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第44話 モエはよく分からない
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ラビス族の女性はビス、キャラル族の女性はキャロと名前が決まった。種族名からの安直な名前ではあるものの、二人とも名前を貰って喜んでいたようである。
「名前って、私たちにとっては特別なものです。名前を頂くとちょっと特別な力を授かるんですよ」
こう語るのはラビス族の女性である。
なんでも種族によっては、生まれてから亡くなるまで名前がないなんていうのは当たり前らしい。
そして、名前によって特別な力を授かるというのも、どうやらラビス族、キャラル族ともに伝承として伝わっているのだそうだ。
これを聞いて、エリィはモエの方を見ていた。
「あの、何でしょうか、エリィさん……」
じっと眺められて恥ずかしくなるモエである。
「いえ、モエさんももしかしたら、そういう名付けの恩恵を受けているのではないかと思いましてね」
「どうして、そう思われるんですか?」
エリィの疑問に、モエはついツッコミを入れてしまう。
「モエさんのその胞子ですよ。マイコニドの胞子は基本的に誰もが有害な効果を発揮します。だというのにモエさんは癒しなどの浄化の効果を持つ胞子を振り撒くのです。名付けの話を聞くと、そこに疑問が生じるのは当然ではないですか?」
……たしかに、エリィの指摘は一理あるかも知れない。
ただ、モエの居た集落のマイコニドは、生まれてすぐに人間と同じように名付けを行っている。当たり前の慣習すぎて、そんな事がありえるのかとモエは思っているのだ。
「そうだ、モエさん。イジス様がお呼びでしたので、この後お部屋に向かって下さい」
「えっ、イジス様が何のご用なんですか?」
エリィから言伝を受けて、モエは首を傾げている。
「なんでもいいから行って下さい。行かなければイジス様がすねますからね」
エリィに念押しされたモエは、ビスとキャロをエリィに任せ、渋々イジスの部屋へと向かったのだった。
イジスの部屋の前に立ったモエは、いつになくどこか緊張した気持ちで扉を叩く。
「お呼びでしょうか、イジス様。モエでございます」
「ああ、モエか。すまないな来てもらって。入ってくれ」
イジスの返事があったので、モエは扉を開けて中へと入る。そこには、先日助けた獣たちの一部がくつろいでいた。
「結局イジス様が、飼ってらっしゃるんですか……」
その様子に思わず声が漏れてしまうモエである。
「まぁね。どういうわけか懐かれてしまってね」
「なるほど、私を呼んだのはそういう事でございますか……」
「わうっ!」
状況を察したモエがため息まじりに納得すると、頭の上のルスが吠えた。
「くう~ん」
「ぐるっ?」
獣たちが会話をしている。すると、獣たちはモエに向かって首を垂れた。いや、モエというよりはその頭の上に居るルスに対しての反応のようである。
すると、ルスは満足そうに誇らしげな表情をしていた。
「どうやら、ルスがボスになったみたいだな」
「なんだか、そのようですね……」
言葉の分からないイジスとモエだが、雰囲気でなんとなく分かったようだった。
思わず二人して笑ってしまう。
「なんだか、相談したくて呼んだんだけど、あっさり終わってしまったみたいだな」
「そうなのですか……」
「そうなんですよ。この獣たちの扱いをどうするか、困ったイジス様はモエさんを呼んだというわけです」
突然聞こえてきた声に顔を向けるモエ。そこにはイジスの護衛であるランスが立っていた。
「あっ、ランスさん、いらしたんですか」
「いらしたんですかって、気が付いていなかったのですか」
「ええ、獣たちに完全に意識が向いてしまいましたので」
「……あなたもはっきり仰いますね」
淡々と答えるモエの態度にちょっとランスがすねていた。しかし、実際にモエの意識は獣に完全に向いていて、まったく気が付かなかったのだ。ランスは泣いていい。
「それで、モエ」
「何でしょうか、イジス様」
急に声を掛けられて、モエはちょっときょどった反応をする。
「よかったら、一緒にこの子たちの世話をしてくれないかな」
「……畏まりました。ルスも居ますので、おそらくはそんなに問題はないかと存じます」
少し間があったものの、モエはイジスの頼みを聞き入れていた。
この話が決定すると、雰囲気を察したのか獣たちがモエの足元へと集まって来ていた。
「ちょっと、そんなに集まられると……、きゃっ!」
一気に集まられてしまったので、モエはついバランスを崩して倒れてしまう。
「いった~……」
尻餅をついたモエは、つい片目を閉じながら痛がっていた。
「わうっ!」
急に何をするんだと言わんばかりにルスが獣たちを叱るように吠えた。それに驚いた獣たちは一斉に頭を下げていた。どうやら謝っているようである。
「モエ、大丈夫だったかい?」
「はい、びっくりはしましたけど、大丈夫です」
モエを気遣うイジスだったが、モエの姿を見てつい目を逸らしてしまう。それもそのはず。倒れたショックでモエのスカートがまくり上がっていたのだ。そのためにイジスは直視を避けたのである。
その姿を見てきょとんとしてしまうモエ。ゆっくりと立ち上がると座り直して獣たちの頭を撫でていた。
いろいろあったものの、助け出した獣たちはイジスとモエで世話をする事が決まったのだった。
「名前って、私たちにとっては特別なものです。名前を頂くとちょっと特別な力を授かるんですよ」
こう語るのはラビス族の女性である。
なんでも種族によっては、生まれてから亡くなるまで名前がないなんていうのは当たり前らしい。
そして、名前によって特別な力を授かるというのも、どうやらラビス族、キャラル族ともに伝承として伝わっているのだそうだ。
これを聞いて、エリィはモエの方を見ていた。
「あの、何でしょうか、エリィさん……」
じっと眺められて恥ずかしくなるモエである。
「いえ、モエさんももしかしたら、そういう名付けの恩恵を受けているのではないかと思いましてね」
「どうして、そう思われるんですか?」
エリィの疑問に、モエはついツッコミを入れてしまう。
「モエさんのその胞子ですよ。マイコニドの胞子は基本的に誰もが有害な効果を発揮します。だというのにモエさんは癒しなどの浄化の効果を持つ胞子を振り撒くのです。名付けの話を聞くと、そこに疑問が生じるのは当然ではないですか?」
……たしかに、エリィの指摘は一理あるかも知れない。
ただ、モエの居た集落のマイコニドは、生まれてすぐに人間と同じように名付けを行っている。当たり前の慣習すぎて、そんな事がありえるのかとモエは思っているのだ。
「そうだ、モエさん。イジス様がお呼びでしたので、この後お部屋に向かって下さい」
「えっ、イジス様が何のご用なんですか?」
エリィから言伝を受けて、モエは首を傾げている。
「なんでもいいから行って下さい。行かなければイジス様がすねますからね」
エリィに念押しされたモエは、ビスとキャロをエリィに任せ、渋々イジスの部屋へと向かったのだった。
イジスの部屋の前に立ったモエは、いつになくどこか緊張した気持ちで扉を叩く。
「お呼びでしょうか、イジス様。モエでございます」
「ああ、モエか。すまないな来てもらって。入ってくれ」
イジスの返事があったので、モエは扉を開けて中へと入る。そこには、先日助けた獣たちの一部がくつろいでいた。
「結局イジス様が、飼ってらっしゃるんですか……」
その様子に思わず声が漏れてしまうモエである。
「まぁね。どういうわけか懐かれてしまってね」
「なるほど、私を呼んだのはそういう事でございますか……」
「わうっ!」
状況を察したモエがため息まじりに納得すると、頭の上のルスが吠えた。
「くう~ん」
「ぐるっ?」
獣たちが会話をしている。すると、獣たちはモエに向かって首を垂れた。いや、モエというよりはその頭の上に居るルスに対しての反応のようである。
すると、ルスは満足そうに誇らしげな表情をしていた。
「どうやら、ルスがボスになったみたいだな」
「なんだか、そのようですね……」
言葉の分からないイジスとモエだが、雰囲気でなんとなく分かったようだった。
思わず二人して笑ってしまう。
「なんだか、相談したくて呼んだんだけど、あっさり終わってしまったみたいだな」
「そうなのですか……」
「そうなんですよ。この獣たちの扱いをどうするか、困ったイジス様はモエさんを呼んだというわけです」
突然聞こえてきた声に顔を向けるモエ。そこにはイジスの護衛であるランスが立っていた。
「あっ、ランスさん、いらしたんですか」
「いらしたんですかって、気が付いていなかったのですか」
「ええ、獣たちに完全に意識が向いてしまいましたので」
「……あなたもはっきり仰いますね」
淡々と答えるモエの態度にちょっとランスがすねていた。しかし、実際にモエの意識は獣に完全に向いていて、まったく気が付かなかったのだ。ランスは泣いていい。
「それで、モエ」
「何でしょうか、イジス様」
急に声を掛けられて、モエはちょっときょどった反応をする。
「よかったら、一緒にこの子たちの世話をしてくれないかな」
「……畏まりました。ルスも居ますので、おそらくはそんなに問題はないかと存じます」
少し間があったものの、モエはイジスの頼みを聞き入れていた。
この話が決定すると、雰囲気を察したのか獣たちがモエの足元へと集まって来ていた。
「ちょっと、そんなに集まられると……、きゃっ!」
一気に集まられてしまったので、モエはついバランスを崩して倒れてしまう。
「いった~……」
尻餅をついたモエは、つい片目を閉じながら痛がっていた。
「わうっ!」
急に何をするんだと言わんばかりにルスが獣たちを叱るように吠えた。それに驚いた獣たちは一斉に頭を下げていた。どうやら謝っているようである。
「モエ、大丈夫だったかい?」
「はい、びっくりはしましたけど、大丈夫です」
モエを気遣うイジスだったが、モエの姿を見てつい目を逸らしてしまう。それもそのはず。倒れたショックでモエのスカートがまくり上がっていたのだ。そのためにイジスは直視を避けたのである。
その姿を見てきょとんとしてしまうモエ。ゆっくりと立ち上がると座り直して獣たちの頭を撫でていた。
いろいろあったものの、助け出した獣たちはイジスとモエで世話をする事が決まったのだった。
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