12 / 30
なんでもない
しおりを挟む
「それで……悪魔の血を引いていたからいじめられていて……それで……」少年ははにかみながら、「そんな僕にも……友達ができたんですよ」
「そうですか」
別に良いことだとは思わない。悪いことだとも思わないけれど。友達ができたというのはただの事象であって、善悪だとか正誤だとか、そういった言葉で表せることじゃないのだ。
私の友達に対する知見などどうでもいい。今は少年の話を聞こう。
「なんで僕と友達になってくれたのか、それはわからないんですけど……とにかく友達になろうって言われて、友達になりました。それで遊んだり一緒に帰ったりして……しばらくしてからです」
「何かあったんですか?」
「はい……その僕の友達が……いじめっ子に囲まれてたんです。声をかけたら、気まずそうに『なんでもない』って言うだけで……」
なるほど。それを見ていじめられていると判断したわけだ。いじめっ子に取り囲まれていて、そして声をかけると、なんでもないと答える。なるほど確かにいじめられていると判断しても妥当だろう。
「たぶん……僕と友達になったからいじめられ始めて……」いじめられっ子の友達もいじめてしまおうという判断か。「それで……強くなって助けてあげたいんです。僕の……唯一の友達だから……」
なるほど……それが強さを求める理由か。友のため強くなりたい。素晴らしい理由じゃないか。私としては物足りないけれど、悪い理由ではない。
少なくとも、ここで修行を打ち切りにするような話ではない。だが、ちょっとばかり気にかかることもある。
「その問題は……肉体的な強さだけでは解決しないかもしれません」
「え?」
「仮にあなたがいじめっ子を全員倒したとしましょう。その後はどうなると思いますか?」
「どうなるって……」
「それでいじめが終了する、なんてことはありませんよ。そもそもあなたは強大な力を秘めている。にもかかわらず、いじめっ子たちはあなたを標的にしていた。だから、武力で解決できる可能性は低いように思えます」
可能性がゼロとは言わないけれど。それでもやはり高いとは言えないだろう。力にビビっていじめが止むなら、最初からいじめられていないのだから。
かといって、それに変わる解決方法を提示できるわけではないけれど。所詮私は腕力頼りの暴力女である。それ以外に対した特技はない。
そんな私が、いじめの解決などできるわけもない。したことがあるわけもない。
やっぱりソラさんに弟子入りしたほうが良かったんじゃないだろうか、なんてことも思う。
だが、今のこの子――アルの師匠は私なのだ。ならば、私にできるすべてをお教えしよう。
「まぁとりあえず、基礎的な技術から教えましょう。問題は解決されないにしても、役には立つはずです」
ということで、慣れない師匠役の始まりである。どうせ自分の師としての才能の無さを痛感することになるだろうが、それはそれである。
とりあえずやってみて、合わなければやめればいいのだ。人生なんてそんなものである。
「そうですか」
別に良いことだとは思わない。悪いことだとも思わないけれど。友達ができたというのはただの事象であって、善悪だとか正誤だとか、そういった言葉で表せることじゃないのだ。
私の友達に対する知見などどうでもいい。今は少年の話を聞こう。
「なんで僕と友達になってくれたのか、それはわからないんですけど……とにかく友達になろうって言われて、友達になりました。それで遊んだり一緒に帰ったりして……しばらくしてからです」
「何かあったんですか?」
「はい……その僕の友達が……いじめっ子に囲まれてたんです。声をかけたら、気まずそうに『なんでもない』って言うだけで……」
なるほど。それを見ていじめられていると判断したわけだ。いじめっ子に取り囲まれていて、そして声をかけると、なんでもないと答える。なるほど確かにいじめられていると判断しても妥当だろう。
「たぶん……僕と友達になったからいじめられ始めて……」いじめられっ子の友達もいじめてしまおうという判断か。「それで……強くなって助けてあげたいんです。僕の……唯一の友達だから……」
なるほど……それが強さを求める理由か。友のため強くなりたい。素晴らしい理由じゃないか。私としては物足りないけれど、悪い理由ではない。
少なくとも、ここで修行を打ち切りにするような話ではない。だが、ちょっとばかり気にかかることもある。
「その問題は……肉体的な強さだけでは解決しないかもしれません」
「え?」
「仮にあなたがいじめっ子を全員倒したとしましょう。その後はどうなると思いますか?」
「どうなるって……」
「それでいじめが終了する、なんてことはありませんよ。そもそもあなたは強大な力を秘めている。にもかかわらず、いじめっ子たちはあなたを標的にしていた。だから、武力で解決できる可能性は低いように思えます」
可能性がゼロとは言わないけれど。それでもやはり高いとは言えないだろう。力にビビっていじめが止むなら、最初からいじめられていないのだから。
かといって、それに変わる解決方法を提示できるわけではないけれど。所詮私は腕力頼りの暴力女である。それ以外に対した特技はない。
そんな私が、いじめの解決などできるわけもない。したことがあるわけもない。
やっぱりソラさんに弟子入りしたほうが良かったんじゃないだろうか、なんてことも思う。
だが、今のこの子――アルの師匠は私なのだ。ならば、私にできるすべてをお教えしよう。
「まぁとりあえず、基礎的な技術から教えましょう。問題は解決されないにしても、役には立つはずです」
ということで、慣れない師匠役の始まりである。どうせ自分の師としての才能の無さを痛感することになるだろうが、それはそれである。
とりあえずやってみて、合わなければやめればいいのだ。人生なんてそんなものである。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる