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第三章 ロゼリア9歳
第38話 ヒントは兄
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突然の扉を叩く音に、ロゼリアたちは警戒を強める。しかし、そこに居たのは予想外な人物だった。
「やあ、ロゼリア。ここに居たんだね」
「お、お兄様。どうしてコーラル邸に?」
立っていたのは、ロゼリアの兄のカーマイルだった。コーラル子爵の息女たちと仲の良いロゼリアならともかく、交友の無いカーマイルが居る事は誰が予想できたであろう。
しかし、カーマイルから発せられた言葉は予想外なものだった。
「社会勉強の一環として、コーラル子爵プラウス様との交渉を任されたんだ。もちろん、最終的な擦り合わせは父上がされるけどね」
「お兄様、それは名誉ですが大変なのでは?」
ロゼリアは驚きながらも冷静に言葉を返す。
「もちろん、分かってはいるさ。でも、俺より年下のロゼリアだけに任せているのも、それはそれで問題だろう?」
カーマイルは笑って言うが、どこか違和感のある笑顔だ。
カーマイルはロゼリアより三つ上の十二歳だ。来年には王都の学園に通う事になる。そのため、時間の許す限りに社会勉強をしている最中で、この日も商会の手伝いとしてコーラル子爵邸にやって来ていたのだ。
「確かにそうですわね、お兄様。そうなると、お兄様が交渉しやすいように、もっと商品開発を頑張りませんとね」
「おいおい、これ以上忙しくするのかい? 来年は学園に入ってしまうんだぞ?」
ロゼリアが茶化すように言えば、カーマイルも笑いながら文句を言ってきた。
「ええ。ですので、学生向けにも何か作れましたらと思いましてね!」
ロゼリアは右手を強く握りしめて、気合いの入った声で宣言する。
「お兄様に持たせて試させて頂いて、そして、私たちが入る頃には定番化させる。そうよ、これだわ」
「おいおい、俺は実験台かよ」
「人聞きが悪いですわ。危険な物はもちろん作りませんから、使い心地を聞かせてもらえればいいのです」
ロゼリアとカーマイルの兄妹の会話だが、試供品どころかアイディアも無いのに、既に実用段階の話になっている。これには、チェリシアとペシエラの二人がツッコミを入れる。
「ロゼリア様、いくらなんでも急き過ぎです」
「そうよ。まだ何の案も無いのに、飛躍しすぎよ」
それに対して、ロゼリアは小悪魔のような表情を浮かべて笑う。それを見たペシエラが、特に呆れていた。
「とりあえずお兄様、コーラル領からはオリーブオイルをたくさん仕入れるようにしておいて下さい。石けんや調理油として結構使いますのでね」
「ああ、分かった。頑張ってみるよ」
ロゼリアが希望を言うと、カーマイルは少しげんなりした様子で軽く頷いて部屋を出ていった。
その様子を見送ったロゼリアは、
「お兄様は、まだ覚悟が足りませんね」
あまりにげんなりとしていたのでダメ出しをしていた。
「もう、ロゼリアったら遠慮がないのね」
呆れ返るロゼリアを見て、チェリシアは笑いを堪えかねていた。
「お兄様は侯爵家の跡取りなのです。お父様の仕事を引き継ぐとなると、多少なりとも無茶振りをされるのだから、これくらいは普通なのよ」
ロゼリアは怒っていた。
「跡取りって大変なのね」
ペシエラが同情してきた。本来は一人娘であった元チェリシアなので、跡取り問題は関係のある話だった。前回はそれを、ロゼリアを罠に嵌める事で玉の輿に乗り、回避していたのだが。
そんなわけで、ロゼリアたちは再び議論に入る。次の商品開発を何にするかという点は、先程入ってきたカーマイルが参考となった。
その日は結局夜まで議論が続く事が予想されたので、ロゼリアはシアンを通じて、マゼンダ侯爵にコーラル邸に一泊する事を伝えた。
「なるほど、それがあれば持ち運ぶ物が一つ減りますね」
「でも、調節が難しそうじゃない? お姉様のアイディア自体は興味深いけど、魔石も加工しないといけないし、手間が掛かりそうだわ」
チェリシアの部屋では、三人で新しい商品の話し合いが続いている。
「それを何とかするのが、楽しいのよ。ペシエラ、明日はお父様に掛け合って、素材を揃えましょう」
頬に人差し指を添えて、チェリシアはにっこりとして自信たっぷりに言う。
それにしても、チェリシアは一体何を思いついたのだろうか。
「やあ、ロゼリア。ここに居たんだね」
「お、お兄様。どうしてコーラル邸に?」
立っていたのは、ロゼリアの兄のカーマイルだった。コーラル子爵の息女たちと仲の良いロゼリアならともかく、交友の無いカーマイルが居る事は誰が予想できたであろう。
しかし、カーマイルから発せられた言葉は予想外なものだった。
「社会勉強の一環として、コーラル子爵プラウス様との交渉を任されたんだ。もちろん、最終的な擦り合わせは父上がされるけどね」
「お兄様、それは名誉ですが大変なのでは?」
ロゼリアは驚きながらも冷静に言葉を返す。
「もちろん、分かってはいるさ。でも、俺より年下のロゼリアだけに任せているのも、それはそれで問題だろう?」
カーマイルは笑って言うが、どこか違和感のある笑顔だ。
カーマイルはロゼリアより三つ上の十二歳だ。来年には王都の学園に通う事になる。そのため、時間の許す限りに社会勉強をしている最中で、この日も商会の手伝いとしてコーラル子爵邸にやって来ていたのだ。
「確かにそうですわね、お兄様。そうなると、お兄様が交渉しやすいように、もっと商品開発を頑張りませんとね」
「おいおい、これ以上忙しくするのかい? 来年は学園に入ってしまうんだぞ?」
ロゼリアが茶化すように言えば、カーマイルも笑いながら文句を言ってきた。
「ええ。ですので、学生向けにも何か作れましたらと思いましてね!」
ロゼリアは右手を強く握りしめて、気合いの入った声で宣言する。
「お兄様に持たせて試させて頂いて、そして、私たちが入る頃には定番化させる。そうよ、これだわ」
「おいおい、俺は実験台かよ」
「人聞きが悪いですわ。危険な物はもちろん作りませんから、使い心地を聞かせてもらえればいいのです」
ロゼリアとカーマイルの兄妹の会話だが、試供品どころかアイディアも無いのに、既に実用段階の話になっている。これには、チェリシアとペシエラの二人がツッコミを入れる。
「ロゼリア様、いくらなんでも急き過ぎです」
「そうよ。まだ何の案も無いのに、飛躍しすぎよ」
それに対して、ロゼリアは小悪魔のような表情を浮かべて笑う。それを見たペシエラが、特に呆れていた。
「とりあえずお兄様、コーラル領からはオリーブオイルをたくさん仕入れるようにしておいて下さい。石けんや調理油として結構使いますのでね」
「ああ、分かった。頑張ってみるよ」
ロゼリアが希望を言うと、カーマイルは少しげんなりした様子で軽く頷いて部屋を出ていった。
その様子を見送ったロゼリアは、
「お兄様は、まだ覚悟が足りませんね」
あまりにげんなりとしていたのでダメ出しをしていた。
「もう、ロゼリアったら遠慮がないのね」
呆れ返るロゼリアを見て、チェリシアは笑いを堪えかねていた。
「お兄様は侯爵家の跡取りなのです。お父様の仕事を引き継ぐとなると、多少なりとも無茶振りをされるのだから、これくらいは普通なのよ」
ロゼリアは怒っていた。
「跡取りって大変なのね」
ペシエラが同情してきた。本来は一人娘であった元チェリシアなので、跡取り問題は関係のある話だった。前回はそれを、ロゼリアを罠に嵌める事で玉の輿に乗り、回避していたのだが。
そんなわけで、ロゼリアたちは再び議論に入る。次の商品開発を何にするかという点は、先程入ってきたカーマイルが参考となった。
その日は結局夜まで議論が続く事が予想されたので、ロゼリアはシアンを通じて、マゼンダ侯爵にコーラル邸に一泊する事を伝えた。
「なるほど、それがあれば持ち運ぶ物が一つ減りますね」
「でも、調節が難しそうじゃない? お姉様のアイディア自体は興味深いけど、魔石も加工しないといけないし、手間が掛かりそうだわ」
チェリシアの部屋では、三人で新しい商品の話し合いが続いている。
「それを何とかするのが、楽しいのよ。ペシエラ、明日はお父様に掛け合って、素材を揃えましょう」
頬に人差し指を添えて、チェリシアはにっこりとして自信たっぷりに言う。
それにしても、チェリシアは一体何を思いついたのだろうか。
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