷き、背を向けてまっすぐ歩き始める。
チェリシアは、その後ろ姿を黙って見届けている。その姿がはっきりと見えなくなるまで。
『まったく、世話の焼ける子だわ。頑張るんだよ、○○○○』
そう言い残すと、かき消すようにその場を去るのだった。
「ここは……?」
周りのどこを見ても、気持ち悪いまでに殺風景な白い世界。チェリシアは本当に気持ち悪くなりそうだった。
「私は死んだの?」
『あなたは死んだわけではないわ。○○○○さん』
不意に前世での名前を呼ばれ、振り返るチェリシア。
その視線の先には、一人の少女が立っていた。その姿は、チェリシアとよく似てはいるが、歳は少し上といった感じである。
『まさか、厄災の暗龍が不完全ながら顕現し、それを打ち倒してしまうとは思わなかったわ。それにしても、無茶苦茶な魔法の使い方ね』
目の前のほぼ同じ顔をした少女は、両手を腰に当ててため息をついている。
チェリシアは、容姿や声から目の前に居る人物が誰なのか分かって驚いている。信じられないが、それしか考えられない。
「……ゲームのチェリシア!」
『ゲームって何? でも、確かに私はチェリシアよ。本来の時間軸のね』
口を押さえて驚くチェリシアに、目の前のチェリシアはすました顔で反応していた。
「……という事は、ペシエラとも違う存在なのね」
『ペシエラって誰かしら。……あぁ、逆行して来たチェリシアね。癇癪持ちの』
腕を組んで頭を左右に振りながら、思い出すようにチェリシアは言う。
『あの子が素直に振る舞っているのは、私も信じられないわ。言葉遣いはかなり背伸びしているようだけど』
「あなたは、何もかもご存知なのね。神様かしら」
『私は神様ではないわ。近しい存在ではあるかも知れないけれど』
チェリシアは、ペシエラの普段の様子も詳しく知っているようだった。
ここまでのやり取りの中で、チェリシアにはある疑問が浮かぶ。そして、それを素直にぶつけてみる事にした。
「逆行したロゼリアやペシエラと同じ世界に私を呼び寄せたのは、あなたの仕業?」
チェリシアに問われ、チェリシアは顔を歪める。不意を突かれた質問だったようだ。
『正確には私ではないけれど、そうね、呼び寄せたようなものね』
チェリシアは、顎に手を当てて少し視線を下げた。
「少しずつだけど、前世の事も思い出してきたわ。この世界と似た世界で冒険するゲームの事だけは、最初から完全に覚えていたけど」
チェリシアは腰に手を当てて、頬を膨らませながら言っている。怒っているようだ。
「前世とは言ったけど、私は死んではいないわ。雷が落ちて家は火事になったけど、脱出には余裕があったもの」
なんと、チェリシアの前世は死んでいなかった。どうやら、火事で逃げ出そうとしたところを、この世界に呼び出されたようである。
「つまり、本来なら私は異世界転移のはず。でも、あなたが私にチェリシアの役割を果たさせるために細工をしたせいで、異世界転生となった、違う?」
チェリシアに指摘され、チェリシアはぎょっとして固まった。
しばらくの沈黙の後、チェリシアは大声で笑った。
『なかなか頭の切れる子ね。さすが独自の魔法を生み出してしまうだけの事はあるわね。その通りよ』
諦めたような顔をして、チェリシアはさらっとチェリシアの言い分を認めた。そして、腕組みをする。
『でも、本来の目的からしたらそんなのは些事よ。詳しい事はまだ語る時じゃないけれどね』
本来のチェリシアのイメージからかけ離れた態度と口調に、チェリシアは目の前のチェリシアがゲームとも違う事を認識し始めた。
『でも、ここであなたが死んでしまうと、それは大問題なの。こうしてあなたの前に現れたのは、それを防ぐためよ。干渉は御法度だけど、あなたはこちらの理から外れてるから問題は無いのよ』
腕を組んだまま、幾度となく頷きを入れるチェリシア。チェリシアの方は、その姿を黙って見ている。
『しかし、ロゼリア嬢と別のチェリシアが逆行して戻って来ているのは予想外だったわ。おそらく誰かが“時戻りの秘法”を使ったのでしょうね。その時、たまたまあなたを呼び寄せた世界とかぶったせいで、チェリシアがペシエラになったのでしょうね』
チェリシアは、一人うんうんと頷いている。
『でも、”時戻りの秘法”を使える人物が居た事も想定外ね。おかげでいろいろ計画が崩れそうだわ』
さらに加えて、ぶつぶつと独り言を始めた。
「計画って何なのよ! まったく、田舎で農業を営むつもりだったのに、先に計画を崩されたのは私の方だわ!」
一人で話を続けるチェリシアに、チェリシアは怒り心頭だった。しかし、その慟哭の様な叫びにもチェリシアは無関心だ。
『田舎で農業ねぇ。だったら、コーラル子爵領でやればいいじゃない。形だけの田舎の領地、耕作地なんていくらでも作れるわ』
実際その通りではあるものの、いくら何でも冷たすぎる反応である。やはり目の前のチェリシアはチェリシアであってチェリシアではない。それをはっきり認識できた。
「叱咤激励ありがとうございます。でしたら私は、現実世界に戻らさせて頂きます。できる限り、お世話になるつもりはありません」
どことなく不愉快なチェリシアは、そう啖呵を切った。
『ええ、それは是非とも楽しみにさせてもらうわ』
チェリシアは楽しそうに微笑んだ。そして、
『現実に戻りたいなら、私に背を向けてまっすぐ進みなさい。決して振り返ってはダメよ。振り返るという事は、あなたに迷いがあるっていう事だからね。振り返らずに進めば、光があなたを導くわ』
無表情で戻り方を教えてきた。
チェリシアは無言で頷き、背を向けてまっすぐ歩き始める。
チェリシアは、その後ろ姿を黙って見届けている。その姿がはっきりと見えなくなるまで。
『まったく、世話の焼ける子だわ。頑張るんだよ、○○○○』
そう言い残すと、かき消すようにその場を去るのだった。
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