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第67話 緊張のお茶会
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押しかけたスピアノのためのお茶会が始まる。
念のために人外の使用人たちには表に出ないようにしてもらっている。一応、対外的には話していない部分だからだ。モエだけはなぜ出てきているかというと、帽子をかぶっていればただの人間にしか見えないからだ。
まずはイジスを座らせ、それからスピアノを座らせる。それが終わると、お菓子と紅茶が運ばれてきて歓談が始まる。
「そのメイドはここにいるのね」
スピアノはモエを見ながら、きつめの言葉で問い掛けている。
「モエは私のメイドだからね。もう一つ言えば、私の補佐官でもある。隣の護衛のランスともども私直属の部下なんだ」
話に出てきた事で自己紹介とともに頭を下げるランスとモエ。スピアノは二人を睨むような視線で見つめている。
ランスは慣れているのかまったく動じる様子はないが、さすがにモエは動揺を隠せない。
(まったく、なんて鋭い視線なのでしょうか……)
あまりにもきつい視線なので、モエは動揺を隠せないようである。
それに気が付いたランスが、静かに近付いてきて話し掛けてくる。
「モエさん、落ち着いて下さい。あの令嬢の相手はイジス様にお任せして、我々は堂々としていればいいのです」
「わ、分かりました」
ランスに声を掛けられて、一度深呼吸をするモエ。これで少し落ち着けたようである。
「それで、今日はわざわざこちらまで何をしに来られたのでしょうか」
スピアノの視線を逸らせるために、イジスが笑顔でおもむろに話しかける。対外的な経験はないとはいえ、イジスは対応を心得ているようだった。
「そうですわね。私も年頃になりましたので、婚約者を決めようと思いましてね。隣の領にいい感じの殿方がいらっしゃるということでしたので、直々に出向いたというわけですわ」
これまたドストレートに理由を話すスピアノである。
あまりにも直球な物言いに、イジスも思わずにこりと笑ってしまう。
「ずいぶんと正直に話されますね」
「わたくしとて、相手を見て話しておりますわ。そこな使用人ともども、口の堅そうな方ばかりなので、安心して話せるというものですわ」
一応相手を見て話をしているらしい。ひと目で見抜いたというのなら、なかなかな観察眼の持ち主である。
「なるほど、そちらの事情は分かりましたが、なぜこうやって直接会おうと思われたのでしょうか」
理由に鋭く突っ込んでいくイジスである。さっきも話していたと思うのだが、どういうつもりなのだろうか。
「聞いていらっしゃいませんでしたか? さすがにこれ以上をいうのは、わたくしとはいえはばかりますわよ」
そう言いながら、紅茶を口に含むスピアノである。
「これは失礼致しました。では、この話はここまでとさせて頂きましょう」
イジスもイジスで、淡々と謝罪した上にすぐさま話を切り替えている。
だが、しばらくは紅茶とお菓子を静かに堪能するだけで、これといった話が出てくる事はなかった。女性はおしゃべりだという認識のあるランスは、その状況に戸惑いを感じている。
その状況も、しばらくすると一変する。
「そういえば、少し風の噂でお聞き致しましたわ」
「なにをでございますでしょうか」
スピアノが急に話し始めるものだから、イジスは少々嫌な予感がしたのか、表情を険しくして声を掛けている。
だが、こういう時の勘というのは当たるものだった。
「なんでも、この街で人外が出現したとの事らしいではないですか。詳しいお話は分かりませんでしたけれど」
スピアノがイジスの顔色を確認しながら話している。
その発言にイジスはまったくもって動じずに聞き流している。
「人外が出るくらいでしたら、それほど不思議なものではないのでしょうか。王都ですら獣人の方々が暮らすほどでございますし」
イジスは行ったことはないものの、父親であるガーティス子爵や、以前ちょこっとだけやってきたジニアス司祭からも、それっぽい話は聞いている。特段驚くべき話というわけではなかった。
だが、そうはいかないのは世間知らずのモエだった。明らかな動揺を見せているのである。
「……それにしては、後ろのメイドさんはかなり慌てていらっしゃいませんこと?」
あからさまな動揺ゆえに、スピアノが見逃すわけがなかった。
「彼女は有能ですけれど、少々田舎の出でございます。知らなかった話に驚いても無理はないでしょう」
それでもまったく姿勢を崩す事なく対応するイジス。この対応はさすがといったところだろう。
「そうですのね。そんな方がイジス様の使用人を務めてらっしゃるとは……。本当に優秀な方ですのね」
褒められてはいるとはいえ、話の内容のせいで緊張しっぱなしのモエである。
はてさて、ただのお見合いのはずだというのに、どうにもやり取りが腹の探り合いになっているように思われる。
この状況に、モエは最後までボロを出さずに耐えきれるというのだろうか。
その緊張の中、スピアノが紅茶のおかわりを所望してきたので、モエは一度深呼吸をしてから対応するのだった。
念のために人外の使用人たちには表に出ないようにしてもらっている。一応、対外的には話していない部分だからだ。モエだけはなぜ出てきているかというと、帽子をかぶっていればただの人間にしか見えないからだ。
まずはイジスを座らせ、それからスピアノを座らせる。それが終わると、お菓子と紅茶が運ばれてきて歓談が始まる。
「そのメイドはここにいるのね」
スピアノはモエを見ながら、きつめの言葉で問い掛けている。
「モエは私のメイドだからね。もう一つ言えば、私の補佐官でもある。隣の護衛のランスともども私直属の部下なんだ」
話に出てきた事で自己紹介とともに頭を下げるランスとモエ。スピアノは二人を睨むような視線で見つめている。
ランスは慣れているのかまったく動じる様子はないが、さすがにモエは動揺を隠せない。
(まったく、なんて鋭い視線なのでしょうか……)
あまりにもきつい視線なので、モエは動揺を隠せないようである。
それに気が付いたランスが、静かに近付いてきて話し掛けてくる。
「モエさん、落ち着いて下さい。あの令嬢の相手はイジス様にお任せして、我々は堂々としていればいいのです」
「わ、分かりました」
ランスに声を掛けられて、一度深呼吸をするモエ。これで少し落ち着けたようである。
「それで、今日はわざわざこちらまで何をしに来られたのでしょうか」
スピアノの視線を逸らせるために、イジスが笑顔でおもむろに話しかける。対外的な経験はないとはいえ、イジスは対応を心得ているようだった。
「そうですわね。私も年頃になりましたので、婚約者を決めようと思いましてね。隣の領にいい感じの殿方がいらっしゃるということでしたので、直々に出向いたというわけですわ」
これまたドストレートに理由を話すスピアノである。
あまりにも直球な物言いに、イジスも思わずにこりと笑ってしまう。
「ずいぶんと正直に話されますね」
「わたくしとて、相手を見て話しておりますわ。そこな使用人ともども、口の堅そうな方ばかりなので、安心して話せるというものですわ」
一応相手を見て話をしているらしい。ひと目で見抜いたというのなら、なかなかな観察眼の持ち主である。
「なるほど、そちらの事情は分かりましたが、なぜこうやって直接会おうと思われたのでしょうか」
理由に鋭く突っ込んでいくイジスである。さっきも話していたと思うのだが、どういうつもりなのだろうか。
「聞いていらっしゃいませんでしたか? さすがにこれ以上をいうのは、わたくしとはいえはばかりますわよ」
そう言いながら、紅茶を口に含むスピアノである。
「これは失礼致しました。では、この話はここまでとさせて頂きましょう」
イジスもイジスで、淡々と謝罪した上にすぐさま話を切り替えている。
だが、しばらくは紅茶とお菓子を静かに堪能するだけで、これといった話が出てくる事はなかった。女性はおしゃべりだという認識のあるランスは、その状況に戸惑いを感じている。
その状況も、しばらくすると一変する。
「そういえば、少し風の噂でお聞き致しましたわ」
「なにをでございますでしょうか」
スピアノが急に話し始めるものだから、イジスは少々嫌な予感がしたのか、表情を険しくして声を掛けている。
だが、こういう時の勘というのは当たるものだった。
「なんでも、この街で人外が出現したとの事らしいではないですか。詳しいお話は分かりませんでしたけれど」
スピアノがイジスの顔色を確認しながら話している。
その発言にイジスはまったくもって動じずに聞き流している。
「人外が出るくらいでしたら、それほど不思議なものではないのでしょうか。王都ですら獣人の方々が暮らすほどでございますし」
イジスは行ったことはないものの、父親であるガーティス子爵や、以前ちょこっとだけやってきたジニアス司祭からも、それっぽい話は聞いている。特段驚くべき話というわけではなかった。
だが、そうはいかないのは世間知らずのモエだった。明らかな動揺を見せているのである。
「……それにしては、後ろのメイドさんはかなり慌てていらっしゃいませんこと?」
あからさまな動揺ゆえに、スピアノが見逃すわけがなかった。
「彼女は有能ですけれど、少々田舎の出でございます。知らなかった話に驚いても無理はないでしょう」
それでもまったく姿勢を崩す事なく対応するイジス。この対応はさすがといったところだろう。
「そうですのね。そんな方がイジス様の使用人を務めてらっしゃるとは……。本当に優秀な方ですのね」
褒められてはいるとはいえ、話の内容のせいで緊張しっぱなしのモエである。
はてさて、ただのお見合いのはずだというのに、どうにもやり取りが腹の探り合いになっているように思われる。
この状況に、モエは最後までボロを出さずに耐えきれるというのだろうか。
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