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第四章 ロゼリア10歳
第48話 エアリアルボード
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魔物氾濫に備えると言ったものの、そこまでの移動手段が難しかった。
ロゼリアとチェリシアが十歳、ペシエラが七歳とあっては、子どもだけで王都から出る事すら難しかった。どうにか気付かれずに王都から出る手段がまずは必須だった。
「テレポート、転移魔法はどうかしら」
チェリシアが明るい顔で言う。
テレポート、転移魔法は一瞬で別の地点へ移動する魔法だ。チェリシアは前世の子どもの頃に、超能力に憧れていたらしい。テレポートはその中でも特にしてみたいものの一つだった。
「さすがに長距離は難しいので、王都の外まで飛べればいいと思うわ。そこからは空を飛ぶというのもいいかと」
「飛翔魔法? あのねぇ、魔法の難易度と王都から目的地までの距離を忘れてない?」
ペシエラが辛辣に言う。
それもそうだろう。馬車を使って中継地点のシェリアまで十日。そこからカイスまで更に十日。直線距離に直してもとんでもない距離である。しかも、そこには標高差もある。どう考えても無謀だし無策だ。
「まあまあ見てて」
気にも留めないチェリシアは、気合い一つ入れると魔法を発動する。すると、チェリシアの姿がその場から掻き消えた。
「?!」
ロゼリアとペシエラが、言葉を失う。そして、その直後、チェリシアが再び部屋に突然現れた。
「実は、魔法が使えるようになってから練習してたの。魔法の無い世界の人間だったから、こういうのに憧れていたのよ」
満面の笑みだった。
「ちなみに飛んだ先は商会の屋根の上よ。場所のイメージさえできれば、短距離なら飛べるみたい。……シェリアは遠すぎて無理だったわ」
チェリシアは魔法の説明する。これにハッとしたのはロゼリアだった。
「魔力の伝播……。さっきの魔石の照明は応用なのね」
「難易度的には逆ですけどね。でも、さすがはロゼリア、その通りよ」
チェリシアは笑っていた。
「私も異世界転生者の例に漏れず、魔力に反則的な補正が掛かってるみたいなので、移動手段はお任せ下さい」
「ええ、頼むわ」
笑顔でチェリシアが言うが、ロゼリアは顔を引き攣らせながら返事をする。
表情を戻したロゼリアは、ペシエラを見る。
「チェリシアがああ言ってるから、私たちは魔物を倒せるように魔法の練習をしましょう」
「え、ええ。そうね……」
こうして、魔物氾濫に向けた対策を練る日々が始まった。
それから十日が過ぎた。
さすがにこれ以上遅れては、魔物氾濫に間に合わない。しかも、王都の中では派手な魔法は使えないので、魔物討伐の準備としては不十分だ。
「お待たせしたわね。チェリシアに言われた通り、着替えくらいは用意してきたわ」
ロゼリアは大きな鞄を持って、コーラル子爵邸を訪れた。
「おはようございます、ロゼリア」
チェリシアとペシエラの二人が、出迎えて挨拶をする。二人も大きな鞄を携えている。その荷物の量は、貴族の荷物としてはとても少ないものだ。
「それでは早速出掛けましょう。あと、食事は気にしないで下さい」
チェリシアが不思議な事を言う。ロゼリアたちがそれを聞くが、チェリシアははぐらかして答えようとしなかった。
仕方なく、三人は屋敷の裏手にやって来た。
「ここから王都の外まで飛びますので、私に掴まって下さい」
チェリシアがそう言えば、ロゼリアとペシエラは黙ってチェリシアの手を握った。
「では、いきます!」
チェリシアがそう言った次の瞬間、体が泡立つような感覚を覚える。そして、気が付くと目の前の遠くに、王都を囲む防壁が見えた。
「すごい、三人まとめて瞬時に移動できるなんて……」
ロゼリアは驚いていた。改めて確認するが、三人とも消えた物は何もなかった。無事に転移できたようである。
確認が終わると、すぐにチェリシアが次の行動に出る。
「それでは、移動手段を発表します!」
大きな声で宣言する。
チェリシアの体が光ったと思うと、三人の目の前になにやら空気の塊が現れた。
「空気の板よ。絨毯とか木板とか考えたんだけど、宙に浮かすには不自然だし、これなら空気の層が邪魔をして、下から見られても私たちを見る事はできないわ。ささっ、とりあえず乗って乗って」
チェリシアに急かされるように、ロゼリアとペシエラはエアリアルボードに乗り込む。不思議な事に、空気の塊なはずなのに、しっかりと足をつける事ができた。
「下に落ちる気配がないわ。それに不思議な浮遊感……。何とも言えないわね」
「なんて発想なの……。私には無理だわ」
ロゼリアとペシエラがそれぞれに感想を漏らす。その様子を見たチェリシアは、得意げだった。
「それでは、カイスに向けて出発進行~っ!」
チェリシアが叫べば、エアリアルボードは高く浮き上がり、あっという間に五十メートルくらいの高度まで上がった。
「ペシエラ、カイスの方向はどっち?」
「向こうの方よ」
「東北東ね、了解。出発!」
ペシエラに方角を確認したチェリシアは、魔力を込めてエアリアルボードを進ませ始めたのだった。
ロゼリアとチェリシアが十歳、ペシエラが七歳とあっては、子どもだけで王都から出る事すら難しかった。どうにか気付かれずに王都から出る手段がまずは必須だった。
「テレポート、転移魔法はどうかしら」
チェリシアが明るい顔で言う。
テレポート、転移魔法は一瞬で別の地点へ移動する魔法だ。チェリシアは前世の子どもの頃に、超能力に憧れていたらしい。テレポートはその中でも特にしてみたいものの一つだった。
「さすがに長距離は難しいので、王都の外まで飛べればいいと思うわ。そこからは空を飛ぶというのもいいかと」
「飛翔魔法? あのねぇ、魔法の難易度と王都から目的地までの距離を忘れてない?」
ペシエラが辛辣に言う。
それもそうだろう。馬車を使って中継地点のシェリアまで十日。そこからカイスまで更に十日。直線距離に直してもとんでもない距離である。しかも、そこには標高差もある。どう考えても無謀だし無策だ。
「まあまあ見てて」
気にも留めないチェリシアは、気合い一つ入れると魔法を発動する。すると、チェリシアの姿がその場から掻き消えた。
「?!」
ロゼリアとペシエラが、言葉を失う。そして、その直後、チェリシアが再び部屋に突然現れた。
「実は、魔法が使えるようになってから練習してたの。魔法の無い世界の人間だったから、こういうのに憧れていたのよ」
満面の笑みだった。
「ちなみに飛んだ先は商会の屋根の上よ。場所のイメージさえできれば、短距離なら飛べるみたい。……シェリアは遠すぎて無理だったわ」
チェリシアは魔法の説明する。これにハッとしたのはロゼリアだった。
「魔力の伝播……。さっきの魔石の照明は応用なのね」
「難易度的には逆ですけどね。でも、さすがはロゼリア、その通りよ」
チェリシアは笑っていた。
「私も異世界転生者の例に漏れず、魔力に反則的な補正が掛かってるみたいなので、移動手段はお任せ下さい」
「ええ、頼むわ」
笑顔でチェリシアが言うが、ロゼリアは顔を引き攣らせながら返事をする。
表情を戻したロゼリアは、ペシエラを見る。
「チェリシアがああ言ってるから、私たちは魔物を倒せるように魔法の練習をしましょう」
「え、ええ。そうね……」
こうして、魔物氾濫に向けた対策を練る日々が始まった。
それから十日が過ぎた。
さすがにこれ以上遅れては、魔物氾濫に間に合わない。しかも、王都の中では派手な魔法は使えないので、魔物討伐の準備としては不十分だ。
「お待たせしたわね。チェリシアに言われた通り、着替えくらいは用意してきたわ」
ロゼリアは大きな鞄を持って、コーラル子爵邸を訪れた。
「おはようございます、ロゼリア」
チェリシアとペシエラの二人が、出迎えて挨拶をする。二人も大きな鞄を携えている。その荷物の量は、貴族の荷物としてはとても少ないものだ。
「それでは早速出掛けましょう。あと、食事は気にしないで下さい」
チェリシアが不思議な事を言う。ロゼリアたちがそれを聞くが、チェリシアははぐらかして答えようとしなかった。
仕方なく、三人は屋敷の裏手にやって来た。
「ここから王都の外まで飛びますので、私に掴まって下さい」
チェリシアがそう言えば、ロゼリアとペシエラは黙ってチェリシアの手を握った。
「では、いきます!」
チェリシアがそう言った次の瞬間、体が泡立つような感覚を覚える。そして、気が付くと目の前の遠くに、王都を囲む防壁が見えた。
「すごい、三人まとめて瞬時に移動できるなんて……」
ロゼリアは驚いていた。改めて確認するが、三人とも消えた物は何もなかった。無事に転移できたようである。
確認が終わると、すぐにチェリシアが次の行動に出る。
「それでは、移動手段を発表します!」
大きな声で宣言する。
チェリシアの体が光ったと思うと、三人の目の前になにやら空気の塊が現れた。
「空気の板よ。絨毯とか木板とか考えたんだけど、宙に浮かすには不自然だし、これなら空気の層が邪魔をして、下から見られても私たちを見る事はできないわ。ささっ、とりあえず乗って乗って」
チェリシアに急かされるように、ロゼリアとペシエラはエアリアルボードに乗り込む。不思議な事に、空気の塊なはずなのに、しっかりと足をつける事ができた。
「下に落ちる気配がないわ。それに不思議な浮遊感……。何とも言えないわね」
「なんて発想なの……。私には無理だわ」
ロゼリアとペシエラがそれぞれに感想を漏らす。その様子を見たチェリシアは、得意げだった。
「それでは、カイスに向けて出発進行~っ!」
チェリシアが叫べば、エアリアルボードは高く浮き上がり、あっという間に五十メートルくらいの高度まで上がった。
「ペシエラ、カイスの方向はどっち?」
「向こうの方よ」
「東北東ね、了解。出発!」
ペシエラに方角を確認したチェリシアは、魔力を込めてエアリアルボードを進ませ始めたのだった。
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