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第56話 変化
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モエの幼馴染みであるマッシュがおとなしく森へと帰っていって、モエとイジスの距離が近くな……らなかった。
モエは相変わらずのマイペースである。マッシュからあれだけの感情をぶつけられたというのに、翌日にはすぐにケロッといつもの通りなのである。
マッシュとイジスのやり取りはモエもしっかりと見聞きしていたはずなのに、どうしてこうも反応が薄いのだろうか。
マッシュの来訪から三日後のことだった。
「イジス様、ずいぶんと残念そうな顔をしていらっしゃいますね」
「ははは、ランス。私の顔がそんな風に見えるかな」
モエが同行していない外回りの仕事中に、護衛のランスと会話をするイジスである。
先日の一件で、マイコニドに対する街の住民の警戒感が強まっている。それに加えて、モエの正体についても広まってしまっているのだ。外回りに連れて行くには危険と判断したのである。
そのために、外回りの最中のイジスは護衛のランスと二人で行動しているというわけだ。
「それにしても、ランスと二人での行動も久しぶりだな」
「そうでございますね。モエでなくて悪うございますけれどね」
「……やっかみかな?」
ランスの言い方に何とも言えない感情を感じるイジスである。
「別に、モエさんに嫉妬しているとかありませんよ。ええ、そりゃもちろんですよ」
いちいち言い方が引っ掛かるランスである。
「まったく、言い繕えば言い繕うほどぼろが出るからやめた方がいいぞ、ランス。君との付き合いも長いんだからな」
ついつい呆れてしまうイジス。その表情はなんともいえない笑みを浮かべたものだった。
「訳の分からない事はさておいて、今日も街の人の話を聞いて回らないとな」
「そうでございますね。先日のマイコニドの出現以来、不安が広がっていますからね」
ランスが言えば、イジスはこくりと小さく頷いていた。
「モエで感覚が狂ってはいたが、マイコニドは危険な胞子を振りまく存在だからね。まさか、一人であそこまで街の自警団がまったく役に立たなくなるとは。遠距離攻撃ができる人員を増やさないといけないな」
「そうでございますね。接近しなければマイコニドもあまり脅威ではありませんからね」
「数日経って落ち着いただろうから、自警団から聞き取りをするとしようか」
「はっ、それでは自警団の事務所に向かいます」
マッシュの毒の胞子による後遺症も緩んだだろうと判断したイジスは、自警団へと向かっていったのだった。
同じ頃、モエは屋敷の中で他のメイドたちと交流を行っていた。
イジスが外回りに出かけたのだが、先の理由で置いてきぼりを食らったのである。
今は仕事も片付いたので、教育係のエリィの付き添いの下、後輩人外メイドであるビスとキャロと一緒に使用人の休憩室でお話の真っ最中である。
「モエ先輩、お留守番なのですね」
どストレートに言うビスである。慣れてきたのか、意外とずけずけと言うようになっていた。
「仕方ありませんよ。先日の件でマイコニドに対する住民たちは警戒していますからね。モエさんも同じマイコニドですから、今までの振る舞いでモエさんの事が分かっているとはいっても、つい警戒してしまうというものです」
紅茶をくいっと一口含むエリィ。
「モエさん一人だけで、私たちもマイコニドに対する感覚が狂ってしまっていますからね。先日のマイコニド襲来の話を聞いて、私もつい思い出してしまいましたよ」
言葉を続けたエリィは、モエの事を心配しているような表情をしている。
「……正直、お留守番を言い渡されて、ショックを受けていますよ。でも、マッシュ一人だけで混乱したあの状況を思い返すと、納得せざるを得ませんでした」
笑顔を見せながら話すモエだが、よく見ると眉が寄っている。
「そのマッシュってマイコニド、モエ先輩の何なのですかにゃあ?」
キャロがこれまた無神経にストレートに聞いている。
「ただの幼馴染みですよ。……ただ、あんな風に思われているとは思いませんでしたけどね。年の近いマイコニドが居なかったので、あんまり気にしてなかったのですけれど、改めてあんな言葉を聞くと正直悩んでしまいますね」
無神経なキャロの質問だったが、モエは正直に答えていた。
イジスに対して普段通りに接していたモエではあるけれど、実際はかなり真剣に悩んでいるようなのだ。
「そんな風に悩むなんて、モエさんもだいぶ成長したんですね」
エリィは感心しているものの、それもだいぶ失礼ではないだろうか。
「酷いですね。マイコニドだって人型を取る以上、人間のように成長しますよ」
さすがにこれには、頬を膨らませてエリィに抗議するモエである。
「でも……、集落の掟を破っている以上は私は森には戻れませんからね。まあ、戻る気もありませんけど」
かと思えば、エリィたちを見てにこやかな笑顔を見せるモエである。
いろいろと悩んだけれども、今さら感が強すぎるのだ。
マッシュに再会して少し気持ちが揺らいだかのように思えたが、マッシュに言い放った通りにモエの決心は固いようである。
ところが、マッシュの登場は、少しずつではあるものの着実にモエやイジスたちの生活に影響を及ぼしているのだった。
モエは相変わらずのマイペースである。マッシュからあれだけの感情をぶつけられたというのに、翌日にはすぐにケロッといつもの通りなのである。
マッシュとイジスのやり取りはモエもしっかりと見聞きしていたはずなのに、どうしてこうも反応が薄いのだろうか。
マッシュの来訪から三日後のことだった。
「イジス様、ずいぶんと残念そうな顔をしていらっしゃいますね」
「ははは、ランス。私の顔がそんな風に見えるかな」
モエが同行していない外回りの仕事中に、護衛のランスと会話をするイジスである。
先日の一件で、マイコニドに対する街の住民の警戒感が強まっている。それに加えて、モエの正体についても広まってしまっているのだ。外回りに連れて行くには危険と判断したのである。
そのために、外回りの最中のイジスは護衛のランスと二人で行動しているというわけだ。
「それにしても、ランスと二人での行動も久しぶりだな」
「そうでございますね。モエでなくて悪うございますけれどね」
「……やっかみかな?」
ランスの言い方に何とも言えない感情を感じるイジスである。
「別に、モエさんに嫉妬しているとかありませんよ。ええ、そりゃもちろんですよ」
いちいち言い方が引っ掛かるランスである。
「まったく、言い繕えば言い繕うほどぼろが出るからやめた方がいいぞ、ランス。君との付き合いも長いんだからな」
ついつい呆れてしまうイジス。その表情はなんともいえない笑みを浮かべたものだった。
「訳の分からない事はさておいて、今日も街の人の話を聞いて回らないとな」
「そうでございますね。先日のマイコニドの出現以来、不安が広がっていますからね」
ランスが言えば、イジスはこくりと小さく頷いていた。
「モエで感覚が狂ってはいたが、マイコニドは危険な胞子を振りまく存在だからね。まさか、一人であそこまで街の自警団がまったく役に立たなくなるとは。遠距離攻撃ができる人員を増やさないといけないな」
「そうでございますね。接近しなければマイコニドもあまり脅威ではありませんからね」
「数日経って落ち着いただろうから、自警団から聞き取りをするとしようか」
「はっ、それでは自警団の事務所に向かいます」
マッシュの毒の胞子による後遺症も緩んだだろうと判断したイジスは、自警団へと向かっていったのだった。
同じ頃、モエは屋敷の中で他のメイドたちと交流を行っていた。
イジスが外回りに出かけたのだが、先の理由で置いてきぼりを食らったのである。
今は仕事も片付いたので、教育係のエリィの付き添いの下、後輩人外メイドであるビスとキャロと一緒に使用人の休憩室でお話の真っ最中である。
「モエ先輩、お留守番なのですね」
どストレートに言うビスである。慣れてきたのか、意外とずけずけと言うようになっていた。
「仕方ありませんよ。先日の件でマイコニドに対する住民たちは警戒していますからね。モエさんも同じマイコニドですから、今までの振る舞いでモエさんの事が分かっているとはいっても、つい警戒してしまうというものです」
紅茶をくいっと一口含むエリィ。
「モエさん一人だけで、私たちもマイコニドに対する感覚が狂ってしまっていますからね。先日のマイコニド襲来の話を聞いて、私もつい思い出してしまいましたよ」
言葉を続けたエリィは、モエの事を心配しているような表情をしている。
「……正直、お留守番を言い渡されて、ショックを受けていますよ。でも、マッシュ一人だけで混乱したあの状況を思い返すと、納得せざるを得ませんでした」
笑顔を見せながら話すモエだが、よく見ると眉が寄っている。
「そのマッシュってマイコニド、モエ先輩の何なのですかにゃあ?」
キャロがこれまた無神経にストレートに聞いている。
「ただの幼馴染みですよ。……ただ、あんな風に思われているとは思いませんでしたけどね。年の近いマイコニドが居なかったので、あんまり気にしてなかったのですけれど、改めてあんな言葉を聞くと正直悩んでしまいますね」
無神経なキャロの質問だったが、モエは正直に答えていた。
イジスに対して普段通りに接していたモエではあるけれど、実際はかなり真剣に悩んでいるようなのだ。
「そんな風に悩むなんて、モエさんもだいぶ成長したんですね」
エリィは感心しているものの、それもだいぶ失礼ではないだろうか。
「酷いですね。マイコニドだって人型を取る以上、人間のように成長しますよ」
さすがにこれには、頬を膨らませてエリィに抗議するモエである。
「でも……、集落の掟を破っている以上は私は森には戻れませんからね。まあ、戻る気もありませんけど」
かと思えば、エリィたちを見てにこやかな笑顔を見せるモエである。
いろいろと悩んだけれども、今さら感が強すぎるのだ。
マッシュに再会して少し気持ちが揺らいだかのように思えたが、マッシュに言い放った通りにモエの決心は固いようである。
ところが、マッシュの登場は、少しずつではあるものの着実にモエやイジスたちの生活に影響を及ぼしているのだった。
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