伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第二章 ゲーム開始前

第56話 海まで行こう

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 トーミから4日を掛けて、国境の街タボンに到着する。南のサングリエ辺境伯の治める南の国境帯は、頑強な防壁でミール国と隔てられている。間近で見ると防壁がかなり大きい事がよく分かる。
(まるで、異世界版万里の長城ね。ただこっちは平坦な土地に築かれているけれど、どれだけの労力を費やしたのかしらね)
 私は、タボンの街に到着する前から見えていた巨大な壁にそんな事を思っていた。唖然とするくらいに巨大で長い壁なのだ。そんな思いにふけってみてもいいのではないだろうか。
 さて、このタボンにはサングリエ辺境伯は不在という事で、王家の力を使ってさっさと通り抜けてしまおう。海の幸が私を待っているのよ。
 と思っていたけれど、思ったよりも国境越えの手続きに時間がかかっている。フィレン王子が国外に王族としては単独として出向くという事を問題視しているような感じだった。しかし、すっかり信用を回復していたボンジール商会がしゃしゃり出てきて、ごねるタボンの国境警備隊を説き伏せていった。こういう時は商人の話術は心強いわね。
「ささっ、早く参りましょうぞ」
 ボンジール商会のギーモは実ににこやかな笑顔で、私たちに話し掛けてきた。まったく、一体何をどうやって説き伏せたのやら。怖いので聞かないでおきましょう……。
「この門の先はミール王国の土地となります。我らの領権も及ばぬゆえに、どうかお気を付けて行ってらっしゃいませ」
 門番にこう告げられて、私たちは国境の門をくぐってミール王国へと足を踏み入れた。新しい国に足を踏み入れたものの、目の前は実に草原が広がるばかりで殺風景だった。ここからミール王国の王都シャオンまでは更に馬車で3日かかる。途中には一応宿場町が整備されているので、野宿という事はなさそうである。さすがはメイン街道。
 とりあえずは王都を目指すのだけれども、メインの目的地は更に馬車で2日進んだ場所にある港町クルス。港町を目的地にしたのは私のわがままだ。私は魚介類が食べたいのよ。魚を三枚におろす事だって平気。照り焼きにマリネとか、本当によく作ったわね。料理人には負けるけれど、私だってそれなりに料理を趣味にしてたんだからね。
 馬車は無事にシャオンに到着する。このまま素通りでもいいんだけど、この国の決まりというか、商人たちの取り決めで、わざわざ国王に一度挨拶をしなければならないという事になっているのよ。実に面倒くさい。とはいえ、ゲーム本編でも公式情報でも国の名前以外一切出てこなかったミール王国の王族というのはとても気になるもの。私はごねる事なくギーモに従った。国際問題にするつもりはないわ。
 ミール王国の王都シャオンにそびえ立つ王城は、海のイメージしてか青色の旗が掲げられている。外観もかなりきれいにされているようだ。
 ここまでの道中も、王都に着いてからも、サーロイン王国に劣らぬくらいに心地よく移動できている。人々は活力に満ちあふれていて、実に見てるこちらも元気になってくるというものだ。
 城に着くと、先触れを出しておいた事もあって、すんなりと国王に謁見する事ができた。謁見の間に通されると、目の前にはフィレン王子の両親よりも少し年上っぽい感じの夫婦が座っていた。その二人こそ、ミール王国の国王と王妃である。今回のミール王国への訪問にあたって、私はちゃんと下調べをしてきている。予備知識もなく行くのは危険なので、父親に頼んで資料を読ませてもらったのだ。
 とはいえ、ミール王国の国王夫妻への挨拶はあくまでも通過点に過ぎず、とにかく無難に済ませておいた。時間的に城で一泊となるために、フィレン王子が居たので歓迎の晩餐会が催された。
 この時の私の印象としては、国王夫妻の人柄はいいように思えた。とても壁を築いてまで警戒すべき相手ではない。まあ、壁が築かれたのはかなり昔なので、その時はとにかくサーロイン王国にとってミール王国は脅威だったのだろう。
 とはいえ、今の国王夫妻の印象はいい感じだし、食事だってサーロイン王国に合わせてくれている。私としては魚料理が食べたかったので残念だったけれど、概ね好印象だった。
 一泊を済ませた私たちは、国王夫妻に見送られる中、クルスへ向けてシャオンを発つ。この世界ではまだ見ぬ海産物を求めて、私の胸はひたすら高鳴っていた。
「アンマリアは楽しそうですね」
 出発を前にした時、私はフィレン王子からそう声を掛けられていた。
「そ、そうですかね?」
 私はとっさにごまかしていたものの、楽しみでしかないのよ。海の幸が味わえるなんて思ってもみなかったんだから。お城での食事は私たちに配慮してか肉料理ばかりだったけれど、かえってそのおかげでクルスでの海産物への期待が爆上げよ。
 そうやって息巻く私の姿に、両親とモモは呆れたような笑いを浮かべていた。スーラだけはいつもの事と気にしていませんよという顔をしていた。その身内の反応の差に驚かされながらも、私たちはついに港町クルスへと到着したのだった。
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