人は神を溺愛する

猫屋ネコ吉

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【閑話】当麻と金剛 決意編 後編

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感謝の恒例閑話の後編ざます!

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模擬戦はトーナメント戦で行われた。
そのメンバーの中でも異彩を放ったのは、まだ年若い二人で自分より大きい身体の相手を次から次へと倒していた。

「す!凄い当麻…!それにもう一人の31番!!強い!!!」
「二人とも強いのぉ~このまま行けば決勝戦は、この二人になりそうじゃ!」
「本当だ!!どうなるんだろう?あの二人が戦ったら…。」
「ふふふ…楽しみじゃ!」

結局、二人は決勝戦まで危なげなく勝ち進んで来た。
場内は大番狂わせの結果に興奮状態で歓声が鳴り止まないでいる。
金剛も同じで可愛い顔が興奮で真っ赤になっていた。
いよいよトーナメントは決勝戦。
これまで戦って来たのに息も乱していない二人は少しの距離を挟んで見つめ合った。
あんなに騒いでいた闘技場を囲む観客も二人の間にある力の均衡にシーンと静かになった。
緊張感が天辺に来た時、試合を開始するゴングが鳴った!

「は!!速い!!!」
「それが見えるとは嬢ちゃんもいい目を持っているのぉ~」
「!!!嬢ちゃん??って今反論できない!!!」
「おお~剣技は互角か?いや当麻が押しているかな?しかし、それでものぉ~」
「強い…二人とも強い!!」

激しい剣撃が繰り広げられてる。
瞬きも出来ないくらいのスピードで闘う二人に金剛は目が離せない。
そして二人が間合いを取って動きが止まると、その緊張感で闘技場の観客も静かになった。

「次で決まるのぉ~剣は互角なのじゃが…」
「………当麻…」
「魔法ありだとしたら…!!」

そう言ったお爺さんの言葉を待っていたように大きな炎の柱が立った!

「これは!!」
「うわっっ!!!」

目の前を埋め尽くす炎の柱に金剛は思わず目を閉じた。
結界が張ってある筈なのに顔は大きな焚き火の前に居る時と同じ様に熱くなっていく。

そして、炎の柱を前に当麻が為すすべも無く『降参!!』と叫んだ。
その瞬間、炎の柱は火花の様に弾け飛び消えていった。

『勝者は!!』

大きな歓声とアナウスを背に当麻が闘技場を降りて行くのを見ていた金剛は席を立ち上がり走って当麻を追い掛けた。


人が少ない場所を探して探して闘技場から少し離れた瓦礫が積まれた場所にやっと当麻を見つけた。
壁の陰から当麻を見つめていた金剛は当麻が泣いているのかと思っていたが、当麻はその場に佇むだけで泣いてもいなかった。
そんな当麻にどう声をかけていいのか分からなくて、ただただ当麻を見つめていた。

「おい!そこの壁の裏にいるヤツいい加減出てこいよ!」
「はい!!」

バレていないと思っていたけど、とっくに気が付いていたんだね。
金剛はオズオズと壁の影から出て当麻の側に歩き出した。

「当麻…僕覚えてる?」
「ん~!ああ!!あん時の黄の!!」
「うん!覚えてくれてたんだ!あの時助けて貰ったのにお礼言えなかったから…。」
「別に礼を言われる様な事してないよ…俺の仕事だったんだし…。」
「それでも僕が今こうして生きていられるの当麻のお陰だよ!」
「そうか…。」
「うん!ありがとう当麻!」
「へへへ…どういたしまして!」
「本当に当麻は強いよ…。」
「まあ~上には上がいるけどね!さっきの見てたんだろ?」
「うん…。」
「剣技じゃ負けないって思ってたけど…それだけじゃ勝てないヤツなんだ。あいつ…今回は結構いい線行ってるって思っていたけど…あいつヤッパ強くて…毎回負けてる。」
「毎回?」
「本当に嫌になる!負けてばっかいるとさ…俺…弱いって思い知らされてばっかで…。」
「当麻…。」

俯いた当麻の顏を金剛は見ていたくなくって叫ぶように言った。

「当麻は弱くない!!31人の2番目じゃん!!黒の一族何人いるって思ってるの!!じゃあ当麻がさっき闘った人達はどうなのさ!!確かに1番じゃなかったけど上から数えて2番目だよ!!僕なんか黄の一族の中でも底辺なんだから!!自慢じゃないけど…。凄い上に居るのに気が付いていないの?バカなの?上ばっか見てるから自分のいる場所見えてないんだよ!!」
「俺のいる場所…。」
「底辺にいる僕だけど…諦めだけは悪いのが自慢だもん…きっと上に上がるには毎日牛乳飲まなきゃダメだし…勉強だってしなきゃダメだと思うけどさ…努力って絶対報われる訳じゃないけど、必ず何か残る物があるって思ってる。」
「残る物か…。」
「そう!残り物には福がある!!」
「あはははは!何だよそれ!!」

当麻は笑いながら肩にズッシリあった大きな重い物が無くなっている事に気が付いた。
今の今まで見えない重い石が自分の肩に載っていた事を自覚していなかった。
そして、ようやく大きく息が出来る自分がいる事に…。

「ああ~久しぶりに笑った笑った~!」
「そっか…。」
「ああ…俺何焦っていたんだろ?バカだよな~明日世界が終わる訳でも無いのにな!」
「そうだよ。明日は何もしなくっても勝手に来るんだし。僕もね…僕も負けないから!誰が何と言っても!僕は僕のやり方で負けない!だいたい誰に勝って誰に負けたなんて自分で決めるもん!」
「そっか~お前強いな!小さいのに…強いよ!」
「ふん!小さいは余計だけどさ…。」
「ありがとな!」

真っ赤に染まった頬を隠す様に後ろを向いた金剛は、バックの中にあった小箱を取り出して振り向きざまに当麻に投げた。
それを驚きながらちゃんとキャッチした当麻。

「それ…助けてくれたお礼!僕の稼ぎで買った貴重品だから大事にしてよ!」
「ええ~でも、いいのか?」
「うん!」
「分かった…大事にする!」
「うん!!じゃあ僕帰るね!!」
「もう帰るのか?」
「ドラゴン最終便に間に合う様に帰らなきゃ!」
「そっか…。」
「また…いつかまたね!!」
「うん!またな!!」
「じゃあね!当麻!!」

そう言って駆け出した。
振り返らずに走った。

「あ!!あいつ…名前聴き損ねた…。」

手の中にある小さな小箱のリボンを解いて中を見ると小さなダイヤモンドのピアスが入っていた。
しかも一個だけしか入っていない。

「一個だけ?しかもピアスって俺が着けるのかよ~」

そう言いながら氷を魔術で作って左耳たぶを冷やして感覚が無くなったところをピアスを刺した。

「痛っ!!うわ~結構血出た~!!」

1人で騒いでいたら当麻を探す声が聞こえた。
振り向いたら、さっき闘った人物が当麻を呼んでいた。

「当麻~どこ~表彰式逃げた~当麻~。」
「おお~い!ここに居るよ!!」
「居た!!当麻~酷い~俺をスケープゴートにして~!」
「悪い悪い!王の話し長いし!!」
「はぁ~まあ~いいけど~そう言えば~師匠が結構儲けたって喜んでた~俺たちの分も掛けてくれてたから配当金貰えるよ~。」
「やった!!」
「あれ?当麻~耳から血が!あれあれ~ピアスなんていつの間にしたんだよ?」
「今さっき!貰ったんだ!」
「へ~さては女子からか?」
「前に助けた黄の子だよ。」
「良かったね~可愛い子?」
「うん!小さくて可愛い子だった。いつかまた会えるといいな~。」
「いいな~いいな~当麻~」
「えへへへ~さて、戻るか?師匠が俺たちの金を酒に変える前に!!」
「確かに!!行こう!」

こうして黒の一族の模擬戦の1位と2位の二人は闘技場へと戻って行った。

右側に当麻と同じピアスをした金剛はドラゴン急便の手前で先程全財産を掛けた手札を換金するのを思い出し店に向かった。
そこに隣にいたお爺さんを見つけて笑った。

「おお~先程のお嬢さん…換金に来たんだね~儲かったね~良かったね~」
「ハイ!!」
「本当だよ~二人勝ちだよ!!はい!これが配当金だよ!金額が大きいから現金だと危ないんでカードにしといた。」
「おお~凄い!!10倍以上になったの~!」
「ありがとう~!おじさん!!」
「強運だね~お二人さん!またのご贔屓お待ちしてます!!」

賑やかな店を後にしてホクホクした顔で金剛は歩いた。
そんな金剛を狙った人相の悪い男達が後ろにいた事に気が付かずドラゴン急便の駅に向かう途中でのアレコレが金剛の人生を変える事になるのだが…そんな運命をまだ金剛は気が付いてはいなかった。
金剛の頭の中を占めていたのは当麻の事だったから…。
この先の未来に当麻とどんな風に関わっていくのか分からないけど、きっとどんな形であっても二人の縁は切れる事は無い。
そう思うと色々な事を頑張れる気がする。
金剛はもう一度自分の中にある思いを決意した瞬間だった。

「きっと当麻の隣に行くから!きっと行くから!!」

決意を新たに金剛は走り出した。



*********************
大変お待たせ致しましたm(_ _)m
長くなりました…そして意味ありげに終わってます…。続きはまたお気に入りが増えましたおりに必ず!!次は150かな…
田中さんも4月中と言っときながら~どの口が言ってるのやら~こちらも完結させたいと思っておりますから~もう少々待ってて下さいませ~m(_ _)m

お気に入り&お読み頂き、ありがとうございます!
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