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第18話
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どんな恐ろしい話が伝わっていても、時が経てば人というのはその警戒心が薄れてしまう。それどころか、怖いもの見たさというか蛮勇というに等しい好奇心を持った人物が現れるものである。
それを象徴するかのように、この日、襟峰市に向かう人影があった。
「本気なのかよ」
「ああ、こうも暑いんだ、肝試しにはもってこいだろうぜ」
まだ若そうな連中である。
おそらくは高校生といったところだろう。免許を持っているのか、全員がバイクにまたがっている。
「びびってんならここで帰れよ」
「まったくだ。この真っ暗な街の写真を撮って上げたら、きっとバズるぜ。きっしっしっ」
気持ち悪く笑う男もいる。
「時間はどうだ?」
「夜の10時すぎだぜ。出回っている情報通りなら、もう化け物がうろついてる時間ってわけだな」
「だな。見ろよ、街の様子を」
その声に集まった連中は襟峰市の方を見る。
夜10時過ぎたところなので、本来ならまだまだ明かりに包まれている時間帯である。
ところがどうだろうか。襟峰市の中は一部の建物を除いて光がほとんどともっていない。わずかに漏れる光のおかげで、街にはそこそこの高層ビルが立ち並んでいるのが見えるくらいである。
「噂には聞いていたが、実際に見てみるとずいぶんと不気味だな」
「これでも人が住んでるってんだからおかしな話だぜ」
言われてみればそうである。しかし、夜に出歩く事を我慢すればそれ以外は割と普通に暮らせる。そういうこともあって、街に住む人はあまり外に出ていかないのである。
「とりあえず街の様子を撮って、2時間後にまたここに戻ってくる。それでいいな」
「ああ、それでいいぜ」
話がまとまった男たちは、再度時計を確認する。
時計が示す時間は22時11分。となると、集合時間は0時11分ということだった。
「それじゃ行くぜ」
「おお!」
男たちはバイクを走らせて、襟峰市内へと突入していくのだった。
―――
「むっ、この音はバイクか?」
キャンピングカーの中で待機する編集長の耳に、聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてくる。
「しかも複数だな。どこかのもの好きが街に入ってきたのか?」
聞こえてくる爆音に、編集長はイラッとくる。
自分たちはしっかりと対処を重ねて襟峰市内に入ったというのに、バイクという体が剥き出しになっている乗り物で襟峰市内に入ってきた連中に、怒りを覚えたのである。
「おい、起きろ」
「どうしたんですか、編集長」
キャンピング部分に向かって編集長が怒鳴ると、男がのっそりと顔を出す。
「外の音が聞こえるか?」
「外?」
どうやらこの男、本当に眠っていたらしく、ぼけっとした顔を見せながら反応している。
頭を掻きながら編集長に言われた通りに耳を澄ませると、遠くで響くかすかなエンジン音らしき音を拾っていた。
「これは……バイクですかね」
「ああ。どっかのバカが無防備にも乗り込んできたっぽいな。この時間帯の襟峰市内にバイクで入ってくるなんて、自殺行為にもほどがある」
ギリッと歯を食いしばる編集長。
危険なのは分かっているが、退去を促せないのがつらいのだ。バイクの足を止めるということは、それだけ市内を徘徊する怪物の襲撃率を上げてしまうことになるからだ。
自分たちの方は呼び掛けるために窓を開ける事もできないし、分かっていても対処できないのがもどかしいのだ。
はっきり言って今できるのは、何も起こらないうちにとっとと市内から出ていってくれと祈ることだけなのだ。
「念のためだ。バイクの音のする方へ向かおう」
「分かりましたよ……」
「まったく、どこのバカどもだよ」
編集長の愚痴を聞きながら男はあくびを一発かますと、エンジンをかけて車を走らせる。
ところが、編集長の思いもむなしく、最悪の事態を告げる足音が、彼らへと着実に静かに駆け寄ってきていたのだった。
それを象徴するかのように、この日、襟峰市に向かう人影があった。
「本気なのかよ」
「ああ、こうも暑いんだ、肝試しにはもってこいだろうぜ」
まだ若そうな連中である。
おそらくは高校生といったところだろう。免許を持っているのか、全員がバイクにまたがっている。
「びびってんならここで帰れよ」
「まったくだ。この真っ暗な街の写真を撮って上げたら、きっとバズるぜ。きっしっしっ」
気持ち悪く笑う男もいる。
「時間はどうだ?」
「夜の10時すぎだぜ。出回っている情報通りなら、もう化け物がうろついてる時間ってわけだな」
「だな。見ろよ、街の様子を」
その声に集まった連中は襟峰市の方を見る。
夜10時過ぎたところなので、本来ならまだまだ明かりに包まれている時間帯である。
ところがどうだろうか。襟峰市の中は一部の建物を除いて光がほとんどともっていない。わずかに漏れる光のおかげで、街にはそこそこの高層ビルが立ち並んでいるのが見えるくらいである。
「噂には聞いていたが、実際に見てみるとずいぶんと不気味だな」
「これでも人が住んでるってんだからおかしな話だぜ」
言われてみればそうである。しかし、夜に出歩く事を我慢すればそれ以外は割と普通に暮らせる。そういうこともあって、街に住む人はあまり外に出ていかないのである。
「とりあえず街の様子を撮って、2時間後にまたここに戻ってくる。それでいいな」
「ああ、それでいいぜ」
話がまとまった男たちは、再度時計を確認する。
時計が示す時間は22時11分。となると、集合時間は0時11分ということだった。
「それじゃ行くぜ」
「おお!」
男たちはバイクを走らせて、襟峰市内へと突入していくのだった。
―――
「むっ、この音はバイクか?」
キャンピングカーの中で待機する編集長の耳に、聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてくる。
「しかも複数だな。どこかのもの好きが街に入ってきたのか?」
聞こえてくる爆音に、編集長はイラッとくる。
自分たちはしっかりと対処を重ねて襟峰市内に入ったというのに、バイクという体が剥き出しになっている乗り物で襟峰市内に入ってきた連中に、怒りを覚えたのである。
「おい、起きろ」
「どうしたんですか、編集長」
キャンピング部分に向かって編集長が怒鳴ると、男がのっそりと顔を出す。
「外の音が聞こえるか?」
「外?」
どうやらこの男、本当に眠っていたらしく、ぼけっとした顔を見せながら反応している。
頭を掻きながら編集長に言われた通りに耳を澄ませると、遠くで響くかすかなエンジン音らしき音を拾っていた。
「これは……バイクですかね」
「ああ。どっかのバカが無防備にも乗り込んできたっぽいな。この時間帯の襟峰市内にバイクで入ってくるなんて、自殺行為にもほどがある」
ギリッと歯を食いしばる編集長。
危険なのは分かっているが、退去を促せないのがつらいのだ。バイクの足を止めるということは、それだけ市内を徘徊する怪物の襲撃率を上げてしまうことになるからだ。
自分たちの方は呼び掛けるために窓を開ける事もできないし、分かっていても対処できないのがもどかしいのだ。
はっきり言って今できるのは、何も起こらないうちにとっとと市内から出ていってくれと祈ることだけなのだ。
「念のためだ。バイクの音のする方へ向かおう」
「分かりましたよ……」
「まったく、どこのバカどもだよ」
編集長の愚痴を聞きながら男はあくびを一発かますと、エンジンをかけて車を走らせる。
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