姫ティック・ドラマチカ

磨己途

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第三幕 攻勢・ヒストリカ

119 潜入成功?

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 最初は用心深く、眼球が動く範囲だけを見回した。
 耳を澄まし、自分の他には誰もいないと判断してから首を左右に振る。

 以前エミリーと二人で捕らわれていた廃屋のような小汚い部屋とは違い、高級そうな調度品が置かれた小綺麗な一室だった。

 エミリーやプリシラの姿はない。
 今回は一人で捕らわれているのか。
 あるいは別の部屋か。

「ここは何処なのか。それと、経緯を手短に話してくれ」
『怒らないの?』

「怒ってるよ。けど、今さら怒鳴ってみても仕方ないだろ?」

 今のやりとりだけで、これがジョゼが怒られそうなことをしでかした結果なのだと想像できた。

『さっすがユリウス。度量が広い。我が半身として鼻が高いわ』
「いいから話せ。ゆっくりしてる時間があるのか?」

『えーっと。ここはグリュンタークの屋敷よ。やっぱりアタリだった。アンナはまだ見てないけど、きっとここにいる。マーカス、だっけ? 目元にローランみたいな大きなあざができた、それっぽい人がいたし』
「捕まったのはジョゼ一人だけか? 何をどうしたら、になるんだ?」

『罠だったのよ。わざと隙を作ってあって、私たちはそこに誘い込まれたってわけ』
「ちょっと待て。最初から話せ。まさか、ジョゼが自分からグリュンタークの屋敷に乗り込んできたのか? 一人で?」

『そうよ?』

 眩暈がする。
 さすがに警備の厳重な王宮に賊が忍び込んでジョゼを連れ去ったとも考え難かったが、ジョゼが一人で王宮を抜け出して来たという話は、さらに突飛過ぎて理解が追い付かない。
 このお姫様はどこまで俺の想像を超えてくるんだ。

「どうやって王宮を抜けて来たんだ? プリシラは? エミリーは?」
『ふふん。あんな小細工。エミリーの操縦に掛けて、ユリウスが私に勝てると思った?』

 何故この状況で、そんなことを威張っていられるのか分からない。
 だが、我ながらどうかしていると思うが、飄々ひょうひょうと話すジョゼの調子に釣られてしまい、真面目に怒る気にはなれなくなっていた。
 それどころか、あまりに馬鹿馬鹿し過ぎて、少し気を抜くと笑いが込み上げてきそうになる。
 これは、俺に叱られまいとするジョゼの手口なのだろうか。
 だとすれば、まんまとしてやられているな。

「二人はどうにかできたとしても、どうやって王宮を抜け出した?」
『私を誰だと思ってるの? 王宮の抜け道くらい幾つも知ってるわ』

 それは聞き捨てならん。
 後で聞き出して警備の穴を塞いでおかなくては。

 はあ、と大きな溜息をつく。
 落ち着こう。
 ジョゼのペースに引きずられては駄目だ。
 深呼吸だ。
 ……クソッ。縄がきつくて深い息がしづらい。

『何よ? てっきり私の行動を読んで邪魔してたのかと思ったのに』
「読めるかよ。こんな無茶苦茶なこと。俺はジョゼが俺の寝ている隙に、ブレーズ王かブリジット王妃かを焚き付けて大捕り物をやらかすんじゃないかと心配してたんだ。その方がまだマシだった。まさか単身で乗り込むなんて」

『はぁ、なるほど。そういう手もあったわね』
「…………」

 俺が沈黙すると、ジョゼもさすがにまりが悪くなったのか、ようやく真面目に話し始める。

『大丈夫よ。ちゃんと助けは来るわ。エミリーとプリシラがセドリックたちを呼びに向かってるはず。あと、多分命の危険もない。さっき、当主のグレンに会ったの。彼、凄く迷惑そうにしてたわ』

 それはそうだろう。
 まさか相手も、王女自ら単身で乗り込んで来るとは思うまい。
 それにセドリックたちの見立てでは、今のグリュンターク家は、ダノンやマーカスに弱みを握られて、利用されるだけの存在と化しているはずだった。
 グリュンターク家にしてみれば、今さらジョセフィーヌを殺したところで始末が付かないのだ。
 そうやって第二王子のテオドールが次の王になったとしても、自分たちの家が取り潰しに遭っては何の意味もないのだから。
 はっきり言って、捕らえたところで持て余すだけ……、いや、こうして王女を捕らえてしまったことで、グリュンタークはいよいよ首が回らなくなったに違いない。

「……分かった。この際、ジョゼがどうやってここまで来たかはどうでもいい。何でこんなことをしでかしたのかも後回しだ。後でちゃんと叱ってやる。それより今のこの状況だ。どんなふうにして捕まったんだ? まさか正面の玄関を叩いたのか?」
『さっきも言ったでしょ? 罠よ。ちょうど警備もなしに開け放たれてた勝手口があったから、そこから入ったら、すぐそこにガラの悪そうな連中がわんさかいたってわけ』

「不敬を承知で言わせてもらうが、馬鹿だろ? それは罠でも何でもない。不用心なだけだ」
『私だって、裏から回るなんてせせこましいことしたくなかったけど、正面から行っても追い返されるだけでしょ? どうあっても中に入る必要があったのっ』

「それで捕まることになったとしてもか?」
『いや、本当は先にアンナも見つけるつもりだったわよ? ちょちょいと見つけて逃げて来られれば、それはそれで目的は達成できるわけだしね』

 俺は頭がどうにかなりそうなこの会話の中で、おぼろげながらジョゼの狙いが見えてきた気がしていた。

 今の話は最上級に上手く事が運んだ場合の話で、ジョゼとしてはこうやって自分が捕まることも想定の内だったのではないか。
 そうでなければ流石にジョゼもここまで落ち着いていられるはずがない。
 かと言って、こんな無謀を肯定してやる気はさらさらないが。

「……それで、どうする? セドリックたちが助けに来るまで待つのか? 言っておくが、この屋敷をダノンとマーカスたちが牛耳っているなら、ジョセフィーヌが解放される可能性は万に一つもないぞ?」

 グリュンターク家の事情はともかくとしてだ。
 ダノンらにとっては、際限なく魔力が湧き出し続けるジョセフィーヌの身体は、喉から手が出るほど欲しかったはずだ。
 殺しはしないだろうが、一度手に入れた以上、手放すなんて絶対にあり得ない。

『とりあえずアンナを探しましょう。乱暴されていないか心配だわ』
「それはいいが、この縄はどうする?」

『こんなこともあろうかと、髪の中にカミソリを隠してある』
「両手を縛られてるのに、どうやってそれを使うつもりだ?」

『……言ってみただけよ』

 ふざけているのだろうか。
 捕まったことにも、彼女なりの深謀遠慮があってのことなのでは、と思ったが買い被りだったかもしれない。

『服の下に隠した道具は全部取られちゃったのよっ』

「ちなみに捕まってからどれくらい経った? 助けはあとどれくらいで来そうなんだ?」
『屋敷の中で捕まったのは半刻前ぐらい。縛られてここに閉じ込められたのはついさっき。助けがいつ来るのかは……、セドリックたち次第ね』

「賊は何人ぐらいいるんだ?」
『武装したのは館の外で私が見ただけでも十人以上はいたと思う。それ以外にローブ姿の胡散臭い連中も数人。奴ら同士も結構揉めてたわね。私をこれからどうするかで。今も別の部屋で楽しく相談中なんじゃない?』

「……分かった。じゃあ、ちょっと
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