真夜中血界

未羊

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第15話

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 部長のいとこである美幸と正幸と合流して、部長の家へと戻っていく。
 家に帰ると当然ながら部長は両親から平手打ちを食らっていた。

「まったく、あなたたちったらどこへ行っていたのよ。ひと晩帰ってこなかったから心配しちゃったじゃないのよ……。無事に帰って来てくれてほっとしたわ」

「その通りだぞ、隆行。ただでさえよそのお子さんを預かっている状態だ。何かあれば、私たちにも迷惑がかかるんだ。少しは自覚を持ってくれ」

 口々に説教を受ける部長。実際その通りだし、部長は甘んじて両親の説教を受けていた。
 部長に対して説教を終えた部長の両親は、今度は美幸たちに目を向ける。ただその目は歓迎しているように見えなかったために、姉弟はつい肩に力が入ってしまう。

「義兄から電話がありましたよ。うちの子たちがそっちに遊びに行くから面倒を見てくれと。……それがなんですか。電話があってから2日後の朝にやって来るなんて。何をしてたんですか!」

 部長の母親の剣幕がすさまじかった。その気迫に、怒られていないはずの勇人と都もたじたじである。
 ひと通り部長を説教した後は、黙ってお風呂を沸かしてくれた上に朝食まで作ってくれた。
 熱帯夜のせいで汗ぐっしょりになっていたので、特に女性である都と美幸の二人は嬉しそうにしていた。なにせ汗で服が透けかかっていたのだから、女性としては恥ずかしい限りである。
 勇人たちは極力目を向けないようにはしていたものの、お風呂に向かうところで都たちからジト目を向けられていた。
 ひとまずそんなこんなで、ようやく安堵できた勇人たちだった。
 食事を終えると、部長の父親はこの日の仕事に出かける。それを見送ると、部長は全員を自分の部屋へと集めた。

「さて、昨夜の映像を確認する前にだが、改めてみゆ姉と正幸に聞こうじゃないか」

 腕を組んでいる部長。どうやらご立腹のようである。
 それに対して、姉は口笛を吹いてごまかそうとし、弟は視線を泳がせている。

「朝の言い訳で、怪異の事を調べに来た事は分かった。だが、その建前が私のところに遊びに来るつもりとはどういうことかな」

「えっ、最初からここに泊まりに行く予定だったけど?」

 とぼける美幸だが、部長はさっきの言葉をしっかり覚えていた。

「みゆ姉はすぐそうやってはぐらかそうとするな。宿代が浮くとか言っていたから、最初っから怪異目的なのはバレバレなのだよ。まったく、父さんと母さんへの説明ではみゆ姉の言い分に乗ったが、実に勘弁してもらいたい」

「むぅ、たっくんは変なところで真面目なんだから」

 頬を膨らませる美幸である。これで高校2年生らしい。

「嘘はよろしくないと言っているのだ。まあ、昨夜に限っては人の事は言えないのだがね」

 自分の頭の髪を鷲掴みにしながら、実に苦い表情をする部長。なんとも言えない気持ちがあるものの、、言おうと思えば思うほど、墓穴を掘りかねないので飲み込んだといったところである。

「……これ以上はブーメランになりそうだから、話を変えようか」

 部長は大きくため息をつきながら、パソコンにビデオカメラをつないでいる。

「身の危険も顧みずに仕入れてきた情報だ。せっかくだから今から確認しようじゃないか」

「賛成ね。弟、ちゃんと画像は残ってるわね?」

「うん、大丈夫だよ、姉ちゃん」

 美幸が確認すると、力強く正幸は首を縦に振った。その答えにほっとする美幸である。なにせ2匹の魔物に襲われたのだ。首に巻いたコルセットのおかげでどうにか生きてはいるが、できれば二度とはやりたくないと思っている。
 それだけ命を張って手に入れた画像なのだから、撮れていないとなったらブチ切れるだけの自信があった。

「みゆ姉たちの方の写真も後で確認させてもらおう。まずは我々の動画だ」

 部長はそう言いながら動画を再生する。
 その動画を見た勇人たち。そこに映っていた意外な存在に困惑を隠しきれなかった。

「どうみてもこれは……」

「ええ、犬ね」

 映し出された映像には、デコイに群がる黒い犬の映像が映し出されていた。その特徴を見る限り、どうやらドーベルマンと思しき造形をしていた。
 これには思わず拍子抜けしてしまう一同である。
 美幸たちの方の画像も確認してみるが、犬の種類こそ違えど、やはり犬のようだった。

「俺たちが恐れている存在の正体が、たかが犬だなんて……「

「でも、明確な殺意を持って襲ってきているのは間違いないわ。私も執拗に首を狙われたもの」

 正体を知って戸惑いの隠せない勇人たちだが、この中で唯一実際に襲われた美幸の言葉に黙り込むしかなかった。

「犬だと分かったところで、警察や市に話を持っていったところで動いてはくれないだろうな。装備も人員も集めるのに時間もかかるだろうし。……となると、やはり我々だけで解決せねばなるまい」

「たっくん、できると思う?」

 深く考え込む部長に、美幸が問い掛ける。

「できるできないじゃないさ。オカルト研究部として、追い始めたこの謎を解明せねばなるまい。それに、ヒントらしきものは映像に映っていた」

 俺たちはいまいちピンとは来ないが、部長は何かしら掴んでいたようだった。

「怪異の謎を解き明かして、この襟峰市に安心安全な夜を取り戻してやろうではないか」

 部長は不気味にほくそ笑むのだった。
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