上 下
122 / 189
レオニダス獣王国編

姫君のお輿入れ 3 猛獣の胃袋掴むのはお約束

しおりを挟む
獅子王公爵は全ての枷から解放されて目覚めたのは馬車が次の宿場に到着する手前だった。
金色に光る目に濁りは既に無い。
起き上がった公爵にマリアンヌは笑顔で声を掛けた。

「閣下、気分は如何ですか?私達が分かりますか?」
「ああ…分かります…侯爵夫人。」
「良かった…色々説明しなければならない事がありますが…今はこちらの体力回復ポーションを飲んで下さい。」
「ありがとう…頂戴します。」

そう言って差し出されたポーションを一気に飲んで、ようやく公爵は自分を助けた可愛い姫君に目を向けると、その豪奢な金色の頭を深々と下げた。

「可愛い姫君…私をお救い頂き感謝致します!」
「エヘヘ…どう致しまして!…でも、公爵閣下は凄い!あれだけ隷属の呪いや魔石を掛けてあったのに意思が消えて無かったね!」
「私には守りたい者がおります!獅子の獣人は守るべき存在がいる以上、負けはしません!…ですがその為に祖国を陥れる事になった事は許される事では無いでしょう…
罪には罰が必要ですから…。」
「ならばこれから挽回しましょう!獣王王国を助ける為に僕は来たのです!手を貸してくれますか?」
「あなたは…いや、あなた様は何者です?」
「僕は今代の神の愛し子!こんな格好してますけど男です!!」
「ええ!!男!?こんな可愛いのに?小さくて可愛いのに??男!?」
「公爵…神の愛し子ってところはスルーなの!?」
「あ!…今代の神の愛し子様ですと!?」

言い直した公爵をジト目で見た千尋は地味に凹んだ…そして体育座りをした…。

「いいもん…いつか僕も大きくなるもん!」
「チ~ちゃん…大丈夫だ!可愛い事は全てを許す免罪符だから!」
「ママ…それ慰めて無いよ!」
「さて、公爵閣下に説明せねばならぬ事を順にお話し致しましょう。」
「お願いする。」

千尋達は睡蓮が教皇に助けられてから自分達が此処に来るまでの事を順番にして話し始めた。
公爵は睡蓮の命が救われた事に顔が綻び、自分の妻が自殺未遂を図った事とそれを寸前で止めた事、永久凍土の事に天下殿下やそこで眠る公爵の息子さんについても話した。
全てを聞いた公爵は両手で顔を覆い、涙を零した。

「天下は…息子は…助かるのですね…ああああああぁぁぁ!!」

公爵は千尋達の前で涙を流し大きな声を上げて泣いた。
防音結界しといて良かったよ…。

こうして公爵を解放した千尋達は、次の宿場町に到着した。
国境から獣王王国王都までは馬車で約3日程の行程だ。
到着した宿場町でも姫君は大歓迎を受けた。
公爵からエスコートを受けながら宿に到着した時も、歓声を上げる民達に小さく手を振って応えた。

『姫様~~!』
『ようこそ!可愛い姫様~~!!』

ニコニコ笑顔で歓声に答えながら千尋達は宿の部屋に到着すると、千尋はぐったりとソファーに座り込んだ。

「はぁ~緊張した~~疲れたよ~」
「なかなか姫君修行の成果が出ているな!チ~ちゃん!」
「はい!可愛い姫君で誰も疑っていません!」
「それはそれで、なんかちょっと複雑なんだけど…」
『千尋~お腹空いた!!』

小さいニャンコになっている真白が千尋の膝の上に乗ってぐりゅりゅりゅとお腹を鳴らせて訴えた。

「ああ~そうだね~なんかお腹空いたかも!」
「チ~ちゃんは公爵閣下と街の有力者や近隣の貴族達と夜は晩餐会だから…まあ、私も一緒だが…結構それが辛い!チ~ちゃんのご飯が食べられない!」
「真白とローズさんには作って置いた弁当を出すね!」
『やった!』
「ありがとうございます!」

そう言って千尋はインベントリから作り置きのオークの味噌焼き丼を出して、豆腐の味噌汁入り深鍋を出し温かい汁をお椀に注いで白菜擬きを浅漬けにした物を出して用意した。

「インベントリって本当に便利だよね!出来立てを保管出来るんだもの。」
「いいやチ~ちゃん…時間停止付きのインベントリは希少なのだ…結構魔力も必要だから持ってる人は少ないのだぞ。」
「ええ!そうなの!!…タイガス達全員持ってるし光輝も心白も持ってるから、みんな持ってるって思ってた!」
「チ~ちゃん…タイガスもドラゴンもフェンリルも災害級の魔物なのだ…この世界の頂点にいる生き物で魔力も人の倍以上なんだから…。」
「そっか~なんだか最近…僕って何かが壊れているって思い知る事が多いよ…。」

そんな会話をしている間に真白は既にオークの味噌焼き丼を完食していて、お代わりを要求して来た。
ローズさんも真白と一緒に美味しそうに食べてたよ…もう僕達の存在に慣れたんだね…遠慮が無くなったのが僕的には嬉しい…。
僕とママはお腹が空いた状態で晩餐会用にドレスを着替えた…本当に姫君って大変だ~。
そして、予定時間ちょっと前に公爵閣下が僕とママを晩餐会の場所にエスコートする為に僕達の部屋に来たんだ。

「姫君、晩餐の用意が…この美味しそうな香りは?」
「あ!ごめんなさい!ちょっとお腹が空いて軽く(?)食べたので…。」
「おお!お待たせ致し申し訳ない!…ですが…何だろう…心が体がこの香りに引っ張られる感じがします…。」
「良かったら食べてみます?」
「お願いします!!」

公爵即答か!僕はインベントリからオークの味噌焼き丼を取り出し公爵の前に出した。

「僕の手料理なので口に合うか…オークの味噌焼き丼です!召し上がれ~」
「ほぉ~これは!いい香りがする!頂戴致します!」

公爵は一口食べてからは怒涛の勢いで食べた!
あっと言う間に消えた丼を悲しそうに眺めてから僕を見るんだ…いつもだったらお代わり出すけど…。

「ええと…今から晩餐会ですから、これ以上はダメ!」

がっくしと首を落とす公爵閣下に連れられて格式高い宿のダイニングへ行って色々な人が挨拶して来たけど笑って誤魔化した…こんなに沢山の人の名前とか覚えてられないよ!
そして晩餐会が始まって、メインの料理がオーク肉の塩焼きだったから余計に公爵閣下は悲しそうな顔してた。
ママも僕の手料理に慣れていたから塩オンリーの味に顔が悲しい顔になってたよ…。
これが白雪だったら絶対マヨネーズ出せって言ってると思う。
僕はテーブルマナーに必死で味なんて気にしてる場合じゃ無かったけどね!
ニコニコ顔が引き攣り始めた頃に晩餐会は終了した!僕はやりきった!!
部屋に戻ってから塩味で麻痺した舌を慰める為にデザートにクリームみつ豆をママと一緒に食べたよ…凄く美味しく感じたよ。

こうして獣王王国王都への輿入れの旅1日目が無事に終わった。
次の日は宿の人に朝ごはんは断った…だって朝くらい美味しいご飯食べたいし…塩分取りすぎは健康にも良く無いしね。
今日の朝ごはんは定番の少し甘い出汁巻卵焼きに自家製ハムと野菜の炒めもの、ジャガイモと玉ねぎ擬きの味噌汁を用意して真白やママとローズさんと一緒にさあ食べようとしたところで公爵閣下が部屋に来たんだ!

「おはようございます!姫君…美味しそうな匂いに来てしまいました!」

さすが獣人だよ!匂いに敏感!なんかライオンさんなのにブンブン回ってる尻尾が見えるよ…。

「おはようございます…公爵も朝ごはん食べますか?」
「はい!」
「じゃあ~肉食獣に合わせて公爵と真白は昨日のオークの味噌焼き丼にするね。」
「やった!」
『ラッキー!』

朝から猛獣達は絶好調だった…味噌焼き丼を二人共に2回もお代わりしたし…。
昨日食べられなかった分取り戻す様にママもお代わりしてたしね。
こうして僕達は獣王王都へ出発したんだ。


獣王王都の某所では、ある人物が千尋達より先に到着していた。

「お帰りなさいませ…奥様。」
「準備は進んでいるわね~ココ?」
「はい!もう準備は全て整っております!」
「そう…人族の壊滅作戦はグローディアス王国に落ちた神の愛し子によって失敗に終わったわ…本当にいい気味だったわ~!10年以上かけた作戦がパーよ!本当に笑ったわ!」
「では…あの派閥は脱落したのですね?」
「ええ!ここで私の計画が成功になれば我が派閥が国でトップになる!旦那様が玉座に最も近くなるのよ!」
「おめでとうございます!奥様!」
「それに…グローディアス王国の姫君がこちらに来るなんて!本当に幸運だわ~!」
「はい…人族の国で現在最強であるグローディアス王国の姫を押さえれば…私達に敵はございません!」
「ふふふふ…さぁ~旦那様に褒めて貰う為に最後の仕上げよ!!」
「はい!奥様!お任せ下さいまし!」
「ああ~楽しみだわ~旦那様が玉座に座られる姿を想像するだけで体が熱くなるわ~」
「誠に…。」

金色に光る目が2つ…爛々とし…それぞれの思惑で二人の口は弧を描いていた。





続く…。
しおりを挟む
感想 647

あなたにおすすめの小説

【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
【ファンタジーカップ参加作品です。清き一票をお願いします】 王国の忠臣スグエンキル家の嫡子コモーノは弟の死に際を目前に、前世の記憶を思い出した。 自身が前世でやりこんだバッドエンド多めのシミュレーションゲーム『イバラの王国』の血塗れ侯爵であると気づき、まず最初に行動したのは、先祖代々から束縛された呪縛の解放。 それを実行する為には弟、アルフレッドの力が必要だった。 一方で文字化けした職能〈ジョブ〉を授かったとして廃嫡、離れの屋敷に幽閉されたアルフレッドもまた、見知らぬ男の記憶を見て、自信の授かったジョブが国家が転覆しかねない程のチートジョブだと知る。 コモーノはジョブでこそ認められたが、才能でアルフレッドを上回ることをできないと知りつつ、前世知識で無双することを決意する。 原作知識? 否、それはスイーツ。 前世パティシエだったコモーノの、あらゆる人材を甘い物で釣るスイーツ無双譚。ここに開幕!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【完結】転生幼女ですが、追放されたので魔王になります。(ノベル版)

アキ・スマイリー
ファンタジー
アラサー女子の三石悠乃(みついし ゆうの)は、目覚めると幼女になっていた。右も左もわからぬ異世界。モフモフな狼エルデガインに拾われ、冒険者となる。 だが、保護者であるエルデガインがかつての「魔王」である事を、周囲に知られてしまう。 町を追放され、行き場を失ったユウノだったが、エルデガインと本当の親子以上の関係となり、彼に守られながら僻地の森に居場所を探す。 そこには、エルデガインが魔王だった時の居城があった。すっかり寂れてしまった城だったが、精霊やモンスターに愛されるユウノの体質のお陰で、大勢の協力者が集う事に。 一方、エルデガインが去った後の町にはモンスターの大群がやってくるようになる。実はエルデガインが町付近にいる事で、彼を恐れたモンスター達は町に近づかなかったのだ。 守護者を失った町は、急速に崩壊の一都を辿る。 ※この作品にはコミック版もあり、そちらで使用した絵を挿絵や人物紹介に使用しています。

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

わたし異世界でもふもふ達と楽しく過ごします! もふもふアパートカフェには癒し系もふもふと変わり者達が生活していました

なかじまあゆこ
ファンタジー
空気の読めない女子高生満里奈が癒し系のもふもふなや変わり者達が生活している異世界にトリップしてしまいました。 果たして満里奈はもふもふ達と楽しく過ごせるのだろうか? 時に悩んだりしながら生活していく満里奈。 癒しと笑いと元気なもふもふスローライフを目指します。 この異世界でずっと過ごすのかそれとも? どうぞよろしくお願いします(^-^)/

処理中です...