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第75話 国王の威圧感

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 部屋の奥から出てきたのは、なんと国王だった。あのガーティス子爵までが慌てている。
「ガーティスよ、最近はいろいろと楽しい事があったようだな、ん?」
 ゆっくり歩いて近付いてくる国王は、ガーティス子爵に問い詰めるように話し掛ける。
 その様子を見て、ガーティス子爵は全部知られていることを悟ったらしく、国王の顔を見ながら尋ね返している。
「お言葉ではございますが、陛下は一体どこまで我が領の事情をご存じでしょうか」
 ガーティス子爵の問い掛けに、国王はにやにやと笑っている。
「やれやれ、吾輩の質問に答えず口答えとは……。ずいぶんと偉くなったよな、ガーティスよ」
「はっ、も、申し訳ございません」
 ガーティス子爵はその場に俯いて跪く。
 その姿を見た国王は、イジスとモエの方を見る。
「子爵の子息と……噂のマイコニドか」
「なっ!?」
 国王が顎を触りながら呟くと、イジスは驚きながらもモエを庇うように立つ。
「そう構えずともよいぞ。全部ジニアスから聞いておる。癒しのマイコニドだということもな」
「えっ……」
 なんとモエのことをしっかり把握していた。
「まったく、獣人や魔物の闇取引が行われていたとはな。お前にしてはずいぶんと大きな失態よな、ガーティス」
「……返す言葉もございません」
 国王に言われてすっかり落ち込んだままの子爵。まったくもって見た事のない姿に、イジスの動揺は隠せない。
「行われていた事自体は咎めねばならぬが、組織は壊滅、解放された獣人や魔物たちの面倒も見たそうだな。よって、公表はせぬし、秘密裏に処理をしておこう」
「あ、ありがたく存じます」
 ガーティス子爵は一切頭を上げられずに、国王の言葉に反応するのが精一杯だった。
「さて、そこなマイコニドよ。名はなんと申す?」
「は、はい! モエと申します」
 ガーティス子爵との話を終え、国王はモエへと話を振る。
「ふむ。あの危険と称されたマイコニドを、こう間近で見られる日が来るとはな」
 話をしながらじろじろとモエを見る国王。あまりにも凝視してくるので、モエは怖がってしまっている。
「陛下。恐れ入りますが、さすがにじっくり見すぎかと存じます。モエが怯えてしまっているではないですか」
 震えるモエを見て、イジスは不敬を承知で間に割り込む。颯爽と自分の前に立って庇うイジスの姿に、モエはつい顔を赤くしてしまう。
 ところが、その姿を国王が見てしまったらしく、なんともおかしそうに笑い出す。
「どうして笑われるのですか、陛下」
 笑われたことにカチンときたイジスが、思わず声を荒げている。不敬にもほどがあるというものである。
 父親が咎めようとして立ち上がろうとするが、国王がそれを制する。
「よいよい。女性を守ろうとする気概があっていいものではないか」
 笑いを止め、真面目な表情で語り出す国王である。
「それはそれとして、よくマイコニドを建国祭に出そうと考えたものだな」
「イジスの身をそろそろ固めようかと思いまして。隠しておいてもどこからともなく嗅ぎつけて求婚されたのでは、イジスのためにもよろしくないと考えたのです」
「ふむ、そうか。婦人除けのために、連れてきたとそういうわけか」
 ガーティス子爵の話を聞いて、再びモエをじろじろと見始める国王。モエは慌ててイジスの真後ろに隠れてしまう。
「なかなか美しい女性ではないか。キノコの亜人とは思えぬな」
 国王はモエを見るのをやめたかと思うと、今度は何度も頷いている。
「事情は分かった。堂々と参加させるといいだろう。何か問題があれば、吾輩が許可したというとよい」
「はっ、そのようにさせて頂きます」
 ガーティス子爵に助言をした国王は、再びじっとモエを見る。
「吾輩も独り身であったのなら、求婚したやもしれぬな。イジスとか申したな、しっかりとつかんで離すでないぞ。それでは、建国式でまた会おうではないか」
 国王は言うだけ言うと、ようやく客間から出ていった。
 ようやく嵐が去り、イジスたちからは緊張の色が消え去った。
 特にモエは力が抜けてしまったらしく、その場にへなへなと座り込んでしまった。
「こ、怖かったです……」
 モエの表情は青ざめており、いかに緊張していたのがよく分かる。
「私もだ。父上があそこまで恐れるとは思わなかったよ。国王陛下、さすがにただ者ではないな」
「学生時代からの友人で、有事の際にはよく一緒に剣を取って戦ったものだ。私が頭の上がらぬ、数少ない人物だよ」
 ガーティス子爵ですら、顔色が優れない。初めて見る父親の姿に、イジスは思わず黙り込んでしまう。
「陛下の出現は予想外だったが、これでモエが堂々と笠を披露していても大丈夫になったな。陛下の言葉は絶対だ、他の貴族どもには何も言わせぬぞ」
「そうですね、父上」
 落ち着きを取り戻した子爵の言葉に、イジスも力強く頷く。
 窓の外に見える馬車がようやく途切れ始める。これで国内のほとんどの貴族が城に集まったことになる。
 それと時を同じくして、客間に城の使用人がやって来る。
「さあ、行くぞ」
「はい」
 いよいよ建国祭が始まる。
 子爵たちは立ち上がり、使用人の案内で会場となる大広間へと向かったのだった。
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