上 下
222 / 273
異世界で仲間が増えました

新鮮な気持ち

しおりを挟む
 とりあえず一品だけサンプルメニューを作り、それから俺は5日分の献立案を患者のお婆さんと娘さんに提示し、2人から返答をもらう。

「んーー、長く生きているけど、聞き覚えのない料理があるね。まあ、あんたが良いと思ったんなら、あたしゃ、文句ないよ」
「私も大丈夫です、ただ聞いた事のない料理もあるのでレシピを頂けますか?」
「はい、それでどのメニューのレシピが欲しいですか?」
「ええっとですね……」

 そこから娘さんが希望した料理のレシピを娘さんに手渡し、帰る時間になったので、直前にリハビリメニューの事を告げた。

「明日にはもっと細かいリハビリメニューを考えてお持ちしますので、今日はご自分のペースでいいので口すぼめ呼吸をしていてください」
「ああ、ありがとね、あたしの身体にあったご飯まで考えてくれて」
「いえ、それじゃあそろそろ午後の診療がありますのでこれで失礼します」

 俺が帰りの挨拶をするとお婆さんはメルの方に声をかけた。

「あ、料理人のお姉さん、ちょっといいかい?」
「私に?何ですか?」
「あんたの作った鶏肉とネギの揚げ焼き、美味しかったよ。もしもう少し体調が良くなったらあんたの店に行って、もっとあんたの料理が食べたいね」
「ありがとうございます、お待ちしておりますね」

 メルがお婆さんに対して挨拶したタイミングを見て、改めて俺も帰りの挨拶をする。

「それじゃあこれで失礼します」

 こうして俺達はこの家をあとにし、少し離れた道まで歩いていった。メルにとっては初めての事だったし、少しねぎらいの言葉をかけないとな。

「お疲れさん、メル、初めての事で大変だったろう」
「ううん、料理を作るという事に変わりはなかったからそれは大丈夫よ、それよりも新鮮な気持ちになれたわ」
「新鮮な気持ち?」
「うん、いつも私のお店に来てくれる人は元気で食べる事を楽しめる人たちって事を改めて認識したわ」

 メルの言うように、自分でお店に行ける人は確かに元気で自分から進んで美味しいと思った料理を食べに行っているんだよな。

「お父ちゃん、病気になって死にそうなときはもう食べる事も辛そうだったのを思い出したし、きっともっとお父ちゃんも生きて、色々作って食べたかったのかもしれない」
「メル……」
「だから余計に嬉しかった、あのお婆さんが元気になって私のお店に行きたいって言ったときは、本当に」

 メル、目が潤んでいるな泣きそうなのをこらえているのが良く分かる。

「メル、少しでも多くの人の健康を守って、食べる楽しみもだがいろんな楽しみを守っていこう」
「うん、また必要な時は声かけてね、それじゃあ」

 お店に急ぐ意味もあったかもしれないが、あまり俺達に泣き顔を見られたくない、そんな思いのダッシュに俺には見えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

絶対防御とイメージ転送で異世界を乗り切ります

真理亜
ファンタジー
有栖佑樹はアラフォーの会社員、結城亜理須は女子高生、ある日豪雨に見舞われた二人は偶然にも大きな木の下で雨宿りする。 その木に落雷があり、ショックで気を失う。気がついた時、二人は見知らぬ山の中にいた。ここはどこだろう? と考えていたら、突如猪が襲ってきた。危ない! 咄嗟に亜理須を庇う佑樹。だがいつまで待っても衝撃は襲ってこない。 なんと猪は佑樹達の手前で壁に当たったように気絶していた。実は佑樹の絶対防御が発動していたのだ。 そんな事とは気付かず、当て所もなく山の中を歩く二人は、やがて空腹で動けなくなる。そんな時、亜理須がバイトしていたマッグのハンバーガーを食べたいとイメージする。 すると、なんと亜理須のイメージしたものが現れた。これは亜理須のイメージ転送が発動したのだ。それに気付いた佑樹は、亜理須の住んでいた家をイメージしてもらい、まずは衣食住の確保に成功する。 ホッとしたのもつかの間、今度は佑樹の体に変化が起きて... 異世界に飛ばされたオッサンと女子高生のお話。 ☆誤って消してしまった作品を再掲しています。ブックマークをして下さっていた皆さん、大変申し訳ございません。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...