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第66話 隣の令嬢がやって来た

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 翌々日のこと、ガーティス子爵邸に急な話が舞い込んできた。
「お呼びでございますでしょうか、父上」
 イジスは話があるとして、父親に呼び出されている。
「うむ、隣のジルニテ伯爵領から早馬が着いたのだ」
「なんですって。それでどのような内容なのでしょうか」
 父親の口から出たできごとが気になるようである。だが、父親であるガーティス子爵の顔色はよくない。
「父上、なにゆえそのような表情をなさいますか」
 かなり不安になるイジスである。
 問い詰められたガーティス子爵は、観念したようにその内容を語り出した。
「お見合いだよ、イジス」
「はい?」
 ぴくりとして動きが止まるイジス。
「お前も20代の半ばを過ぎたような状態で、いまだに独り身でいるからこういうことになるのだ。私も放任しているので責任がないかといったらそうではない話だがな」
 ガーティス子爵から説教が始まる。イジスはそれをただ聞いているだけしかできなかった。
「ともかく、相手の爵位の方が上なのだ。現在の私では断ることができぬ。相手は16歳になる女性だからな、しっかり相手をしてあげなさい」
「わ、分かりました。父上……」
 急に降ってわいたお見合いの話に、イジスは衝撃を隠し切れなかった。
 日程に関して詳しく聞けば、二日後にジルニテ伯爵令嬢が領都に到着して直接屋敷にやって来るとの事だった。
 この話は瞬く間に屋敷の中に広まり、一気に子爵邸の中は大忙しとなった。
 当然ながら、この話に使用人たちは一度集められる。
 ダニエルとマーサが前に立ち、屋敷中の使用人たちが一堂に会している。もちろん、そこにはモエどころか、屋敷に引き取られた獣人たちも顔をそろえていた。
「みなさん、この屋敷にお客様がお見えになります」
 使用人たちがこれだけで騒めいている。それというのも、ガーティス子爵邸に外部からの客が来るのはめったにないからだ。
 最近でやって来たのは、モエの事で呼び寄せたジニアス司祭だけである。他人がやって来る事はそのくらい珍しいのである。
「やって来られるのは隣の領地を治められるジルニテ伯爵のご令嬢であるスピアノ様だ。わがままであられるとは聞いているが、失礼の無いように頼むぞ」
 こうして、ガーティス子爵邸の中は突然の訪問に対しての備えをするために、使用人総出で対応にあたったのである。
 その中でモエが割り当てられたのは、なんとそのスピアノの相手。イジスとのお見合いを兼ねたお茶会になるということで、専属メイドたるモエが割り当てられたのである。
「その大役、きっと見事にこなしてみせます」
 モエ自身はこう答えていたが、教育係をしていたエリィはちょっと心配になるのだった。

 そうして迎えた、スピアノ・ジルニテ伯爵令嬢が到着する日である。
 街の門に到着するや否や、屋敷にその情報が伝えられる。
 一気に屋敷の中の緊張が高鳴る。なにせ、久しぶりに屋敷を訪れた客だからだ。
 これだけ問題もなくやって来れるような土地であるのに、どうしてこうも来客が少ないのだろうか。甚だ疑問である。
 それはともかくとして、屋敷の中は迎え入れるための最終的な準備に入っていた。
 イジスも仕事を中断して玄関まで迎えに行く。モエも当然ながらそれに付き添う。
 屋敷の玄関前に二人が揃うと、門から見慣れない馬車がゆっくりと近付いてくる。これこそがジルニテ伯爵家の馬車である。
 玄関前で横付けされると、使用人が先に降りて、手を引かれて中から少々ばかり派手な装いの女性が降りてきた。彼女こそがスピアノ・ジルニテ伯爵令嬢である。
「お出迎えご苦労ですわね。私がスピアノ・ジルニテでございますわ。お父様の爵位は伯爵。以後、お見知りおきを」
 堂々と名乗りを終えるスピアノである。
「お待ちしておりました、ジルニテ伯爵令嬢」
 一歩前に出て挨拶を始めるのはイジスである。名指しがあったので、自らのお出迎えなのである。
「ご指名に預かりましたイジス・ガーティスでございます。本日お相手をさせて頂くことを光栄に思います」
 イジスが名乗って頭を下げると、スピアノは押し黙ったままイジスの事をじっと見つめている。
(ふむ、独身だと聞き及んでおりますのでどのような方かと思いましたが、なかなかにいい感じの殿方ではございませんか)
 扇で口元を隠しながら、そのように思っているスピアノ。
「スピアノ嬢?」
 じっと見つめたまま動かないし喋らないので、イジスが気になって声を掛ける。
 すると、ようやくぴくりと反応を見せていた。
「それでは、庭園へとご案内致します。本日はお日柄もよいということで、庭の花々を愛でながらの歓談と参ろうかと思います」
「それはよろしいですわね。では、案内なさい」
「畏まりました。では、案内致します」
 スピアノを案内するイジス。モエは二人の後ろをスピアノの侍女と一緒について行く。
 その際、モエはスピアノの侍女にじっと見つめられる。
「何か、ございますでしょうか」
 堂々と聞き返すモエに、スピアノの侍女は何も答えず視線だけを外していた。
 その態度に首を傾げるモエだったが、そうこうしている間に、モエたちは庭園に到着したのであった。
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