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宇宙人でも攻めてきたんですかね
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「……?」
突然開かれた扉と、唐突なSOS。何事かと振り返ると、そこには少年がいた。アル、ではない。しかし同じくらいの年齢の少年だった。
普段は割と気の強そうな少年。しかし今は顔を青くして、恐怖に怯えた表情をしていた。
「どうしました?」
「アルミュールが……」
「あるみゅーる……」……えーっと……アルのことか。我が弟子のことか。「アルがどうしたんですか?」
「あ……その……」
ふむ……少年の顔は冷や汗でびっしょりだった。地獄の縁でも覗いてきたのか、今にも魂が抜け落ちそうなくらい憔悴していた。
「どうした? 落ち着けよ」主人は水をコップに入れて、「ほら、座れ」
主人の言葉に、少年は反応しない。本当に疲れ切っているようで、我々の言葉が処理しきれていないようだった。
いったい何があったというのか。気にはなるけれど、少年が喋ってくれないのでわかりようがない。
まぁ別に焦ることはないか、と思った次の瞬間、
「うぉ……!」主人が驚きの声を上げる。「なんだ……!」
地面が揺れた。巨大な物体が落下してきたような振動が、私の体を……いや、街全体を揺らした。店内の皿や照明が砕け散って、街の至るところから悲鳴が聞こえた。
それからも、振動は続く。ズシンズシンと……超巨大生物が歩いているかのような、そんな揺れが感じられる。
「なんだ……!」さすがの主人も、これには仰天したようだ。「地震……にしちゃ連続してるな……」
「宇宙人でも攻めてきたんですかね」
揺れの中、私がジュースを飲みながら言うと、主人が呆れ果てたように、
「呑気だな……あんた……」
「焦っても、良いことなんてないですよ」
その焦りで、事態が好転することはないだ。むしろ、焦りはさらなる窮地を呼ぶ。ピンチの時ほど冷静に、である。
「少年」私は少年に語りかける。「ずいぶんと焦ってますけど、どうかなさいましたか?」
「え……その……」
この大きな振動……巨人の足音のような振動が聞こえ始めて、少年の動揺は明らかに大きくなった。
つまり……
「この轟音……原因はあなたですか?」
私が言うと、少年はビクッと体を震わせた。それは……おそらく肯定を示すものだろう。
「教えて下さい。何をしたんですか、あなたは」
原因を知らないことには動くことができない。仮にその行動で問題が解決したとしても、納得することは難しいだろう。
「俺は……違う……ただ、興味本位で……」
「興味本位?」
「悪魔が……見たくて……」
「悪魔、ですか」……まさか……「あなた……アルを怒らせましたか?」
私の問いかけに、少年は頷いた。後悔の念を感じる動作だった。
「……なるほど……じゃあ、この振動はアルの仕業ですか」
「……たぶん……」
悪魔の血を引く者アル。感情が高ぶると、その力は暴走してしまうらしい。
おそらく、暴走したのだろう。何かしらの理由でリミッターが外れて、暴れまわっているのだろう。悪魔の血が、その力を取り戻したのだろう。
しかし……あの温厚なアルを怒らせるとは……
「アルに何をしたんですか?」
「……友達の……フリをして……」
「……友……あ……」一つの可能性に思い至る。「あなたが、ロス……えーっと……ファロスですか?」
「ファロス……? ヴェロス、ですよ」
ヴェロスだったか。まぁどっちでもいい。
この少年が、アルの友達のヴェロスか。アルの初めての友達で、とても大切であろう友達ヴェロス。アルにとって親友と言っても差し支えないであろう存在のヴェロス。
そんなヴェロスが、アルを怒らせる? なんのために? そして『友達のフリ』とは?
少年――ヴェロスはもはやそれしか選択肢がないかのように話し出す。
「あ……俺は……悪魔が見たかったんです……だから、アルミュールと友達になったフリをして……それから、裏切って……」
「ああ……なるほど。理解しました」
つまり……こういうことか。
ヴェロスは悪魔の姿が見たかった。そのためには、アルの感情を高ぶらせて、力を暴走させる必要がある。
だから大きく感情を変化させるために、一度アルと友達になったのだ。アルと親友になって信用させて、それから裏切る。
おそらくヴェロスは……アルをいじめていた側だったのだろう。だからいじめっ子たちに取り囲まれていたのだ。取り囲まれていた、というよりも一緒にいただけだろうけど。
親友に裏切られたときのショックは、どんなものだっただろうか。唯一親友と呼べる友の本性を知ったとき、アルはどう思っただろうか。
少なくとも、平静ではいられまい。だから……こうやって暴走してしまったわけだ。だから、町中に轟音が響き渡っているわけだ。暴れまわっているわけだ。
……これは私の失策だったな。アルは『どうしてヴェロスが僕と友達になってくれたのかわからない』と証言していた。
その時点で、私が気づくべきだった。ヴェロスはいじめっ子側で、アルの悪魔の血を引き出そうとしていると。
……いや、それは結果論だな、あの時点で気づくのは難しかったかもしれない。だけど、私ならできただろうに……失策なのは間違いないか。
なんにせよ……止めないとな。弟子の暴走は師匠が止めなければい。
そして何より……悪魔の力を、見てみたい。体感してみたい。人々に恐れられるその力、私自身が味わってみたい。
突然開かれた扉と、唐突なSOS。何事かと振り返ると、そこには少年がいた。アル、ではない。しかし同じくらいの年齢の少年だった。
普段は割と気の強そうな少年。しかし今は顔を青くして、恐怖に怯えた表情をしていた。
「どうしました?」
「アルミュールが……」
「あるみゅーる……」……えーっと……アルのことか。我が弟子のことか。「アルがどうしたんですか?」
「あ……その……」
ふむ……少年の顔は冷や汗でびっしょりだった。地獄の縁でも覗いてきたのか、今にも魂が抜け落ちそうなくらい憔悴していた。
「どうした? 落ち着けよ」主人は水をコップに入れて、「ほら、座れ」
主人の言葉に、少年は反応しない。本当に疲れ切っているようで、我々の言葉が処理しきれていないようだった。
いったい何があったというのか。気にはなるけれど、少年が喋ってくれないのでわかりようがない。
まぁ別に焦ることはないか、と思った次の瞬間、
「うぉ……!」主人が驚きの声を上げる。「なんだ……!」
地面が揺れた。巨大な物体が落下してきたような振動が、私の体を……いや、街全体を揺らした。店内の皿や照明が砕け散って、街の至るところから悲鳴が聞こえた。
それからも、振動は続く。ズシンズシンと……超巨大生物が歩いているかのような、そんな揺れが感じられる。
「なんだ……!」さすがの主人も、これには仰天したようだ。「地震……にしちゃ連続してるな……」
「宇宙人でも攻めてきたんですかね」
揺れの中、私がジュースを飲みながら言うと、主人が呆れ果てたように、
「呑気だな……あんた……」
「焦っても、良いことなんてないですよ」
その焦りで、事態が好転することはないだ。むしろ、焦りはさらなる窮地を呼ぶ。ピンチの時ほど冷静に、である。
「少年」私は少年に語りかける。「ずいぶんと焦ってますけど、どうかなさいましたか?」
「え……その……」
この大きな振動……巨人の足音のような振動が聞こえ始めて、少年の動揺は明らかに大きくなった。
つまり……
「この轟音……原因はあなたですか?」
私が言うと、少年はビクッと体を震わせた。それは……おそらく肯定を示すものだろう。
「教えて下さい。何をしたんですか、あなたは」
原因を知らないことには動くことができない。仮にその行動で問題が解決したとしても、納得することは難しいだろう。
「俺は……違う……ただ、興味本位で……」
「興味本位?」
「悪魔が……見たくて……」
「悪魔、ですか」……まさか……「あなた……アルを怒らせましたか?」
私の問いかけに、少年は頷いた。後悔の念を感じる動作だった。
「……なるほど……じゃあ、この振動はアルの仕業ですか」
「……たぶん……」
悪魔の血を引く者アル。感情が高ぶると、その力は暴走してしまうらしい。
おそらく、暴走したのだろう。何かしらの理由でリミッターが外れて、暴れまわっているのだろう。悪魔の血が、その力を取り戻したのだろう。
しかし……あの温厚なアルを怒らせるとは……
「アルに何をしたんですか?」
「……友達の……フリをして……」
「……友……あ……」一つの可能性に思い至る。「あなたが、ロス……えーっと……ファロスですか?」
「ファロス……? ヴェロス、ですよ」
ヴェロスだったか。まぁどっちでもいい。
この少年が、アルの友達のヴェロスか。アルの初めての友達で、とても大切であろう友達ヴェロス。アルにとって親友と言っても差し支えないであろう存在のヴェロス。
そんなヴェロスが、アルを怒らせる? なんのために? そして『友達のフリ』とは?
少年――ヴェロスはもはやそれしか選択肢がないかのように話し出す。
「あ……俺は……悪魔が見たかったんです……だから、アルミュールと友達になったフリをして……それから、裏切って……」
「ああ……なるほど。理解しました」
つまり……こういうことか。
ヴェロスは悪魔の姿が見たかった。そのためには、アルの感情を高ぶらせて、力を暴走させる必要がある。
だから大きく感情を変化させるために、一度アルと友達になったのだ。アルと親友になって信用させて、それから裏切る。
おそらくヴェロスは……アルをいじめていた側だったのだろう。だからいじめっ子たちに取り囲まれていたのだ。取り囲まれていた、というよりも一緒にいただけだろうけど。
親友に裏切られたときのショックは、どんなものだっただろうか。唯一親友と呼べる友の本性を知ったとき、アルはどう思っただろうか。
少なくとも、平静ではいられまい。だから……こうやって暴走してしまったわけだ。だから、町中に轟音が響き渡っているわけだ。暴れまわっているわけだ。
……これは私の失策だったな。アルは『どうしてヴェロスが僕と友達になってくれたのかわからない』と証言していた。
その時点で、私が気づくべきだった。ヴェロスはいじめっ子側で、アルの悪魔の血を引き出そうとしていると。
……いや、それは結果論だな、あの時点で気づくのは難しかったかもしれない。だけど、私ならできただろうに……失策なのは間違いないか。
なんにせよ……止めないとな。弟子の暴走は師匠が止めなければい。
そして何より……悪魔の力を、見てみたい。体感してみたい。人々に恐れられるその力、私自身が味わってみたい。
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