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7 ナチュラルに笑えない接待
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S社近くの高級日本料理店の和個室が接待会場だった。
私の右隣に課長、その正面に渡辺部長、必然的に私の正面が坂上課長が座る。
初めは和やかな雰囲気だった。
出てくる料理を楽しむ余裕もあった。
だがしかし。
接待が始まって一時間ちょっと、今私の隣の席には上機嫌の坂上課長、そして正面には申し訳なさそうにしてこっちを見ている我が社の課長が座っている。
なんでこんなことになったのか。それは、課長が渡辺部長に我が社の他の商品も見てみたいと頼まれ部屋の隅にあった鞄に資料を取りに行った隙に、坂上課長が席を立って滑り込むような速さで私の隣に座ったからだ。
「この方が榊さんも資料が見せやすいでしょ?」
とか何とか言って自然にかつ強引に席替えは完了した。
機嫌を損ねてはいけないということがなければ、嫌な予感に顔を歪めるところだったが、接待中なのでニコニコ応じるしかない。
課長が戻ってきたとき、一瞬非難と助けを求める視線向ける。
(助けて下さいー!)
そう心の声を送ったが、状況を見て一瞬、課長が私に向けた視線は確実に
(耐えろ)
と訴えていた。
裏切り者!
明日一課のお父さん達に言いつけてやる!(といっても誰も課長に逆らえないけど…)
その後、酔って本性が出てきた坂上課長は「きれいな指だね」とか「手相って興味ある?」とかコテコテのお決まり手段でやたらとスキンシップを取ってくる。
こんなとき頼りになると思っていた渡辺部長はお酒が入ると周りが見えなくなるタイプらしく、課長に仕事に関して熱く語り過ぎてこちらの状況にまったく気がついていない。
もちろん課長も完全に捕まってしまっている。
どっどうしよう…。
「川瀬さんホクロでも手相みたいに運勢が分かるって知ってる?」
「えっええ、聞いたことはあります」
苦笑いにならないように必死に表情筋を緩める。
「さっきから、川瀬さんの首筋にあるホクロの位置が気になってね。もしかしたら、すごく運気のあるホクロかもよ。見てあげるよ」
イヤー、遠慮します!心の底から!
でもそんなこと言えるはずもない。
「あれ、私の首にホクロなんてありましたか?」
「あるある、ここに」
さり気なくはぐらかそうとしたが、しているかも分からない抵抗は意味をなさず、坂上課長の右手の指が私のうなじに触れる。
そして同時に左手を背後に持って行って、お尻に触れるか触れないかの背中に手を添えてきた。
背筋に悪寒が走った。
目の前の課長は一応心配なのかちらちらとこちらの様子を見てくれるけど、特に何もしてくれない。
さっきから目が合うたびに、心から「どうにかして下さい!」と頼んでるのに
耐えろという心の声しかこちらには届かない。
もう、どうしようもない。自分を守れるのは自分だけだ。
「すいません、お手洗いに行ってきます。ついでに鏡でホクロの位置も確認してきますね」
今にもお尻に触れてきそうな手を避け、顔は笑顔のまま席を立って座敷から脱出。
部屋から少し遠ざかったところで一回立ち止まり、思いっきり大きな溜息をついた。
「早く帰りたい…」
お手洗いに行って鏡の前で時間稼ぎ。
なるべく戻りたくないと思いつつも、他の女性客がやってきては怪訝な顔で私を見るので、そう長くトイレに籠もっていることもできず、仕方なく出る。
扉を開けて正面。そこには――
坂上課長が立っていた。
私の右隣に課長、その正面に渡辺部長、必然的に私の正面が坂上課長が座る。
初めは和やかな雰囲気だった。
出てくる料理を楽しむ余裕もあった。
だがしかし。
接待が始まって一時間ちょっと、今私の隣の席には上機嫌の坂上課長、そして正面には申し訳なさそうにしてこっちを見ている我が社の課長が座っている。
なんでこんなことになったのか。それは、課長が渡辺部長に我が社の他の商品も見てみたいと頼まれ部屋の隅にあった鞄に資料を取りに行った隙に、坂上課長が席を立って滑り込むような速さで私の隣に座ったからだ。
「この方が榊さんも資料が見せやすいでしょ?」
とか何とか言って自然にかつ強引に席替えは完了した。
機嫌を損ねてはいけないということがなければ、嫌な予感に顔を歪めるところだったが、接待中なのでニコニコ応じるしかない。
課長が戻ってきたとき、一瞬非難と助けを求める視線向ける。
(助けて下さいー!)
そう心の声を送ったが、状況を見て一瞬、課長が私に向けた視線は確実に
(耐えろ)
と訴えていた。
裏切り者!
明日一課のお父さん達に言いつけてやる!(といっても誰も課長に逆らえないけど…)
その後、酔って本性が出てきた坂上課長は「きれいな指だね」とか「手相って興味ある?」とかコテコテのお決まり手段でやたらとスキンシップを取ってくる。
こんなとき頼りになると思っていた渡辺部長はお酒が入ると周りが見えなくなるタイプらしく、課長に仕事に関して熱く語り過ぎてこちらの状況にまったく気がついていない。
もちろん課長も完全に捕まってしまっている。
どっどうしよう…。
「川瀬さんホクロでも手相みたいに運勢が分かるって知ってる?」
「えっええ、聞いたことはあります」
苦笑いにならないように必死に表情筋を緩める。
「さっきから、川瀬さんの首筋にあるホクロの位置が気になってね。もしかしたら、すごく運気のあるホクロかもよ。見てあげるよ」
イヤー、遠慮します!心の底から!
でもそんなこと言えるはずもない。
「あれ、私の首にホクロなんてありましたか?」
「あるある、ここに」
さり気なくはぐらかそうとしたが、しているかも分からない抵抗は意味をなさず、坂上課長の右手の指が私のうなじに触れる。
そして同時に左手を背後に持って行って、お尻に触れるか触れないかの背中に手を添えてきた。
背筋に悪寒が走った。
目の前の課長は一応心配なのかちらちらとこちらの様子を見てくれるけど、特に何もしてくれない。
さっきから目が合うたびに、心から「どうにかして下さい!」と頼んでるのに
耐えろという心の声しかこちらには届かない。
もう、どうしようもない。自分を守れるのは自分だけだ。
「すいません、お手洗いに行ってきます。ついでに鏡でホクロの位置も確認してきますね」
今にもお尻に触れてきそうな手を避け、顔は笑顔のまま席を立って座敷から脱出。
部屋から少し遠ざかったところで一回立ち止まり、思いっきり大きな溜息をついた。
「早く帰りたい…」
お手洗いに行って鏡の前で時間稼ぎ。
なるべく戻りたくないと思いつつも、他の女性客がやってきては怪訝な顔で私を見るので、そう長くトイレに籠もっていることもできず、仕方なく出る。
扉を開けて正面。そこには――
坂上課長が立っていた。
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