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15 会議が終わっても

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課長の会議資料はほとんど完成しており、私の仕事は誤字脱字を修正し、内容を確認してもらった後、必要部数を印刷、ホチキス留めだけだった。そこまでして会議に向かう課長を見送った。

課長はというと、さすが自分で豪語していただけあってちょっと前まで絶不調だったはずなのに、涼しい顔して資料室を出ていった。見送る私に「本当に助かった。ありがとう」と非常に殊勝な言葉を残して。

言われて当然の言葉だったのに、なんだか首の後ろがむず痒くなった。

会議は長丁場らしく午後1時から3時までとのこと。

私は落ち着かない気分でその時間デスクに向かっていた。

そして現在、時計の針は3時半を指している。

どうやら長引いているようだ。

途中で倒れて会議が大変なことになっていたりして……。

午前中に課長の資料作りを手伝ったせいで、やらなくてはならない仕事は山ほどある。

それなのにそわそわとしてしまい、作業効率が非常に悪い。

早く戻って来ないかなぁと普段なら絶対思わないことを願ってしまったりしている。

そんなこんなで、さらに落ち着かない時間を15分程過ごしたところで、扉から人が入ってくる気配がした。

待ち望んだ気配に勢い良く顔を上げて扉を確認する。

そこには望んだ課長がいた。

のだけれど……。

顔色が明らかに……悪い。いや、悪いを通り越してどこかおかしい……。

後ろから入ってきた部長が上機嫌な様子から、会議は滞りなく終わったことはわかった。

柄にもなく緊張感から抜け出せて気が抜けたのだろうか、課長の顔は体調不良を隠し切れていなかった。

そして、そんな課長の顔は目が据わっていて眉間の皺がかなり深い。一課のみんなは「不機嫌」だと勘違いしたらしく、誰も近づこうとはしなかった。

課長は一人デスクに戻ると、座ることなく何やら作業している。

立ったままの状態で手を動かして何かを書き込んでいる様子。

その後荷物を鞄にしまっているから帰るのだろう。

これで一安心と思ったのも束の間、何故か荷物を持った課長があやしい足取りで私の方に向かってくる。

嫌な予感しかしない。

私は引きつりそうになる頬を賢明に抑えて、案の定私のデスクに足を運んだ課長に作り笑顔を向ける。

「どうしました、課長?」

偽物の笑顔で目では「まだ何か用なのか」と訴えた。

「ああ、これ確認しておいてくれ」

そう言って差し出された書類複数枚。

1枚目を見たところ、急ぎの用ではなさそうだ。

「特に2枚目はしっかり確認するように」

言い残すとほとんど私と目を合わすことなく、部屋から出ていく。

他の社員には外回りに行ったように見えるように自然と。

そして私は渡された資料を改めて確認する。

1枚目をめくって、重要らしい2枚目をチェックする。

「っげ」

思わず出た声に反応した隣の加山さんがこっちを不思議そうに振り向いた。

そんな加山さんには適当な理由を言って誤魔化して、仕事に集中する振りをする。

でも、私の頭の中は2枚目の書類に貼ってあった黄色い付箋に書き殴られた文字を反芻してますます仕事どころでは無くなった。

“定時 医務室 頼む”

ああ、今日は残業すらできなさそう……。

その後、私は定時になったと同時に社内に設置されている無人医務室に行き、完全にダウンした課長を人目を避けつつ裏口からタクシーに乗せ、昨日と同じく課長の自宅に向かったのは言うまでもない。

幸いその日は偶々金曜日だったため、土日でこれでもかというくらい休んでもらった。

家がなまじ近かったせいで、どうにも心配で貴重な休日だというのに具合を見に課長の家に顔を出してしまったのは弟の面倒をよく見ていたせいであろう。きっと。

甲斐甲斐しく世話をしてあげた結果、課長の体調は順調に回復していき、月曜日には元気に出社。

少し咳が出ていたけど熱は下がったし、もうこちらが心配する必要などない。

私はというと、金曜日から溜め込んだ仕事に追われ、またまた大忙しとなったのだった。
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