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ずいぶんとお怒りですねぇ

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「おや……これは凄い……」

 アルを止めるために酒場を出て、私は思わず感嘆の声を漏らした。

 空が紫色に染まっていた。通常であればありえないような配色になっており、とても禍々しかった。

 なるほど……これが暴走した悪魔の力ですか。なんて素晴らしい力だ。私からすると面白いとしか思えない。

 しかし、街の人からすると当然生命の危機だ。人々は皆一様に恐怖に怯えていた。この治安の悪い街の中でも、ここまでのことは異常事態なようだ。

 ……そういえば、現在は結構な街の危機だと思うけれど、ソラさんは出張ってくるのだろうか。だったら彼が来る前に面白いところは体験しておかなければ。
 
 そんなことを思いつつ、私は走る速度を上げた。体にまとわりつくような嫌な空気が強くなっていくのを感じて、アルとの距離が縮まっているのを実感する。

 ついでに振動も強くなってきた。それから悲鳴も大きく聞こえるようになって……
 我が弟子も派手に暴れてますねぇ……これはまいった。師匠としての責任からは逃げるとして、とりあえずこの問題は解決しておこう。できなくても逃げるけど。

 さて人が少なくなってきて、たどり着いた。騒ぎの中心地であり、この騒動の元凶がいる所に。

「こんばんは」私はとりあえず対話を試みてみる。「心中お察ししますよ。私がもっと早く気付けたら良かったんですけど……まぁ過去のことを言ってもしょうがないですね。今からでも、愚痴くらい聞きますよ」
「……」

 対話は不可能、と。ま、見たらわかるけれど。

 本当にあれが……眼の前にいる生物がアルなのか。私の弟子で、内気で人見知りのアルなのか。

 禍々しい、というのが第一感想。体の大きさは変わっていないし、顔だってアルのままだ。だけれど、表情と雰囲気、まとっているオーラが違いすぎる。

 アルは、無表情のまま涙を流していた。苦しそうに悲しそうにうめき声を上げていた。
 体にはどす黒いオーラを身にまとい、まさしく悪魔と呼ぶにふさわしい様相だった。

 ついでに……明らかに理性を失っている。話しかけてもこちらに反応を返してくれない。
 まぁ無反応と言ってもソラさんほどじゃない。これしきでへこたれる私ではないですけど。

「アル。もし良かったら――」
 
 私の言葉の最中に、アルが右手を振る。
 
 そして一瞬の沈黙の後、アルの右手側にあった建物が爆散した。炎に包まれて、一瞬にしてガレキの山と化した。

「わぁ……」さすがに、驚いた。「ずいぶんとお怒りですねぇ……もしよかったら、ストレス発散の相手くらいにならなりますよ?」

 暴れたいなら、暴れたらいい。それでアルの気が済むのなら、それで問題はない。誰かにコテンパンにやられるまで暴れたらいいのだ。いつか酒場で私にやられたチンピラたちのように。

 さて……じゃあやりますか。VSアル。悪魔の血を引く者。師匠VS弟子……というには薄い師弟関係だったな。まぁいいや。

 とにかく、楽しみだ。悪魔とやらの力を存分に堪能させてもらおう。
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