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第三章 ロゼリア9歳
第40話 装飾
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「ほおほお、これはなかなか素晴らしいな!」
紙にペンを走らせるだけで、スラスラと文字が書ける事に目を輝かせる国王陛下。まるで子どものようである。
「魔石を使っていると聞かされても、これはなかなか不思議な光景よのう」
女王陛下もその様子を食い入るように見ている。
「しかし、ペン先が物に当たるとインクが出てしまうのでは、持ち歩きができぬのではないのか?」
女王陛下から指摘が入る。
しかし、ロゼリアたちは動じない。これは想定内の指摘だからだ。ここで動いたのはペシエラ。
「恐れ入ります、女王陛下。そのために、こちらのペンカバーも同時に作成しております。こちらをペン先にかぶせる事で、ペン先がどこにも触れず、インクが出る事を防ぐ事ができます」
スラスラと説明している。
実はこれは事前に行った役割分担である。発案はチェリシア、魔法の行使はロゼリアで、ペシエラだけが浮いてしまっていたからだ。ここで何もさせなければ、仲間はずれと感じて性格が歪むかも知れない、そういう懸念がロゼリアにはあった。
しかし、予想外にペシエラも積極的に開発に関わってきた。それが万年筆のデザインだ。形状や装飾など、ペシエラには予想外の才能があった。
そういえば、前回のチェリシア、つまり現在のペシエラは芸術系の成績は良かった。あと、料理の腕も確かだった。さすが過酷な地を治める貧乏子爵の令嬢。なんとかして領地を保とうとした結果なのだろう。
だが、前回はそれが悪用されてしまった。捏造された書類は、ペシエラが拵えたもので、ロゼリアの筆跡やマゼンダ侯爵家の紋を偽造するという暴挙に活かされてしまったのだった。
しかし、今回はキチンと良い方向で活かされている。万年筆の筒の持ちやすさと男女それぞれの好むような装飾を施し、かぶせる蓋にしても貴族の好むような高級感溢れる装飾がされている。もちろん、庶民用の装飾の少ないもしくは無い物も用意されてはいるが。ペシエラはこれをいとも容易くやってのけたのだ。
カーマイルの使った物は試用のため無装飾だったが、さすがに献上用ともなればそうもいかなかったから仕方がない。これも、ペシエラは文句の一つもなくこなしていた。
「ペシエラって、実は器用だったのね」
「うちの貧乏具合を考えたら、やむを得なかったのよ」
万年筆の作製中には、こんな会話も飛んだくらいだった。
しかし、ペシエラの腕前は確かで、今は女王陛下の手にある万年筆の飾り細工はとても細かい。ペンとしての強度を保ち、手に触れる部分は滑らかだが滑りにくく、それでいて気品に満ちたデザインとなっている。ペシエラは、この装飾をペンカバーを含めて三日で完成させていた。
「書きやすさもそうだが、この万年筆の握りやすさといい、この装飾といい、腕の良い職人も居たものだな」
女王陛下もべた褒めである。
握りやすさに関しては、万年筆の形状に関してはチェリシアが描いた絵を元に詰め、ヴァミリオとカーマイルからの感想を取り込んで最終的に形にした。それも踏まえ、ペシエラの装飾もよく考えられたものだ。装飾を入れる位置は、チェリシアとペシエラで相談をしたらしいので、これは二人の功績だった。
女王陛下が褒めてくれるので、自分たち三人の事を言いたくてたまらなくなったが、ロゼリアは二人を制して黙っておく事にした。建前上の理由は、職人の意向という事にしておいた。すると、女王陛下は残念そうな顔をしていた。
「そうか、これほどまでに見事な物、褒美を取らせても良いと思うたのに……」
ペシエラの耳がピクリと動く。しかし、手早くロゼリアが動きを制する。
「恐れ入りますが、女王陛下。職人とは頑固なものなのです。しかし、折角お言葉を賜りましたので、後ほど職人に伝えておきます」
ロゼリアはそう言って、にこりと微笑んだ。そして、間髪入れずに、
「実は、殿下にも一本ご用意させて頂いております。どうぞ、ご改め下さい」
ロゼリアは発言すると、包みをチェリシアから受け取り、中身を取り出した。
女王陛下が「確認致せ」と近衛兵に命令すると、ロゼリアの元にやって来た兵が万年筆と木箱を確認する。
「問題ありません」
「そうか。ならば、こちらまで持って参れ」
「はっ!」
手元に来た万年筆を、国王陛下と女王陛下が確認する。王族用と思われる豪華な装飾を施されてはいるが、先に渡された一本に比べれば華やかさは劣る物だった。
「はて、少し質素のようだが、どういう事だ?」
国王陛下が理由を尋ねる。
「はい。後に学園に入られた時の事も考え、持ち運びを妨げないように飾りを抑えました。手や服に引っ掛かる事を憂慮しての事でございます」
ロゼリアはスラスラと答えた。
「そこまで考えておるとはな。この万年筆とやら、王宮でも数十本購入させてもらおう。納期は一週間、できるな?」
「はい、もちろんですとも」
女王陛下からの注文に、ロゼリアたち三人は笑顔で答える。その後ろで、父親たちが胃を痛めているとも知らず。
こうして、マゼンダ商会に新たな商品“万年筆”が加わるのであった。
紙にペンを走らせるだけで、スラスラと文字が書ける事に目を輝かせる国王陛下。まるで子どものようである。
「魔石を使っていると聞かされても、これはなかなか不思議な光景よのう」
女王陛下もその様子を食い入るように見ている。
「しかし、ペン先が物に当たるとインクが出てしまうのでは、持ち歩きができぬのではないのか?」
女王陛下から指摘が入る。
しかし、ロゼリアたちは動じない。これは想定内の指摘だからだ。ここで動いたのはペシエラ。
「恐れ入ります、女王陛下。そのために、こちらのペンカバーも同時に作成しております。こちらをペン先にかぶせる事で、ペン先がどこにも触れず、インクが出る事を防ぐ事ができます」
スラスラと説明している。
実はこれは事前に行った役割分担である。発案はチェリシア、魔法の行使はロゼリアで、ペシエラだけが浮いてしまっていたからだ。ここで何もさせなければ、仲間はずれと感じて性格が歪むかも知れない、そういう懸念がロゼリアにはあった。
しかし、予想外にペシエラも積極的に開発に関わってきた。それが万年筆のデザインだ。形状や装飾など、ペシエラには予想外の才能があった。
そういえば、前回のチェリシア、つまり現在のペシエラは芸術系の成績は良かった。あと、料理の腕も確かだった。さすが過酷な地を治める貧乏子爵の令嬢。なんとかして領地を保とうとした結果なのだろう。
だが、前回はそれが悪用されてしまった。捏造された書類は、ペシエラが拵えたもので、ロゼリアの筆跡やマゼンダ侯爵家の紋を偽造するという暴挙に活かされてしまったのだった。
しかし、今回はキチンと良い方向で活かされている。万年筆の筒の持ちやすさと男女それぞれの好むような装飾を施し、かぶせる蓋にしても貴族の好むような高級感溢れる装飾がされている。もちろん、庶民用の装飾の少ないもしくは無い物も用意されてはいるが。ペシエラはこれをいとも容易くやってのけたのだ。
カーマイルの使った物は試用のため無装飾だったが、さすがに献上用ともなればそうもいかなかったから仕方がない。これも、ペシエラは文句の一つもなくこなしていた。
「ペシエラって、実は器用だったのね」
「うちの貧乏具合を考えたら、やむを得なかったのよ」
万年筆の作製中には、こんな会話も飛んだくらいだった。
しかし、ペシエラの腕前は確かで、今は女王陛下の手にある万年筆の飾り細工はとても細かい。ペンとしての強度を保ち、手に触れる部分は滑らかだが滑りにくく、それでいて気品に満ちたデザインとなっている。ペシエラは、この装飾をペンカバーを含めて三日で完成させていた。
「書きやすさもそうだが、この万年筆の握りやすさといい、この装飾といい、腕の良い職人も居たものだな」
女王陛下もべた褒めである。
握りやすさに関しては、万年筆の形状に関してはチェリシアが描いた絵を元に詰め、ヴァミリオとカーマイルからの感想を取り込んで最終的に形にした。それも踏まえ、ペシエラの装飾もよく考えられたものだ。装飾を入れる位置は、チェリシアとペシエラで相談をしたらしいので、これは二人の功績だった。
女王陛下が褒めてくれるので、自分たち三人の事を言いたくてたまらなくなったが、ロゼリアは二人を制して黙っておく事にした。建前上の理由は、職人の意向という事にしておいた。すると、女王陛下は残念そうな顔をしていた。
「そうか、これほどまでに見事な物、褒美を取らせても良いと思うたのに……」
ペシエラの耳がピクリと動く。しかし、手早くロゼリアが動きを制する。
「恐れ入りますが、女王陛下。職人とは頑固なものなのです。しかし、折角お言葉を賜りましたので、後ほど職人に伝えておきます」
ロゼリアはそう言って、にこりと微笑んだ。そして、間髪入れずに、
「実は、殿下にも一本ご用意させて頂いております。どうぞ、ご改め下さい」
ロゼリアは発言すると、包みをチェリシアから受け取り、中身を取り出した。
女王陛下が「確認致せ」と近衛兵に命令すると、ロゼリアの元にやって来た兵が万年筆と木箱を確認する。
「問題ありません」
「そうか。ならば、こちらまで持って参れ」
「はっ!」
手元に来た万年筆を、国王陛下と女王陛下が確認する。王族用と思われる豪華な装飾を施されてはいるが、先に渡された一本に比べれば華やかさは劣る物だった。
「はて、少し質素のようだが、どういう事だ?」
国王陛下が理由を尋ねる。
「はい。後に学園に入られた時の事も考え、持ち運びを妨げないように飾りを抑えました。手や服に引っ掛かる事を憂慮しての事でございます」
ロゼリアはスラスラと答えた。
「そこまで考えておるとはな。この万年筆とやら、王宮でも数十本購入させてもらおう。納期は一週間、できるな?」
「はい、もちろんですとも」
女王陛下からの注文に、ロゼリアたち三人は笑顔で答える。その後ろで、父親たちが胃を痛めているとも知らず。
こうして、マゼンダ商会に新たな商品“万年筆”が加わるのであった。
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