7 / 15
7 してみょろ……
しおりを挟む
さて僕の異世界初戦闘。通常の戦闘とは趣が違うだろうが、これが僕の戦闘である。
「おい……行くぞ……!」
相手は今にも飛びかかってきそうな酔っ払い5人組。ガタイもよく、話し合いは難しそうな相手。
だからこそ、この声の力を試すときだ。
声と威圧だけで、勝つ。僕にできるのはそれだけだ。
「フフ……」だから、全力でそれっぽいことを言うのだ。「花鳥風月と言うべきか……」
「……は?」
「なかなか趣向を凝らしているようだな。泰山北斗の麟子鳳雛だ」
僕は何を言っているんだ?
知ってる四字熟語を適当に並べたら威圧感あるかと思って喋りだしたが……意味がわからない。そもそも聞いたことがあるだけで、この四字熟語の意味知らない。
「……な、なんだ……? どういうことだ……?」
僕が聞きたい。僕自身が何を言っているのか理解できない。
「くり返し言えばロバにもわかることだ……しっかりと言葉の意味を吟味してみょろ……してみろ」
やべぇ噛んだ。してみょろ……ってなんだ。声が良くなっただけで、滑舌は一般人なんだよこちとら。というか会話苦手なんだよコミュ障なんだよ人見知りなんだよ。
噛んだことを突っ込まれたら終わりなので、ここは勢いでごまかすのだ。
「経験は恐れを呼ぶ……私に対し恐れの感情を抱くことは決して間違ってはいない」
「つまり……?」
「地獄への道はたやすい、ということだ」
「……?」
「わからないか? しかし、それも仕方があるまい……」
僕もわからないから。僕が何を言っているのか、僕がわからない。というか、たぶん会話が成立していない。やはり勢いでごまかすしかない。
「……フフ……沈黙を守っても大声で叫ぶ……見える、見えるぞ。お前達の焦りが」
「……」
何だこの緊張感は。僕は適当なことを言っているだけなのに、この声のせいで……いや、おかげで緊張感が凄い。とてつもなくカッコいいこと言ってるみたいな雰囲気が出ている。中身スカスカなのに。
「しかし……気に入ったぞ。我……私の力を見抜いただけでなく、その上で立ち向かおうとしてくるとは……生かしておく価値くらいは……あるかもしれんな……」
「なんだと……?」
「選択肢をやろう」僕は指を2本立てる。「ここで私と戦い命を散らすか、賢明な判断をし、生きながらえるか」
「……賢明な判断?」
「どの判断をすればよいかは、キミたちほどの男ならわかっているはずだ……期待している」
良し……言い切ったぞ。何が良しなのかはわからんが、とにかく言い切った。支離滅裂で今も心臓がバクバク言ってるけど、一通り喋り終わった。
これでもなお、襲いかかってくるのなら、それは仕方がない。土下座して許してもらおう。本当は弱いことを打ち明けよう。
「おいアニキ……なんかよくわからんが逃してくれるみたいだぞ……」
「お、おう……逃げることが賢明な判断、ってことだよな?」
そうだ、それでいい。そうやって勝手に勘違いして逃げてくれればいいのだ。
酔っ払いたちは完全に戦意は失っているようだ。とりあえず襲いかかってくる心配はあるまい。
それにしても……この声の効果半端じゃないな。言動は意味がわからなくても、勝手に相手が解釈してくれる。
「だけどよぉ……逃げるだけでいいのか?」
おや……? なんだか雲行きが?
「……つまりあれか? ……ってことか?」
「……だろ……?」
酔っ払いたちはヒソヒソと話をしているので、いまいち会話が聞き取れない。……どんな会話をしているのだろう。怖くて仕方がない。
「よし……」リーダー格の男が覚悟を決めたように、「あんたの言いたいことはよくわかった」
「そうか。ならば……」
「あんたの部下になれ、ってことだろ?」
「……」違います。「……ふむ……まぁいいだろう。合格点をやる」
「ああ……だが、俺たちは誰かの下につくつもりはない」
「そうか……では――」
「待ってくれ。部下にはならないが、協力はしよう。あんたが困ってるときに、俺たちを頼ってくれたなら、協力する。それならどうだ?」
それは……とりあず部下にはならないということか。好都合だ。この状況で部下とかいても困るだけだし。
「ふん……まぁいいだろう」
「そうか。悪いな恩に着るぜ」
そう言い残して、男たちは去っていった。
……これは……うまく逃げられたかな……酔っぱらいたちにしても、私にしても、うまく逃げたほうだろう。
おそらくだが、あの酔っぱらいたちが協力に現れることはない。このときだけの方便だろう。
だが、それでいい。私としてはこの場を乗り切れたのだから、それでいいのだ。
ああ……心臓に悪い。死ぬかと思った殺されるかと思った。よくわからんが窮地を脱したぞ。
……この声とカリスマの能力……もしかしてとんでもない力を持っているのでは?
「おい……行くぞ……!」
相手は今にも飛びかかってきそうな酔っ払い5人組。ガタイもよく、話し合いは難しそうな相手。
だからこそ、この声の力を試すときだ。
声と威圧だけで、勝つ。僕にできるのはそれだけだ。
「フフ……」だから、全力でそれっぽいことを言うのだ。「花鳥風月と言うべきか……」
「……は?」
「なかなか趣向を凝らしているようだな。泰山北斗の麟子鳳雛だ」
僕は何を言っているんだ?
知ってる四字熟語を適当に並べたら威圧感あるかと思って喋りだしたが……意味がわからない。そもそも聞いたことがあるだけで、この四字熟語の意味知らない。
「……な、なんだ……? どういうことだ……?」
僕が聞きたい。僕自身が何を言っているのか理解できない。
「くり返し言えばロバにもわかることだ……しっかりと言葉の意味を吟味してみょろ……してみろ」
やべぇ噛んだ。してみょろ……ってなんだ。声が良くなっただけで、滑舌は一般人なんだよこちとら。というか会話苦手なんだよコミュ障なんだよ人見知りなんだよ。
噛んだことを突っ込まれたら終わりなので、ここは勢いでごまかすのだ。
「経験は恐れを呼ぶ……私に対し恐れの感情を抱くことは決して間違ってはいない」
「つまり……?」
「地獄への道はたやすい、ということだ」
「……?」
「わからないか? しかし、それも仕方があるまい……」
僕もわからないから。僕が何を言っているのか、僕がわからない。というか、たぶん会話が成立していない。やはり勢いでごまかすしかない。
「……フフ……沈黙を守っても大声で叫ぶ……見える、見えるぞ。お前達の焦りが」
「……」
何だこの緊張感は。僕は適当なことを言っているだけなのに、この声のせいで……いや、おかげで緊張感が凄い。とてつもなくカッコいいこと言ってるみたいな雰囲気が出ている。中身スカスカなのに。
「しかし……気に入ったぞ。我……私の力を見抜いただけでなく、その上で立ち向かおうとしてくるとは……生かしておく価値くらいは……あるかもしれんな……」
「なんだと……?」
「選択肢をやろう」僕は指を2本立てる。「ここで私と戦い命を散らすか、賢明な判断をし、生きながらえるか」
「……賢明な判断?」
「どの判断をすればよいかは、キミたちほどの男ならわかっているはずだ……期待している」
良し……言い切ったぞ。何が良しなのかはわからんが、とにかく言い切った。支離滅裂で今も心臓がバクバク言ってるけど、一通り喋り終わった。
これでもなお、襲いかかってくるのなら、それは仕方がない。土下座して許してもらおう。本当は弱いことを打ち明けよう。
「おいアニキ……なんかよくわからんが逃してくれるみたいだぞ……」
「お、おう……逃げることが賢明な判断、ってことだよな?」
そうだ、それでいい。そうやって勝手に勘違いして逃げてくれればいいのだ。
酔っ払いたちは完全に戦意は失っているようだ。とりあえず襲いかかってくる心配はあるまい。
それにしても……この声の効果半端じゃないな。言動は意味がわからなくても、勝手に相手が解釈してくれる。
「だけどよぉ……逃げるだけでいいのか?」
おや……? なんだか雲行きが?
「……つまりあれか? ……ってことか?」
「……だろ……?」
酔っ払いたちはヒソヒソと話をしているので、いまいち会話が聞き取れない。……どんな会話をしているのだろう。怖くて仕方がない。
「よし……」リーダー格の男が覚悟を決めたように、「あんたの言いたいことはよくわかった」
「そうか。ならば……」
「あんたの部下になれ、ってことだろ?」
「……」違います。「……ふむ……まぁいいだろう。合格点をやる」
「ああ……だが、俺たちは誰かの下につくつもりはない」
「そうか……では――」
「待ってくれ。部下にはならないが、協力はしよう。あんたが困ってるときに、俺たちを頼ってくれたなら、協力する。それならどうだ?」
それは……とりあず部下にはならないということか。好都合だ。この状況で部下とかいても困るだけだし。
「ふん……まぁいいだろう」
「そうか。悪いな恩に着るぜ」
そう言い残して、男たちは去っていった。
……これは……うまく逃げられたかな……酔っぱらいたちにしても、私にしても、うまく逃げたほうだろう。
おそらくだが、あの酔っぱらいたちが協力に現れることはない。このときだけの方便だろう。
だが、それでいい。私としてはこの場を乗り切れたのだから、それでいいのだ。
ああ……心臓に悪い。死ぬかと思った殺されるかと思った。よくわからんが窮地を脱したぞ。
……この声とカリスマの能力……もしかしてとんでもない力を持っているのでは?
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる