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第四章 ロゼリア10歳
第47話 危険な未来
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魔物氾濫。原因不明の魔物の大発生であり、発生した土地は長らく使い物にならなくなるという災害だ。対策をしなければ溢れた魔物が街を襲い、多くの死傷者が出る。しかし、対処しようとすれば戦争レベルの兵力が必要となる。この世界の国家にとって、頭の痛い災害なのである。
「夏の一の月って、再来月じゃないの。ペシエラはなぜそんな事を知っているの?」
「思い出したのよ、逆行前の事を。あの災害がきっかけで、私は魔法を使えるようになったんだから」
ペシエラの表情は暗い。コーラル領にどれ程の被害が出たのかが想像できる程だ。
「ペシエラが十歳? 三年後じゃないの?」
チェリシアが理解が追いついていない顔で言う。それに対してペシエラはため息をつく。
「お姉様。私がチェリシアだった時の話でしてよ? つまり、今はお姉さまの話ですわ。お姉様が十歳の時、つまり今年の話ですわ」
「……思い出した。チェリシアから渡された、乙女ゲームのスチルイベントの一つだったかしら。主人公が攻略対象との話の中で、魔法を使えるようになった理由を話すイベントね」
ロゼリアの説明を聞いて、チェリシアはあっと声を上げる。乙女ゲーム経験者本人が失念するとは、チェリシアは赤くなって申し訳なさそうに下を向いた。
「落ち込むのは後。ペシエラ、場所はどこなの?」
「コーラル領の内陸の村カイスよ。塩を作りに行ったシェリアとは遠く離れてるわ」
王都からシェリアまでが十日。ペシエラの話では、カイスまでシェリアから更に十日ほど掛ける。どれだけ大きな領地なのだろうか。
「シェリアからカイスの村までは山を登るので、王都からシェリアまでの半分ほどの距離だけど、移動がきついのよ。急な斜面もあるから、道が右に左に蛇行しているもの」
唐突だが、ここで王国の暦を説明しよう。
王国の一年は十二月あり、気候による四つの季節を更に三等分して、それをひと月としている。ひと月は月によって異なるが、春は長くひと月三十日ある。夏と秋は短くてひと月二十日、冬も春と同じ三十日である。
今は春の二の月の半ばなので、魔物氾濫まで最短で四十日。移動で半分取られるので、猶予は二十日間といったところだ。
ペシエラの話を元に、ロゼリアは考える。国に訴えて兵士を用意するにも、確定要素が無く取り合ってもらえる可能性は低い。コーラル子爵の私兵では数が足りなさ過ぎる。どちらにしても、対処が始まるのは魔物氾濫が起こってからだ。それでは子爵領の一部が荒野と化してしまうのは避けられなかった。
「要は、チェリシアが魔物氾濫を沈黙させてしまえばいいわけね。だったら、私たち三人で何とかしてしまいましょう」
ロゼリアが突拍子もない事を言い出した。
「あなたね、分かってるの? 魔物氾濫よ? 子どもでどうにかできるものじゃないわ」
「でも、前回はペシエラ一人で治めたのでしょう?」
怒るペシエラに、表情の軽いロゼリアがあっけらかんと言う。
「あのね。前回だって発生から一週間後の事よ。領民の酷い有様を見て、何とかしなきゃって本気で思ったから、眠れる魔力が暴走して治ったんだから。軽々に言わないで」
ペシエラが怒るのも無理はない。いくら学園で魔物討伐の経験があるとはいえ、魔物氾濫の規模は洒落にはならないものだ。普段見る事も無いような魔物だって紛れている。十歳と七歳の子どもに、どうこうできるものではないのだ。
「私だって行きますわ。せっかく商会もこれからだという時期に、魔物ごときに挫かれるわけには参りません!」
ロゼリアの表情は真剣だ。
「それに、うまくいけば材料となる魔石が大量に手に入ります。止めても無駄です!」
本気で言っている。危険極まりない魔物氾濫に立ち向かうと、侯爵令嬢は強い決意だった。
「そ、そうですね。“ピンチはチャンス“です」
チェリシアも何を言っているんだと言わんばかりのセリフで、乗り気のようだった。
「そうとなれば、魔物を殲滅できるだけの魔法も考えませんとね。ハイビス! シアン!」
唐突にマゼンダ家の使用人の名前を呼ぶロゼリア。しばらくして、
「お呼びでございますか、ロゼリア様」
ハイビスとシアンの二人が現れる。
「私たち、しばらく商会の次の一手のために作戦会議を行います。ですので、しばらく商会の運営をお任せします。よろしいですか?」
「お嬢様のご用命とあらば」
ロゼリアの言葉に、ハイビスとシアンは深く頭を下げる。
「では、ふた月ほど、お父様たちが戻られるまで頼みますよ」
「畏まりました」
ハイビスとシアンは再度一礼すると、部屋を出て行く。
二人を見送り、ロゼリアはチェリシアとペシエラを見る。
「さあ、忙しくなるわよ」
魔物氾濫に向けて、気合いを入れるのであった。
「夏の一の月って、再来月じゃないの。ペシエラはなぜそんな事を知っているの?」
「思い出したのよ、逆行前の事を。あの災害がきっかけで、私は魔法を使えるようになったんだから」
ペシエラの表情は暗い。コーラル領にどれ程の被害が出たのかが想像できる程だ。
「ペシエラが十歳? 三年後じゃないの?」
チェリシアが理解が追いついていない顔で言う。それに対してペシエラはため息をつく。
「お姉様。私がチェリシアだった時の話でしてよ? つまり、今はお姉さまの話ですわ。お姉様が十歳の時、つまり今年の話ですわ」
「……思い出した。チェリシアから渡された、乙女ゲームのスチルイベントの一つだったかしら。主人公が攻略対象との話の中で、魔法を使えるようになった理由を話すイベントね」
ロゼリアの説明を聞いて、チェリシアはあっと声を上げる。乙女ゲーム経験者本人が失念するとは、チェリシアは赤くなって申し訳なさそうに下を向いた。
「落ち込むのは後。ペシエラ、場所はどこなの?」
「コーラル領の内陸の村カイスよ。塩を作りに行ったシェリアとは遠く離れてるわ」
王都からシェリアまでが十日。ペシエラの話では、カイスまでシェリアから更に十日ほど掛ける。どれだけ大きな領地なのだろうか。
「シェリアからカイスの村までは山を登るので、王都からシェリアまでの半分ほどの距離だけど、移動がきついのよ。急な斜面もあるから、道が右に左に蛇行しているもの」
唐突だが、ここで王国の暦を説明しよう。
王国の一年は十二月あり、気候による四つの季節を更に三等分して、それをひと月としている。ひと月は月によって異なるが、春は長くひと月三十日ある。夏と秋は短くてひと月二十日、冬も春と同じ三十日である。
今は春の二の月の半ばなので、魔物氾濫まで最短で四十日。移動で半分取られるので、猶予は二十日間といったところだ。
ペシエラの話を元に、ロゼリアは考える。国に訴えて兵士を用意するにも、確定要素が無く取り合ってもらえる可能性は低い。コーラル子爵の私兵では数が足りなさ過ぎる。どちらにしても、対処が始まるのは魔物氾濫が起こってからだ。それでは子爵領の一部が荒野と化してしまうのは避けられなかった。
「要は、チェリシアが魔物氾濫を沈黙させてしまえばいいわけね。だったら、私たち三人で何とかしてしまいましょう」
ロゼリアが突拍子もない事を言い出した。
「あなたね、分かってるの? 魔物氾濫よ? 子どもでどうにかできるものじゃないわ」
「でも、前回はペシエラ一人で治めたのでしょう?」
怒るペシエラに、表情の軽いロゼリアがあっけらかんと言う。
「あのね。前回だって発生から一週間後の事よ。領民の酷い有様を見て、何とかしなきゃって本気で思ったから、眠れる魔力が暴走して治ったんだから。軽々に言わないで」
ペシエラが怒るのも無理はない。いくら学園で魔物討伐の経験があるとはいえ、魔物氾濫の規模は洒落にはならないものだ。普段見る事も無いような魔物だって紛れている。十歳と七歳の子どもに、どうこうできるものではないのだ。
「私だって行きますわ。せっかく商会もこれからだという時期に、魔物ごときに挫かれるわけには参りません!」
ロゼリアの表情は真剣だ。
「それに、うまくいけば材料となる魔石が大量に手に入ります。止めても無駄です!」
本気で言っている。危険極まりない魔物氾濫に立ち向かうと、侯爵令嬢は強い決意だった。
「そ、そうですね。“ピンチはチャンス“です」
チェリシアも何を言っているんだと言わんばかりのセリフで、乗り気のようだった。
「そうとなれば、魔物を殲滅できるだけの魔法も考えませんとね。ハイビス! シアン!」
唐突にマゼンダ家の使用人の名前を呼ぶロゼリア。しばらくして、
「お呼びでございますか、ロゼリア様」
ハイビスとシアンの二人が現れる。
「私たち、しばらく商会の次の一手のために作戦会議を行います。ですので、しばらく商会の運営をお任せします。よろしいですか?」
「お嬢様のご用命とあらば」
ロゼリアの言葉に、ハイビスとシアンは深く頭を下げる。
「では、ふた月ほど、お父様たちが戻られるまで頼みますよ」
「畏まりました」
ハイビスとシアンは再度一礼すると、部屋を出て行く。
二人を見送り、ロゼリアはチェリシアとペシエラを見る。
「さあ、忙しくなるわよ」
魔物氾濫に向けて、気合いを入れるのであった。
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