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第三章 ロゼリア9歳
第30話 油を使ってみる
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後日の事。
コーラル子爵邸の庭に、大量の木箱が置かれていた。中身を確認したチェリシアが声ならぬ悲鳴を上げている。
木箱の中身はそれぞれの領地から運ばれてきた、油の原料となる木の実だった。
「ああぁ、これは椿、こっちは菜種、それにオリーブ。すごいわ」
チェリシアは感動で打ち震えていた。
「喜んでくれてありがたいけど、これからどうやって油を取るの?」
ロゼリアが問い掛ければ、チェリシアは木の実を見ながら、
「物によって取り方は変わるわ。菜種は種を煎って搾るし、椿は種を取り除いて実を搾るし。ただ、どれにしても力の要る重労働よ」
油の取り方について説明している。
「あと、油ってそこそこ温度は要るけど燃えやすいの。取り扱いには要注意よ」
「えっ?!」
ロゼリアが髪を持って驚く。
「火さえ近付けなければ燃える事はないわ。温度としては二、三百度必要だし、瞬間的にそんな温度に達するのは魔法くらいなものよ」
チェリシアは、菜種を取り出しながら説明を続けている。
平鍋一杯程度の菜種が集まったところで、それを火にかけて煎る。
「煎って水分を飛ばした後に、圧力を掛けて搾るの。これで油の素ができるわ」
チェリシアは煎った菜種を、このためにロゼリアに頼んで新調した石臼へと流し込んでいく。それを屋敷の料理人に頼んで挽いてもらう。すると、石臼の隙間からじわーっと液体が漏れ出てきた。
「これが菜種油の素。これを濾して余計な物を取り除けば、菜種油ができるわ」
チェリシアは説明しながら、油を作る作業を続ける。椿やオリーブは袋に入れて強く搾るので、これも腕っぷしの強い使用人にしてもらう。出てきた油は布で濾してそれぞれ瓶詰めにする。瓶の表面には油の種類をラベル貼りする事も忘れない。
「とりあえず、こんなものかな。みなさん、お疲れ様でした」
チェリシアが労う。目の前には、それぞれ一般的なワインひと瓶ほどの量の油が出来上がっていた。
「ちょうど食事時ですし、私が出来立ての油で料理しますね」
チェリシアはそう言って、ボアの肉を取り出した。
「つなぎとして卵は欲しかったですけれど、これもまた高級品ですからね。水溶き小麦粉で我慢します」
チェリシアは手際よく準備する。
作ったばかりの菜種油を張った釜を火にかけ、その間にボアの肉を少し厚めに切り分ける。そして、塩と水で溶いた小麦粉に肉を漬けて準備完了。
「ちょっと油が跳ねますけど、驚かないで下さいね」
チェリシアはフォークで挟んだボア肉を、熱せられた油の中へと投入する。バチバチと音がして、油が少し跳ねた。だが、しっかりとエプロンでガード。
転生前の記憶を頼りに、チェリシアはボア肉を揚げる。
「揚げ物はとにかく油の処理が面倒だけど、食感のアクセントがあるし、味もかなり変わるからたまに食べるのはいいのよね」
油を切りながら、チェリシアは皿の上に小さな金網を敷いて、その上に揚げたてのボア肉を置く。
「お姉様、何それ」
見た事のない料理人に、ペシエラは興味津々だ。
「これは揚げ物と呼ばれる物よ。特に獣肉を揚げた物は“カツ”と呼ぶのよ」
「へぇー」
ペシエラの質問に答えながら、チェリシアは揚げたカツに包丁を入れる。すると、カツはサクサクと音を立てて切り分けられていった。
「油って使い道は多いんだけど、ベタつくし、食器を洗うのも大変になるのよね。でも、石けんとか肥料とかに有効活用はできるし、そこはまた別の時にでもしましょう」
「そうね。聞いた事のない単語が出たけど、それはまたの楽しみにしておくわ」
チェリシアの言葉を聞いて、ロゼリアは考えるのをやめて言葉を返した。
切り分けたボア肉カツを、厨房に居る全員で試食する。説明はしたものの、やはり実際に味わってもらうのが一番だ。
結果としては好評。サクッとした食感は、やはり新鮮だったようだった。
「こんな食べ物があったなんて……信じられないわ」
「うおおっ、チェリシアお嬢様は天才だ!」
「油作りは大変ですが、これほどの物が作れるのでしたら、頑張れます」
厨房に居る全員が、それぞれに反応を示す。
「喜んで頂けて嬉しいです。では、お昼用に人数分、揚げますね」
そう言うと、チェリシアはボア肉を揚げる作業を開始する。料理人たちはその様子を食い入るように見ている。
こうして、コーラル子爵邸から、また一つの新しい文化が誕生したのであった。
コーラル子爵邸の庭に、大量の木箱が置かれていた。中身を確認したチェリシアが声ならぬ悲鳴を上げている。
木箱の中身はそれぞれの領地から運ばれてきた、油の原料となる木の実だった。
「ああぁ、これは椿、こっちは菜種、それにオリーブ。すごいわ」
チェリシアは感動で打ち震えていた。
「喜んでくれてありがたいけど、これからどうやって油を取るの?」
ロゼリアが問い掛ければ、チェリシアは木の実を見ながら、
「物によって取り方は変わるわ。菜種は種を煎って搾るし、椿は種を取り除いて実を搾るし。ただ、どれにしても力の要る重労働よ」
油の取り方について説明している。
「あと、油ってそこそこ温度は要るけど燃えやすいの。取り扱いには要注意よ」
「えっ?!」
ロゼリアが髪を持って驚く。
「火さえ近付けなければ燃える事はないわ。温度としては二、三百度必要だし、瞬間的にそんな温度に達するのは魔法くらいなものよ」
チェリシアは、菜種を取り出しながら説明を続けている。
平鍋一杯程度の菜種が集まったところで、それを火にかけて煎る。
「煎って水分を飛ばした後に、圧力を掛けて搾るの。これで油の素ができるわ」
チェリシアは煎った菜種を、このためにロゼリアに頼んで新調した石臼へと流し込んでいく。それを屋敷の料理人に頼んで挽いてもらう。すると、石臼の隙間からじわーっと液体が漏れ出てきた。
「これが菜種油の素。これを濾して余計な物を取り除けば、菜種油ができるわ」
チェリシアは説明しながら、油を作る作業を続ける。椿やオリーブは袋に入れて強く搾るので、これも腕っぷしの強い使用人にしてもらう。出てきた油は布で濾してそれぞれ瓶詰めにする。瓶の表面には油の種類をラベル貼りする事も忘れない。
「とりあえず、こんなものかな。みなさん、お疲れ様でした」
チェリシアが労う。目の前には、それぞれ一般的なワインひと瓶ほどの量の油が出来上がっていた。
「ちょうど食事時ですし、私が出来立ての油で料理しますね」
チェリシアはそう言って、ボアの肉を取り出した。
「つなぎとして卵は欲しかったですけれど、これもまた高級品ですからね。水溶き小麦粉で我慢します」
チェリシアは手際よく準備する。
作ったばかりの菜種油を張った釜を火にかけ、その間にボアの肉を少し厚めに切り分ける。そして、塩と水で溶いた小麦粉に肉を漬けて準備完了。
「ちょっと油が跳ねますけど、驚かないで下さいね」
チェリシアはフォークで挟んだボア肉を、熱せられた油の中へと投入する。バチバチと音がして、油が少し跳ねた。だが、しっかりとエプロンでガード。
転生前の記憶を頼りに、チェリシアはボア肉を揚げる。
「揚げ物はとにかく油の処理が面倒だけど、食感のアクセントがあるし、味もかなり変わるからたまに食べるのはいいのよね」
油を切りながら、チェリシアは皿の上に小さな金網を敷いて、その上に揚げたてのボア肉を置く。
「お姉様、何それ」
見た事のない料理人に、ペシエラは興味津々だ。
「これは揚げ物と呼ばれる物よ。特に獣肉を揚げた物は“カツ”と呼ぶのよ」
「へぇー」
ペシエラの質問に答えながら、チェリシアは揚げたカツに包丁を入れる。すると、カツはサクサクと音を立てて切り分けられていった。
「油って使い道は多いんだけど、ベタつくし、食器を洗うのも大変になるのよね。でも、石けんとか肥料とかに有効活用はできるし、そこはまた別の時にでもしましょう」
「そうね。聞いた事のない単語が出たけど、それはまたの楽しみにしておくわ」
チェリシアの言葉を聞いて、ロゼリアは考えるのをやめて言葉を返した。
切り分けたボア肉カツを、厨房に居る全員で試食する。説明はしたものの、やはり実際に味わってもらうのが一番だ。
結果としては好評。サクッとした食感は、やはり新鮮だったようだった。
「こんな食べ物があったなんて……信じられないわ」
「うおおっ、チェリシアお嬢様は天才だ!」
「油作りは大変ですが、これほどの物が作れるのでしたら、頑張れます」
厨房に居る全員が、それぞれに反応を示す。
「喜んで頂けて嬉しいです。では、お昼用に人数分、揚げますね」
そう言うと、チェリシアはボア肉を揚げる作業を開始する。料理人たちはその様子を食い入るように見ている。
こうして、コーラル子爵邸から、また一つの新しい文化が誕生したのであった。
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