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第18話 モエと聖獣
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結局聖獣はモエに懐いたままとなってしまい、屋敷に連れて帰る事になった。
それにしても、この聖獣の毛並みは何とも不思議な色をしている。普段は真っ白なのだが、光を反射して様々な色に見える。まるで虹色の毛並みのようだった。
「プリズムウルフという名の聖獣じゃな。普段は光を反射して姿が見えぬようになると言われておる。この子は幼体がゆえにその迷彩がうまくいかず、それにはぐれたところをさらわれたのじゃろうなぁ」
馬車の中でジニアスはそのように話しながら顎を擦っている。
「ウルフの名がつく通り、鼻はよく利く。じゃが、これだけ離れ離れという事は、親の方も何かあった可能性はあるじゃろうな」
ジニアスは今度は腕を組んで唸っていた。
「ジニアス殿、そのプリズムウルフとは一体どんな聖獣なのですかな?」
気になるガーティス子爵が質問をする。
すると、ジニアスはそれに反応して顔を上げて、咳払いを一つする。
「さっきも言った通り光の加減を操って姿を消すのじゃが、能力としては天候を操るという風に言われておる。敬えば恵みをもたらし、粗末に扱えばその地は滅びると言われておるな」
「なんともまあ、とんでもない存在ではないですか。それだというのに、この扱い……、許せませんな」
「じゃのう。毛色が見ての通り虹色に変わるがゆえに、高く売れると踏んだんじゃろうな。まったく罰当たりな事じゃわい……」
ジニアスもガーティス子爵も険しい顔をして黙り込んでしまった。あまりの雰囲気にイジスは黙り込んでしまう。
ただ一人、モエだけは馬車の中の空気と関係なく、聖獣とじゃれついて笑っていた。
ガーティス子爵邸へ戻ってきたところで、四人は再びガーティス子爵の私室へと移動する。モエは聖獣を抱えたままである。地面に降ろそうとしても嫌がるので仕方がない。よっぽどモエの事を気に入ったようだった。
テーブルを囲んで座る四人。モエは聖獣を抱えたまま、不安そうに子爵たちを見ている。
「密売組織をさっさと潰さねば、更なる被害が生まれる可能性があるな」
「それは同意じゃのう。聖獣をあそこまでボロボロにした上に殺そうとまでしておったんじゃからな。罰当たりが過ぎるわい」
子爵とジニアスは怒り心頭だった。
「父上、捕まえた奴らは何か吐きましたか?」
そこにイジスが質問をぶつける。
「拒否をした挙句、舌を噛み切って自害したらしい。まったく、なんて奴らだ……」
子爵は苦虫を噛み潰したような表情で、驚きの事実を吐き捨てていた。
モエと出会ったあの日、モエに襲い掛かっていた連中は、すでに全員が息絶えていたのだ。
モエに襲い掛かった事といい、聖獣を埋め捨てようとしていた事といい、奴らは間違いなく違法取引をしている連中の仲間のはずである。
だが、全員が何も白状しなかった事で、この件は再び捜査のやり直しとなってしまったのである。正直痛すぎる展開だった。
「まったく、違法取引の事だけでも頭が痛いというのに、聖獣までもが関係しているとなると、ただの不祥事では済まないぞ……」
ガーティス子爵は肘をついて頭を抱え込んでしまった。
「くぅ~ん」
突如として響いた声に、全員が驚いて視線を向ける。
「今、鳴いたか?」
「うむ、間違いなく鳴いたな」
「確かに鳴きましたね」
全員が口々に言う。間違いなく動物の鳴いた声が聞こえたのである。
「今の、もしかしてあなたなの?」
聖獣を抱えるモエは、聖獣の顔を自分に向けてじっと見つめる。
「あうんっ!」
すると、聖獣は間違いなく鳴いたのだった。
よく見ると、聖獣のけがはほとんど癒えている状態になっていた。モエがずっと抱きかかえていたので、その胞子の恩恵をまともに受けていたのだ。
聖獣は舌を出しながら、尻尾を左右にぶんぶんと振っている。完全にモエに懐いているようだ。
「解決はできなかったが、聖獣が無事だっただけでも今回はまだマシか。だが、我が領内での勝手な振る舞いをこのまま放ってはおけぬ。イジス、ランスにも伝えてすぐに調査団を結成するぞ」
「分かりました、父上」
子爵とイジスは勢いよく立ち上がると、バタバタと私室を出ていった。部屋の中にはジニアスとモエの二人だけが取り残された。
「ふむ、領主というのも大変ですな。それよりも、モエと申しましたな。少しお話をよろしいですかな?」
ジニアスがモエに話し掛けてくる。するとモエは聖獣をきゅっと抱き締めて怯えたような反応を取った。だが、モエが抱き締める聖獣は、ジニアスに対して吠えるなどの威嚇行動を見せなかったので、モエはその警戒を緩めた。
「な、何のお話でしょうか」
しかし、あまり人間に慣れていないので、やはりモエは怯えたような反応を見せている。
「ほほほ、大した話ではありませんよ。聖獣が懐いている様子を見て、ちょっと頼み事がしたいだけなのです」
「頼み、事?」
ジニアスの言葉に、かなり大きく首を傾げるモエ。初対面の相手に頼み事をするという感覚がまったく理解できないからだった。
ところが、ジニアスはそのモエの態度を気にする事なく、その頼み事を口にする。それを聞いたモエはしばらく悩んでいたが、つぶらな瞳で自分を見ている聖獣を見て、その頼みを聞き入れる事にしたのだった。
それにしても、この聖獣の毛並みは何とも不思議な色をしている。普段は真っ白なのだが、光を反射して様々な色に見える。まるで虹色の毛並みのようだった。
「プリズムウルフという名の聖獣じゃな。普段は光を反射して姿が見えぬようになると言われておる。この子は幼体がゆえにその迷彩がうまくいかず、それにはぐれたところをさらわれたのじゃろうなぁ」
馬車の中でジニアスはそのように話しながら顎を擦っている。
「ウルフの名がつく通り、鼻はよく利く。じゃが、これだけ離れ離れという事は、親の方も何かあった可能性はあるじゃろうな」
ジニアスは今度は腕を組んで唸っていた。
「ジニアス殿、そのプリズムウルフとは一体どんな聖獣なのですかな?」
気になるガーティス子爵が質問をする。
すると、ジニアスはそれに反応して顔を上げて、咳払いを一つする。
「さっきも言った通り光の加減を操って姿を消すのじゃが、能力としては天候を操るという風に言われておる。敬えば恵みをもたらし、粗末に扱えばその地は滅びると言われておるな」
「なんともまあ、とんでもない存在ではないですか。それだというのに、この扱い……、許せませんな」
「じゃのう。毛色が見ての通り虹色に変わるがゆえに、高く売れると踏んだんじゃろうな。まったく罰当たりな事じゃわい……」
ジニアスもガーティス子爵も険しい顔をして黙り込んでしまった。あまりの雰囲気にイジスは黙り込んでしまう。
ただ一人、モエだけは馬車の中の空気と関係なく、聖獣とじゃれついて笑っていた。
ガーティス子爵邸へ戻ってきたところで、四人は再びガーティス子爵の私室へと移動する。モエは聖獣を抱えたままである。地面に降ろそうとしても嫌がるので仕方がない。よっぽどモエの事を気に入ったようだった。
テーブルを囲んで座る四人。モエは聖獣を抱えたまま、不安そうに子爵たちを見ている。
「密売組織をさっさと潰さねば、更なる被害が生まれる可能性があるな」
「それは同意じゃのう。聖獣をあそこまでボロボロにした上に殺そうとまでしておったんじゃからな。罰当たりが過ぎるわい」
子爵とジニアスは怒り心頭だった。
「父上、捕まえた奴らは何か吐きましたか?」
そこにイジスが質問をぶつける。
「拒否をした挙句、舌を噛み切って自害したらしい。まったく、なんて奴らだ……」
子爵は苦虫を噛み潰したような表情で、驚きの事実を吐き捨てていた。
モエと出会ったあの日、モエに襲い掛かっていた連中は、すでに全員が息絶えていたのだ。
モエに襲い掛かった事といい、聖獣を埋め捨てようとしていた事といい、奴らは間違いなく違法取引をしている連中の仲間のはずである。
だが、全員が何も白状しなかった事で、この件は再び捜査のやり直しとなってしまったのである。正直痛すぎる展開だった。
「まったく、違法取引の事だけでも頭が痛いというのに、聖獣までもが関係しているとなると、ただの不祥事では済まないぞ……」
ガーティス子爵は肘をついて頭を抱え込んでしまった。
「くぅ~ん」
突如として響いた声に、全員が驚いて視線を向ける。
「今、鳴いたか?」
「うむ、間違いなく鳴いたな」
「確かに鳴きましたね」
全員が口々に言う。間違いなく動物の鳴いた声が聞こえたのである。
「今の、もしかしてあなたなの?」
聖獣を抱えるモエは、聖獣の顔を自分に向けてじっと見つめる。
「あうんっ!」
すると、聖獣は間違いなく鳴いたのだった。
よく見ると、聖獣のけがはほとんど癒えている状態になっていた。モエがずっと抱きかかえていたので、その胞子の恩恵をまともに受けていたのだ。
聖獣は舌を出しながら、尻尾を左右にぶんぶんと振っている。完全にモエに懐いているようだ。
「解決はできなかったが、聖獣が無事だっただけでも今回はまだマシか。だが、我が領内での勝手な振る舞いをこのまま放ってはおけぬ。イジス、ランスにも伝えてすぐに調査団を結成するぞ」
「分かりました、父上」
子爵とイジスは勢いよく立ち上がると、バタバタと私室を出ていった。部屋の中にはジニアスとモエの二人だけが取り残された。
「ふむ、領主というのも大変ですな。それよりも、モエと申しましたな。少しお話をよろしいですかな?」
ジニアスがモエに話し掛けてくる。するとモエは聖獣をきゅっと抱き締めて怯えたような反応を取った。だが、モエが抱き締める聖獣は、ジニアスに対して吠えるなどの威嚇行動を見せなかったので、モエはその警戒を緩めた。
「な、何のお話でしょうか」
しかし、あまり人間に慣れていないので、やはりモエは怯えたような反応を見せている。
「ほほほ、大した話ではありませんよ。聖獣が懐いている様子を見て、ちょっと頼み事がしたいだけなのです」
「頼み、事?」
ジニアスの言葉に、かなり大きく首を傾げるモエ。初対面の相手に頼み事をするという感覚がまったく理解できないからだった。
ところが、ジニアスはそのモエの態度を気にする事なく、その頼み事を口にする。それを聞いたモエはしばらく悩んでいたが、つぶらな瞳で自分を見ている聖獣を見て、その頼みを聞き入れる事にしたのだった。
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