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第54話 緊迫の再会
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子爵邸から慌てて出ていくイジスとモエ。マイコニドが現れたという場所までやって来ると、現場は物々しい雰囲気に包まれていた。
「どうした。状況はどうなっている」
「これはイジス様。マイコニドが現れたのですが、近寄られた者が次々と倒れてしまいまして……」
「現在は魔法で牽制して、どうにか距離を取っている状態でございます」
イジスが状況を確認すると、兵士たちは怯えたように答えを返してきた。
「くっ、話には聞いていたが、これがマイコニドの胞子の威力か……。モエが安全なだけにうっかり忘れそうになっていた」
目の前の状況に、イジスは厳しい表情を見せている。
それとは対照的に、目の前に居るマイコニドを見つけて、モエは思わず声を上げてしまう。
「マッシュ?!」
その声にイジスは思わず反応する。
「知り合いなのか」
「はい。同じ集落に居た幼馴染みです。私ですら道に迷ったのに、マッシュはどうやってここまで来たのかしら……」
「気になるのは分かるが、今はあいつをどうにかしないとな。モエの知り合いなら丁重にお引き取りを願いたいが、あの気配じゃそう簡単にいきそうにはないな……」
モエの話に耳を傾けてイジスは、改めてマッシュを見る。
マッシュの頭の周りの空気が毒々しすぎて、空気の色がほんのり緑色に変化していた。
「……彼の胞子は毒か」
イジスは呟く。
マイコニドは状態以上を引き起こす胞子を、常に頭から振りまいている。
そのために、イジスが慌てて鑑定魔法を使った結果、そのような情報が得られたのであった。
「このままでは近くで倒れている者たちが心配だな。どうにかして彼を人々から遠ざけねば……」
「それでしたら、私が」
イジスが悩んでいると、モエが名乗り出る。
「これ以上街の方々に迷惑は掛けられません。マッシュは私の幼馴染みですし、私が前面に出て説得します。それに、私の癒しの胞子なら、倒れている方々を同時に助けられると思いますし」
モエの表情は真剣だった。そのどこか思い詰めた表情に、イジスは決断を下す。
「……分かった。モエに任せよう」
「ありがとう存じます」
モエは意を決すると、普段から頭にかぶっている帽子に手を掛ける。
何を思ったのか、帽子を脱いで、きのこの笠を露わにしたのだった。
「モエ?!」
さすがにイジスは驚く。
(私の胞子の効果を最大限に活かすには、帽子をかぶっていちゃダメだもの。それに、このままじゃマッシュの身も危険だものね)
モエは驚く周りの人間たちの姿を尻目に、マッシュへと近付いていった。
「マッシュ!」
モエが叫ぶと、マッシュが視線を向ける。
「モエ、無事だったのか」
嬉しそうに叫ぶマッシュ。
「だが、何なんだ、その格好は」
次の瞬間、モエの着ている服に対してツッコミが入った。
「今の私はガーティス子爵様のお屋敷でメイドをしているのよ。これはその制服」
「なんだと?!」
驚きのあまり、マッシュが叫ぶ。
「どうして胞子があるのに、人間の屋敷に踏み込んでいられるんだ」
当然のように飛び出す疑問である。なにせマッシュ自身は近付いたら人間がバタバタと倒れていったのだから。
「どうやらね、私の胞子には癒しの効果があるみたいなのよ。だから、私は人間たちに近付いても大丈夫だったみたい」
「な、なんだってーっ!」
マッシュも盛大に驚く事実である。それが証拠に、モエの近くに居る人間たちは、マッシュの毒の胞子から回復し始めていた。
「こ、これは?」
「みなさん、回復したのなら、体の胞子をよく払ってからイジス様たちの方へ。私の胞子で中和しているとはいっても、安全とは限りませんからね」
「これは、ありがたい」
モエの頭の笠に驚きながらも、起き上がった兵士たちは体をよく叩いてからすぐさま退却していった。
「まったく、何をしに来たというのかしらね、マッシュ」
「何って、モエに会いに来たに決まっているだろう」
「どこに居るのか知らないくせに、よくここを探り当てたわね。褒めたいけれど、私たちマイコニドの胞子のこと、忘れ過ぎじゃないの?」
叫ぶマッシュに対して、冷めたように受け答えをするモエ。人の事は言えないが、集落の掟を破ったマッシュにお説教モードである。
「まったく、これ以上迷惑を掛けないうちに、森に帰ってちょうだい。私とマッシュじゃ、もう住む世界が違い過ぎるんだから」
モエにこう言われて、マッシュはショックを受けまくりだった。思わずその場に両手をついて倒れ込むくらいだった。
「う、嘘だ……。小さい頃から一緒だったのに、ここまで拒否されるなんて……」
マッシュは何かをぶつぶつと言っている。
「俺は、諦めないぞ。お前は知らないだろうがな、俺は昔っからお前の事が好きだったんだよ!」
顔を上げて立ち上がったかと思うと、マッシュから爆弾発言が飛び出した。
後ろで見守るイジスたちもだが、目の前で説得にあたっているモエが一番驚いていたのだ。
マッシュの振りまく毒で緊迫した状況になっているというのに、思わぬ発言でその場の時間が止まってしまったのだった。
「どうした。状況はどうなっている」
「これはイジス様。マイコニドが現れたのですが、近寄られた者が次々と倒れてしまいまして……」
「現在は魔法で牽制して、どうにか距離を取っている状態でございます」
イジスが状況を確認すると、兵士たちは怯えたように答えを返してきた。
「くっ、話には聞いていたが、これがマイコニドの胞子の威力か……。モエが安全なだけにうっかり忘れそうになっていた」
目の前の状況に、イジスは厳しい表情を見せている。
それとは対照的に、目の前に居るマイコニドを見つけて、モエは思わず声を上げてしまう。
「マッシュ?!」
その声にイジスは思わず反応する。
「知り合いなのか」
「はい。同じ集落に居た幼馴染みです。私ですら道に迷ったのに、マッシュはどうやってここまで来たのかしら……」
「気になるのは分かるが、今はあいつをどうにかしないとな。モエの知り合いなら丁重にお引き取りを願いたいが、あの気配じゃそう簡単にいきそうにはないな……」
モエの話に耳を傾けてイジスは、改めてマッシュを見る。
マッシュの頭の周りの空気が毒々しすぎて、空気の色がほんのり緑色に変化していた。
「……彼の胞子は毒か」
イジスは呟く。
マイコニドは状態以上を引き起こす胞子を、常に頭から振りまいている。
そのために、イジスが慌てて鑑定魔法を使った結果、そのような情報が得られたのであった。
「このままでは近くで倒れている者たちが心配だな。どうにかして彼を人々から遠ざけねば……」
「それでしたら、私が」
イジスが悩んでいると、モエが名乗り出る。
「これ以上街の方々に迷惑は掛けられません。マッシュは私の幼馴染みですし、私が前面に出て説得します。それに、私の癒しの胞子なら、倒れている方々を同時に助けられると思いますし」
モエの表情は真剣だった。そのどこか思い詰めた表情に、イジスは決断を下す。
「……分かった。モエに任せよう」
「ありがとう存じます」
モエは意を決すると、普段から頭にかぶっている帽子に手を掛ける。
何を思ったのか、帽子を脱いで、きのこの笠を露わにしたのだった。
「モエ?!」
さすがにイジスは驚く。
(私の胞子の効果を最大限に活かすには、帽子をかぶっていちゃダメだもの。それに、このままじゃマッシュの身も危険だものね)
モエは驚く周りの人間たちの姿を尻目に、マッシュへと近付いていった。
「マッシュ!」
モエが叫ぶと、マッシュが視線を向ける。
「モエ、無事だったのか」
嬉しそうに叫ぶマッシュ。
「だが、何なんだ、その格好は」
次の瞬間、モエの着ている服に対してツッコミが入った。
「今の私はガーティス子爵様のお屋敷でメイドをしているのよ。これはその制服」
「なんだと?!」
驚きのあまり、マッシュが叫ぶ。
「どうして胞子があるのに、人間の屋敷に踏み込んでいられるんだ」
当然のように飛び出す疑問である。なにせマッシュ自身は近付いたら人間がバタバタと倒れていったのだから。
「どうやらね、私の胞子には癒しの効果があるみたいなのよ。だから、私は人間たちに近付いても大丈夫だったみたい」
「な、なんだってーっ!」
マッシュも盛大に驚く事実である。それが証拠に、モエの近くに居る人間たちは、マッシュの毒の胞子から回復し始めていた。
「こ、これは?」
「みなさん、回復したのなら、体の胞子をよく払ってからイジス様たちの方へ。私の胞子で中和しているとはいっても、安全とは限りませんからね」
「これは、ありがたい」
モエの頭の笠に驚きながらも、起き上がった兵士たちは体をよく叩いてからすぐさま退却していった。
「まったく、何をしに来たというのかしらね、マッシュ」
「何って、モエに会いに来たに決まっているだろう」
「どこに居るのか知らないくせに、よくここを探り当てたわね。褒めたいけれど、私たちマイコニドの胞子のこと、忘れ過ぎじゃないの?」
叫ぶマッシュに対して、冷めたように受け答えをするモエ。人の事は言えないが、集落の掟を破ったマッシュにお説教モードである。
「まったく、これ以上迷惑を掛けないうちに、森に帰ってちょうだい。私とマッシュじゃ、もう住む世界が違い過ぎるんだから」
モエにこう言われて、マッシュはショックを受けまくりだった。思わずその場に両手をついて倒れ込むくらいだった。
「う、嘘だ……。小さい頃から一緒だったのに、ここまで拒否されるなんて……」
マッシュは何かをぶつぶつと言っている。
「俺は、諦めないぞ。お前は知らないだろうがな、俺は昔っからお前の事が好きだったんだよ!」
顔を上げて立ち上がったかと思うと、マッシュから爆弾発言が飛び出した。
後ろで見守るイジスたちもだが、目の前で説得にあたっているモエが一番驚いていたのだ。
マッシュの振りまく毒で緊迫した状況になっているというのに、思わぬ発言でその場の時間が止まってしまったのだった。
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