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なんでもない

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「それで……悪魔の血を引いていたからいじめられていて……それで……」少年ははにかみながら、「そんな僕にも……友達ができたんですよ」
「そうですか」

 別に良いことだとは思わない。悪いことだとも思わないけれど。友達ができたというのはただの事象であって、善悪だとか正誤だとか、そういった言葉で表せることじゃないのだ。
 私の友達に対する知見などどうでもいい。今は少年の話を聞こう。

「なんで僕と友達になってくれたのか、それはわからないんですけど……とにかく友達になろうって言われて、友達になりました。それで遊んだり一緒に帰ったりして……しばらくしてからです」
「何かあったんですか?」
「はい……その僕の友達が……いじめっ子に囲まれてたんです。声をかけたら、気まずそうに『なんでもない』って言うだけで……」

 なるほど。それを見ていじめられていると判断したわけだ。いじめっ子に取り囲まれていて、そして声をかけると、なんでもないと答える。なるほど確かにいじめられていると判断しても妥当だろう。

「たぶん……僕と友達になったからいじめられ始めて……」いじめられっ子の友達もいじめてしまおうという判断か。「それで……強くなって助けてあげたいんです。僕の……唯一の友達だから……」

 なるほど……それが強さを求める理由か。友のため強くなりたい。素晴らしい理由じゃないか。私としては物足りないけれど、悪い理由ではない。
 少なくとも、ここで修行を打ち切りにするような話ではない。だが、ちょっとばかり気にかかることもある。

「その問題は……肉体的な強さだけでは解決しないかもしれません」
「え?」
「仮にあなたがいじめっ子を全員倒したとしましょう。その後はどうなると思いますか?」
「どうなるって……」
「それでいじめが終了する、なんてことはありませんよ。そもそもあなたは強大な力を秘めている。にもかかわらず、いじめっ子たちはあなたを標的にしていた。だから、武力で解決できる可能性は低いように思えます」

 可能性がゼロとは言わないけれど。それでもやはり高いとは言えないだろう。力にビビっていじめが止むなら、最初からいじめられていないのだから。

 かといって、それに変わる解決方法を提示できるわけではないけれど。所詮私は腕力頼りの暴力女である。それ以外に対した特技はない。
 そんな私が、いじめの解決などできるわけもない。したことがあるわけもない。
 やっぱりソラさんに弟子入りしたほうが良かったんじゃないだろうか、なんてことも思う。
 
 だが、今のこの子――アルの師匠は私なのだ。ならば、私にできるすべてをお教えしよう。

「まぁとりあえず、基礎的な技術から教えましょう。問題は解決されないにしても、役には立つはずです」

 ということで、慣れない師匠役の始まりである。どうせ自分の師としての才能の無さを痛感することになるだろうが、それはそれである。
 とりあえずやってみて、合わなければやめればいいのだ。人生なんてそんなものである。
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