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第13話 謎めいたマイコニド
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「ひーん、やっぱり一人は無理ですぅっ!」
昼食の時、モエはエリィに泣きついていた。
まったく何があったのかと、エリィはモエに確認する。すると、実は花瓶を一回ひっくり返したらしい。幸い割れはしなかったものの、床を水浸しにしてしまったそうだ。とんだおっちょこちょいである。
「それで、どうしたんですか?」
「えいやって感じでごまかしておきました!」
えいやってどういう事なのか分からないが、エリィは部屋の時計を見る。もうイジスたちの食事は始まってしまっていた。
これは後で謝罪を入れなければならないと思ったエリィ。同時に、自分の使用人人生も終わったかと、大きなため息を吐くのだった。
「え、エリィさん。ど、どうしちゃったんですか?」
「どうしたもこうしたも……。モエさん、これから謝罪を入れに行きますよ」
急に立ち上がるエリィに、モエは困惑している。
「えっ、まだ食事中……」
「いけません。旦那様たちに粗相を働いたのです。その場で謝罪しなければならないのです。さあ、食堂に向かいますよ」
「あああ、私のご飯~っ!」
モエはあえなくエリィに首根っこを掴まれて、ずるずると引きずられていったのだった。
食堂の前に着いたエリィは、ひとつ深呼吸をして扉を叩く。
「誰だ?」
ガーティス子爵が返事をする。
「エリィです。どうやらモエがしでかしてしまったそうですので、ご報告に上がりました」
「……入れ」
エリィのただならぬ声に、子爵は入室を許可する。
扉を開けて、いつもよりも険しい表情のエリィと、それに怯えるモエが入ってきた。
「どうしたんだエリィ。食事の最中にやって来るとはお前らしくもないぞ」
子爵からエリィは咎められている。
「ええ、お食事中は大変失礼だとは存じておりましたが、モエがやらかした事をそのまま隠しておくのはどうかと考えまして、こうしてやって参ったというわけです」
「モエは何をやらかしたんだい?」
エリィの言い分に、イジスが反応する。
「そうですわ。まずはお話をしてくれませんと」
子爵夫人も冷静だった。
「わ、私から、モ、申し上げ、上げます」
これに反応したのはモエだった。まだ慣れない言葉遣いのせいか、少々たどたどしい。
「そうか、事情を説明したまえ」
子爵に話を振られた事で、モエは掃除の真っ最中にやらかした事を告白した。そして、それを無理やり解決した事も伝えた。だが、その説明を聞いて事情が理解できたのは一人も居なかった。特に最後の無理やり解決したあたりは、誰の耳にとっても意味不明すぎたのだ。
「とりあえず、その花瓶を落とした場所を確認してくれ。モエにけがはないようで、そこは安心なのだがな」
壁際に立つ使用人が、言われた場所を見に行く。
「これは教育係たる私の失態でもあります。どうか、私も罰して頂くようにお願い申し上げます」
その間、エリィがこのように話していたのだが、現場を見に行った使用人からは意外な言葉が飛んできた。
「旦那様、言われた場所を確認してみましたが、濡れた形跡はございませんでした」
「なんだと?」
これには子爵も立ち上がってその場所を見る。念のために他の使用人たちにも床をくまなく確認させたのだが、どこにも濡れたような形跡はなかった。
「思い違いではないのか?」
「いえ、間違いあ、……ございません」
子爵の問い掛けに、モエはそう答えていた。
「特に何もないから、エリィ、お前が責任を取る事はないぞ。落とした覚えがあるというのに、その痕跡がないのが不思議だが、やらかした事を報告したのはいい事だ。これからも精進しなさい」
子爵にこう言われて、モエは頭を下げていた。
「旦那様、奥様、イジス様。お食事中失礼致しました」
「うむ、構わんよ。これからもしっかり面倒を見てあげなさい」
「承知致しました」
こうしてエリィとモエは食堂を出ていく。
だが、このように穏便に済ませた子爵だが、実はとある痕跡を感じ取っていた。
(最初に示された場所に、魔力の痕跡があったな。という事は、あのモエとかいうマイコニド、魔法が使えるという事になる。……これは実に興味深いな)
子爵はつい楽しそうに笑ってしまう。
「あなた、楽しそうにしてらっしゃいますね」
「ふっ、そうかな」
夫人の問い掛けに、子爵はすました顔でごまかしていた。
イジスはモエの顔が見れただけで満足そうだし、子爵一家は三人が三様に楽しそうにしていたのだった。
その数日後の王都。
「司祭様」
「なんじゃ、騒々しい」
一人の司祭の元に、報せが持ち込まれた。
「あのガーティス子爵様からの要請が届いております。なんでも調べて頂きたいものがあるのだそうです」
「ガーティス子爵殿からか。ちょっと見せてみぃ」
「はっ、こちらをどうぞ」
使いの者が報せを司祭に渡す。
その報せに目を通した司祭は、徐々に興味深そうにその文面を読み進めていく。
そして、すべて読み終わると、
「あい分かった。わしがガーティス子爵領に赴くゆえ、そのように伝えておきなさい」
「はっ、畏まりました」
了承の返事を伝え、使いを走らせる。
「ほっほっほっ。この老体には旅というものは少々厳しいかも知れんが、こんな面白い事は久しぶりじゃ。長生きはするものじゃな」
再び部屋で一人になった司祭は、楽しそうに笑みを浮かべていた。
「用事自体は一瞬で済むじゃろうが、出向いてみるだけの価値はありそうじゃな。待っておれよ、ほっほっほっ」
腰が心配になりそうなくらいに背筋を伸ばして笑う司祭。
こうして無事に、ガーティス子爵領に司祭がやって来る事が決定したのであった。
昼食の時、モエはエリィに泣きついていた。
まったく何があったのかと、エリィはモエに確認する。すると、実は花瓶を一回ひっくり返したらしい。幸い割れはしなかったものの、床を水浸しにしてしまったそうだ。とんだおっちょこちょいである。
「それで、どうしたんですか?」
「えいやって感じでごまかしておきました!」
えいやってどういう事なのか分からないが、エリィは部屋の時計を見る。もうイジスたちの食事は始まってしまっていた。
これは後で謝罪を入れなければならないと思ったエリィ。同時に、自分の使用人人生も終わったかと、大きなため息を吐くのだった。
「え、エリィさん。ど、どうしちゃったんですか?」
「どうしたもこうしたも……。モエさん、これから謝罪を入れに行きますよ」
急に立ち上がるエリィに、モエは困惑している。
「えっ、まだ食事中……」
「いけません。旦那様たちに粗相を働いたのです。その場で謝罪しなければならないのです。さあ、食堂に向かいますよ」
「あああ、私のご飯~っ!」
モエはあえなくエリィに首根っこを掴まれて、ずるずると引きずられていったのだった。
食堂の前に着いたエリィは、ひとつ深呼吸をして扉を叩く。
「誰だ?」
ガーティス子爵が返事をする。
「エリィです。どうやらモエがしでかしてしまったそうですので、ご報告に上がりました」
「……入れ」
エリィのただならぬ声に、子爵は入室を許可する。
扉を開けて、いつもよりも険しい表情のエリィと、それに怯えるモエが入ってきた。
「どうしたんだエリィ。食事の最中にやって来るとはお前らしくもないぞ」
子爵からエリィは咎められている。
「ええ、お食事中は大変失礼だとは存じておりましたが、モエがやらかした事をそのまま隠しておくのはどうかと考えまして、こうしてやって参ったというわけです」
「モエは何をやらかしたんだい?」
エリィの言い分に、イジスが反応する。
「そうですわ。まずはお話をしてくれませんと」
子爵夫人も冷静だった。
「わ、私から、モ、申し上げ、上げます」
これに反応したのはモエだった。まだ慣れない言葉遣いのせいか、少々たどたどしい。
「そうか、事情を説明したまえ」
子爵に話を振られた事で、モエは掃除の真っ最中にやらかした事を告白した。そして、それを無理やり解決した事も伝えた。だが、その説明を聞いて事情が理解できたのは一人も居なかった。特に最後の無理やり解決したあたりは、誰の耳にとっても意味不明すぎたのだ。
「とりあえず、その花瓶を落とした場所を確認してくれ。モエにけがはないようで、そこは安心なのだがな」
壁際に立つ使用人が、言われた場所を見に行く。
「これは教育係たる私の失態でもあります。どうか、私も罰して頂くようにお願い申し上げます」
その間、エリィがこのように話していたのだが、現場を見に行った使用人からは意外な言葉が飛んできた。
「旦那様、言われた場所を確認してみましたが、濡れた形跡はございませんでした」
「なんだと?」
これには子爵も立ち上がってその場所を見る。念のために他の使用人たちにも床をくまなく確認させたのだが、どこにも濡れたような形跡はなかった。
「思い違いではないのか?」
「いえ、間違いあ、……ございません」
子爵の問い掛けに、モエはそう答えていた。
「特に何もないから、エリィ、お前が責任を取る事はないぞ。落とした覚えがあるというのに、その痕跡がないのが不思議だが、やらかした事を報告したのはいい事だ。これからも精進しなさい」
子爵にこう言われて、モエは頭を下げていた。
「旦那様、奥様、イジス様。お食事中失礼致しました」
「うむ、構わんよ。これからもしっかり面倒を見てあげなさい」
「承知致しました」
こうしてエリィとモエは食堂を出ていく。
だが、このように穏便に済ませた子爵だが、実はとある痕跡を感じ取っていた。
(最初に示された場所に、魔力の痕跡があったな。という事は、あのモエとかいうマイコニド、魔法が使えるという事になる。……これは実に興味深いな)
子爵はつい楽しそうに笑ってしまう。
「あなた、楽しそうにしてらっしゃいますね」
「ふっ、そうかな」
夫人の問い掛けに、子爵はすました顔でごまかしていた。
イジスはモエの顔が見れただけで満足そうだし、子爵一家は三人が三様に楽しそうにしていたのだった。
その数日後の王都。
「司祭様」
「なんじゃ、騒々しい」
一人の司祭の元に、報せが持ち込まれた。
「あのガーティス子爵様からの要請が届いております。なんでも調べて頂きたいものがあるのだそうです」
「ガーティス子爵殿からか。ちょっと見せてみぃ」
「はっ、こちらをどうぞ」
使いの者が報せを司祭に渡す。
その報せに目を通した司祭は、徐々に興味深そうにその文面を読み進めていく。
そして、すべて読み終わると、
「あい分かった。わしがガーティス子爵領に赴くゆえ、そのように伝えておきなさい」
「はっ、畏まりました」
了承の返事を伝え、使いを走らせる。
「ほっほっほっ。この老体には旅というものは少々厳しいかも知れんが、こんな面白い事は久しぶりじゃ。長生きはするものじゃな」
再び部屋で一人になった司祭は、楽しそうに笑みを浮かべていた。
「用事自体は一瞬で済むじゃろうが、出向いてみるだけの価値はありそうじゃな。待っておれよ、ほっほっほっ」
腰が心配になりそうなくらいに背筋を伸ばして笑う司祭。
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