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第23話 熱に浮かされて
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さてさて、イジスの方はどうかというと、この日も父親のガーティス子爵の仕事の一部を任されていた。横には護衛のランスが監視をしている。
「ランス」
「ダメです」
ランスに話し掛けると、秒で却下されるイジス。
「まだ何も言ってないだろう?」
「モエに会いに行きたいのでしょう? ダメです」
「くっ……」
すっかり見透かされていて、イジスは歯を食いしばっていた。そういう状態だから却下されるのである。
イジスがモエにご執心なのは前から分かっている事だし、ずっとそわそわしているので誰の目にも明らかなのだ。
「まったく、あのマイコニドのどこに惚れたんですか、イジス様は」
「直感だ! 彼女を見た時に、私には衝撃が走ったんだ」
ランスが呆れたようにイジスに言うと、イジスからはお返しとばかりに即答で反応が返ってきた。
イジスはひと目惚れみたいな事を言っているのだが、今までどんな令嬢に対してもまったく反応がなかったがゆえに、いささかというどころかかなり説得力に欠ける話だった。
それで、モエがマイコニドだという事もあって、極力会わせないようにしてこうやって隔離してきたのだが、イジスのモエに対する感情は消え去るどころかいまだにしっかりと燃え続けていた。ほとんどそばに居るランスもそうだが、父親であるガーティス子爵や家令のグリムたちも驚きを隠せずにいたのだった。
害になるのならさっさと追い出してもよかったのだが、モエを屋敷に置くようになってからイジスはちゃんと真面目に仕事に取り組んでいる。なので、不思議に思いながらもモエを屋敷に置き続けているのだ。
「はあ、モエに会いたい」
「ダメです。彼女はただの使用人です。意味もなく使用人と仲良くするような事はおやめ下さい。それこそ、旦那様に認められてからの話ですよ」
「ぐぬぬぬぬ……」
ランスに言いくるめられて、イジスは机に肘をつきながら頭をわしゃわしゃと掻いていた。
「父上に認められるとなると、何年先になるんだ……。私には……耐えられない!」
イジスは反り返って大声を上げている。
どうしてこうなったのだろうか。目の前のランスははっきり言って頭が痛かった。なにせ学生時代からの付き合いゆえに、イジスの事は把握しているつもりだったからだ。
それが、マイコニド1体のせいでここまで心乱されているのである。さすがのランスも、どうしてこうなったのか分からないのである。
「イジス様がそこまでご執心になるのははっきり言って理解できませんね、それに私はお目付け役でございますので、イジス様のために動くわけには参りません。ですので、私に協力を求められても困ります」
ランスは取り乱すイジスを見ても、まったく態度を変えなかった。
「そこを何とか頼む!」
「ダメです」
泣きつこうとするイジスを一刀両断にするランス。すると、イジスはいじけてしまった。そのあまりの凹みように、ランスは見ていられなくなってしまう。
「そういえば、モエは食堂の掃除を担当していましたね。時間としては食事の行われる少し前ですから、もしかしたら……」
つい、こんな事を呟いてしまうのだ。しかも、わざと聞こえるように。
これを聞いたイジスは、突如とやる気を出して仕事をし始めた。
(まったく、こんな事でやる気を出すだなんて、単純ですね……)
急に頑張り出したイジスを見ながら、なんとも呆れるしかないランスだった。
仕事を早めに終わらせたイジスは、夕食前の食堂へと向かう。その後ろにはランスが付き添っている。イジスが万一暴走しないとも限らないので、お目付け役として付いてきているのだ。
食堂へとやって来たイジスは、躊躇なく扉を開けて中へと入る。
「だ、誰ですか?!」
中に居たモエが驚いている。だが、イジスとランスの姿を見てちょっと落ち着いたようだった。なにせ自分を助けてくれた二人なのだから、こういう反応になってしまうのだ。
「これはイジス様、ランス様。どうかなさったのですか?」
モエもそれなりに子爵邸での生活に慣れてきたので、使用人らしい対応をしている。
「いや、早く仕事が終わったので、暇を持て余してね。こうやって見回りをしているんだよ」
嘘である。単純にモエに会いたくて食堂へとやって来たのだ。イジスの後ろでランスは顔を押さえている。
「そうでございますか。ですが、食堂はまだ掃除が終わっていません。いくらお二人とはいっても、入室させるわけには参りません。ルス!」
「わうっ!」
モエがルスを呼ぶと、モエの頭上からルスが姿を見せてイジスたちへと駆け寄っていく。どうやら光学迷彩で姿を消していたようだった。
「ちょうどいいですので、ルスのお相手をお願い致します。どういうわけか、今回ばかりは言う事を聞いてくれませんでしたので、構って頂けるとありがたいです」
なんともまあ、モエから塩対応を食らってしまうイジスだった。
だが、モエからの頼みとあっては、イジスは笑顔を浮かべてしまっていた。この男、かなりの重症のようだった。
「分かった。ルスの面倒は見ておくから、終わったら私の部屋まで引き取りに来てほしい」
「承知致しました。では、邪魔になりますので、すぐに出ていって下さいませ」
喜ぶイジスに、塩対応のモエ。この様子を見たランスは、望み薄だと感じたのだった。
だが、ルスを抱えたイジスはまるでスキップを踏むかのような足取りで部屋まで戻っていったのだった。はたしてこんな状態でガーティス子爵家は大丈夫なのだろうか。
(ダメだこの人。早くなんとかしないと……)
ランスは胃が痛くなった気がしたのだった。
「ランス」
「ダメです」
ランスに話し掛けると、秒で却下されるイジス。
「まだ何も言ってないだろう?」
「モエに会いに行きたいのでしょう? ダメです」
「くっ……」
すっかり見透かされていて、イジスは歯を食いしばっていた。そういう状態だから却下されるのである。
イジスがモエにご執心なのは前から分かっている事だし、ずっとそわそわしているので誰の目にも明らかなのだ。
「まったく、あのマイコニドのどこに惚れたんですか、イジス様は」
「直感だ! 彼女を見た時に、私には衝撃が走ったんだ」
ランスが呆れたようにイジスに言うと、イジスからはお返しとばかりに即答で反応が返ってきた。
イジスはひと目惚れみたいな事を言っているのだが、今までどんな令嬢に対してもまったく反応がなかったがゆえに、いささかというどころかかなり説得力に欠ける話だった。
それで、モエがマイコニドだという事もあって、極力会わせないようにしてこうやって隔離してきたのだが、イジスのモエに対する感情は消え去るどころかいまだにしっかりと燃え続けていた。ほとんどそばに居るランスもそうだが、父親であるガーティス子爵や家令のグリムたちも驚きを隠せずにいたのだった。
害になるのならさっさと追い出してもよかったのだが、モエを屋敷に置くようになってからイジスはちゃんと真面目に仕事に取り組んでいる。なので、不思議に思いながらもモエを屋敷に置き続けているのだ。
「はあ、モエに会いたい」
「ダメです。彼女はただの使用人です。意味もなく使用人と仲良くするような事はおやめ下さい。それこそ、旦那様に認められてからの話ですよ」
「ぐぬぬぬぬ……」
ランスに言いくるめられて、イジスは机に肘をつきながら頭をわしゃわしゃと掻いていた。
「父上に認められるとなると、何年先になるんだ……。私には……耐えられない!」
イジスは反り返って大声を上げている。
どうしてこうなったのだろうか。目の前のランスははっきり言って頭が痛かった。なにせ学生時代からの付き合いゆえに、イジスの事は把握しているつもりだったからだ。
それが、マイコニド1体のせいでここまで心乱されているのである。さすがのランスも、どうしてこうなったのか分からないのである。
「イジス様がそこまでご執心になるのははっきり言って理解できませんね、それに私はお目付け役でございますので、イジス様のために動くわけには参りません。ですので、私に協力を求められても困ります」
ランスは取り乱すイジスを見ても、まったく態度を変えなかった。
「そこを何とか頼む!」
「ダメです」
泣きつこうとするイジスを一刀両断にするランス。すると、イジスはいじけてしまった。そのあまりの凹みように、ランスは見ていられなくなってしまう。
「そういえば、モエは食堂の掃除を担当していましたね。時間としては食事の行われる少し前ですから、もしかしたら……」
つい、こんな事を呟いてしまうのだ。しかも、わざと聞こえるように。
これを聞いたイジスは、突如とやる気を出して仕事をし始めた。
(まったく、こんな事でやる気を出すだなんて、単純ですね……)
急に頑張り出したイジスを見ながら、なんとも呆れるしかないランスだった。
仕事を早めに終わらせたイジスは、夕食前の食堂へと向かう。その後ろにはランスが付き添っている。イジスが万一暴走しないとも限らないので、お目付け役として付いてきているのだ。
食堂へとやって来たイジスは、躊躇なく扉を開けて中へと入る。
「だ、誰ですか?!」
中に居たモエが驚いている。だが、イジスとランスの姿を見てちょっと落ち着いたようだった。なにせ自分を助けてくれた二人なのだから、こういう反応になってしまうのだ。
「これはイジス様、ランス様。どうかなさったのですか?」
モエもそれなりに子爵邸での生活に慣れてきたので、使用人らしい対応をしている。
「いや、早く仕事が終わったので、暇を持て余してね。こうやって見回りをしているんだよ」
嘘である。単純にモエに会いたくて食堂へとやって来たのだ。イジスの後ろでランスは顔を押さえている。
「そうでございますか。ですが、食堂はまだ掃除が終わっていません。いくらお二人とはいっても、入室させるわけには参りません。ルス!」
「わうっ!」
モエがルスを呼ぶと、モエの頭上からルスが姿を見せてイジスたちへと駆け寄っていく。どうやら光学迷彩で姿を消していたようだった。
「ちょうどいいですので、ルスのお相手をお願い致します。どういうわけか、今回ばかりは言う事を聞いてくれませんでしたので、構って頂けるとありがたいです」
なんともまあ、モエから塩対応を食らってしまうイジスだった。
だが、モエからの頼みとあっては、イジスは笑顔を浮かべてしまっていた。この男、かなりの重症のようだった。
「分かった。ルスの面倒は見ておくから、終わったら私の部屋まで引き取りに来てほしい」
「承知致しました。では、邪魔になりますので、すぐに出ていって下さいませ」
喜ぶイジスに、塩対応のモエ。この様子を見たランスは、望み薄だと感じたのだった。
だが、ルスを抱えたイジスはまるでスキップを踏むかのような足取りで部屋まで戻っていったのだった。はたしてこんな状態でガーティス子爵家は大丈夫なのだろうか。
(ダメだこの人。早くなんとかしないと……)
ランスは胃が痛くなった気がしたのだった。
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