逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
49 / 483
第四章 ロゼリア10歳

第47話 危険な未来

しおりを挟む
 魔物氾濫。原因不明の魔物の大発生であり、発生した土地は長らく使い物にならなくなるという災害だ。対策をしなければ溢れた魔物が街を襲い、多くの死傷者が出る。しかし、対処しようとすれば戦争レベルの兵力が必要となる。この世界の国家にとって、頭の痛い災害なのである。
「夏の一の月って、再来月じゃないの。ペシエラはなぜそんな事を知っているの?」
「思い出したのよ、逆行前の事を。あの災害がきっかけで、私は魔法を使えるようになったんだから」
 ペシエラの表情は暗い。コーラル領にどれ程の被害が出たのかが想像できる程だ。
「ペシエラが十歳? 三年後じゃないの?」
 チェリシアが理解が追いついていない顔で言う。それに対してペシエラはため息をつく。
「お姉様。でしてよ? つまり、今はお姉さまの話ですわ。お姉様が十歳の時、つまり今年の話ですわ」
「……思い出した。チェリシアから渡された、乙女ゲームのスチルイベントの一つだったかしら。主人公が攻略対象との話の中で、魔法を使えるようになった理由を話すイベントね」
 ロゼリアの説明を聞いて、チェリシアはあっと声を上げる。乙女ゲーム経験者本人が失念するとは、チェリシアは赤くなって申し訳なさそうに下を向いた。
「落ち込むのは後。ペシエラ、場所はどこなの?」
「コーラル領の内陸の村カイスよ。塩を作りに行ったシェリアとは遠く離れてるわ」
 王都からシェリアまでが十日。ペシエラの話では、カイスまでシェリアから更に十日ほど掛ける。どれだけ大きな領地なのだろうか。
「シェリアからカイスの村までは山を登るので、王都からシェリアまでの半分ほどの距離だけど、移動がきついのよ。急な斜面もあるから、道が右に左に蛇行しているもの」
 唐突だが、ここで王国の暦を説明しよう。
 王国の一年は十二月あり、気候による四つの季節を更に三等分して、それをひと月としている。ひと月は月によって異なるが、春は長くひと月三十日ある。夏と秋は短くてひと月二十日、冬も春と同じ三十日である。
 今は春の二の月の半ばなので、魔物氾濫まで最短で四十日。移動で半分取られるので、猶予は二十日間といったところだ。
 ペシエラの話を元に、ロゼリアは考える。国に訴えて兵士を用意するにも、確定要素が無く取り合ってもらえる可能性は低い。コーラル子爵の私兵では数が足りなさ過ぎる。どちらにしても、対処が始まるのは魔物氾濫が起こってからだ。それでは子爵領の一部が荒野と化してしまうのは避けられなかった。
「要は、チェリシアが魔物氾濫を沈黙させてしまえばいいわけね。だったら、私たち三人で何とかしてしまいましょう」
 ロゼリアが突拍子もない事を言い出した。
「あなたね、分かってるの? 魔物氾濫よ? 子どもでどうにかできるものじゃないわ」
「でも、前回はペシエラ一人で治めたのでしょう?」
 怒るペシエラに、表情の軽いロゼリアがあっけらかんと言う。
「あのね。前回だって発生から一週間後の事よ。領民の酷い有様を見て、何とかしなきゃって本気で思ったから、眠れる魔力が暴走して治ったんだから。軽々に言わないで」
 ペシエラが怒るのも無理はない。いくら学園で魔物討伐の経験があるとはいえ、魔物氾濫の規模は洒落にはならないものだ。普段見る事も無いような魔物だって紛れている。十歳と七歳の子どもに、どうこうできるものではないのだ。
「私だって行きますわ。せっかく商会もこれからだという時期に、魔物ごときに挫かれるわけには参りません!」
 ロゼリアの表情は真剣だ。
「それに、うまくいけば材料となる魔石が大量に手に入ります。止めても無駄です!」
 本気で言っている。危険極まりない魔物氾濫に立ち向かうと、侯爵令嬢は強い決意だった。
「そ、そうですね。“ピンチはチャンス“です」
 チェリシアも何を言っているんだと言わんばかりのセリフで、乗り気のようだった。
「そうとなれば、魔物を殲滅できるだけの魔法も考えませんとね。ハイビス! シアン!」
 唐突にマゼンダ家の使用人の名前を呼ぶロゼリア。しばらくして、
「お呼びでございますか、ロゼリア様」
 ハイビスとシアンの二人が現れる。
「私たち、しばらく商会の次の一手のために作戦会議を行います。ですので、しばらく商会の運営をお任せします。よろしいですか?」
「お嬢様のご用命とあらば」
 ロゼリアの言葉に、ハイビスとシアンは深く頭を下げる。
「では、ふた月ほど、お父様たちが戻られるまで頼みますよ」
「畏まりました」
 ハイビスとシアンは再度一礼すると、部屋を出て行く。
 二人を見送り、ロゼリアはチェリシアとペシエラを見る。
「さあ、忙しくなるわよ」
 魔物氾濫に向けて、気合いを入れるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...