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高校2年編
思い出した事
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研究会で村田への強い言葉、そしてここ最近のハードな状況で心身が疲れ果てていた鎌田女流三冠に博多に住んでいる父親から連絡があり、気丈に振舞い、今の研究会の仲間に長谷一輝四段がいる事を嬉しそうに話すが、その後に言葉が続かず泣き崩れてしまう。
「どげんした美緒?やっぱなんかあったと?」
「ごめん、ちょっと、うち、その研究会の子にキツイ事言ってもうて、うちが先輩なのにパワハラみたいなことしてなんかそんな自分が嫌で……」
「うんうん、やっぱ美緒、本当は最近しんどかったんか、どういう事を言うたかは聞かんけど、またその子にはちゃんと謝っとき」
「うん……なあ、お父ちゃん、うち、このまま棋士目指して本当によかばい?」
村田に非があったものの、自分でも信じられないくらいに激怒してしまった事を父に打ち明ける鎌田であったが、更に棋士を目指していく事への不安も打ち明ける。
「どげんした?確かに三段リーグでちょい負けとるけど、まだ分からんし、美緒の年ならまだチャンスもあるばい」
「うちの年、あんな今対局してる伊原さんって今のうちと同い年の時に初段になれんと退会して、その伊原さんにも苦戦しとるうちが本当に棋士になれるんか、不安で」
「そんなん伊原さんかてちょっとは強くなっとろうし、美緒は三段リーグでも頑張っとるし、まだまだこれからばい」
「……、お母ちゃん、お母ちゃんもこげんな気持ちだったんかな?」
「美緒、お母ちゃんの事を思い出したんか……」
鎌田は突如母の事を口に出し、父は母についての話を始める。
「お母ちゃんは女流棋士の傍ら、棋士を目指して奨励会にも入会しとったけんど、当時の新規定で掛け持ちは禁止になったばい」
「そんで、お母ちゃん、奨励会を辞めたとね、お母ちゃんから聞いた事がある、でも……」
「あんときは美緒もまだ小さかったばい、比較的スケジュールを調整しやすい女流棋士を選んだばい」
「……でもお母ちゃん、すぐに病気で死んでしまったし、後悔しとらんかったんかな?」
「それは分からん、でも今美緒が棋士を目指している事はきっと嬉しいんじゃないかとお父ちゃん思うばい」
父の言葉を聞いて鎌田はかつて母が奨励会と女流棋士を兼任していた事を思い出し、当時制定された規定で奨励会を自主的に退会し、後悔していないかと思うが、父の言葉を聞き、涙をぬぐった鎌田は父に礼の言葉を告げる。
「ありがとうお父ちゃん、うち、きっとお母ちゃんがなれんかった棋士になるばい、だからここでへこたれとる場合じゃなかとね」
「でも美緒無理しすぎんなよ」
「大丈夫ばい、うちは昔から身体の丈夫なのと将棋が強いのがとりえばい」
わずかだが前向きな気持ちを取り戻した鎌田は母のかなえられなかった夢を追うと改めて決意する。
「どげんした美緒?やっぱなんかあったと?」
「ごめん、ちょっと、うち、その研究会の子にキツイ事言ってもうて、うちが先輩なのにパワハラみたいなことしてなんかそんな自分が嫌で……」
「うんうん、やっぱ美緒、本当は最近しんどかったんか、どういう事を言うたかは聞かんけど、またその子にはちゃんと謝っとき」
「うん……なあ、お父ちゃん、うち、このまま棋士目指して本当によかばい?」
村田に非があったものの、自分でも信じられないくらいに激怒してしまった事を父に打ち明ける鎌田であったが、更に棋士を目指していく事への不安も打ち明ける。
「どげんした?確かに三段リーグでちょい負けとるけど、まだ分からんし、美緒の年ならまだチャンスもあるばい」
「うちの年、あんな今対局してる伊原さんって今のうちと同い年の時に初段になれんと退会して、その伊原さんにも苦戦しとるうちが本当に棋士になれるんか、不安で」
「そんなん伊原さんかてちょっとは強くなっとろうし、美緒は三段リーグでも頑張っとるし、まだまだこれからばい」
「……、お母ちゃん、お母ちゃんもこげんな気持ちだったんかな?」
「美緒、お母ちゃんの事を思い出したんか……」
鎌田は突如母の事を口に出し、父は母についての話を始める。
「お母ちゃんは女流棋士の傍ら、棋士を目指して奨励会にも入会しとったけんど、当時の新規定で掛け持ちは禁止になったばい」
「そんで、お母ちゃん、奨励会を辞めたとね、お母ちゃんから聞いた事がある、でも……」
「あんときは美緒もまだ小さかったばい、比較的スケジュールを調整しやすい女流棋士を選んだばい」
「……でもお母ちゃん、すぐに病気で死んでしまったし、後悔しとらんかったんかな?」
「それは分からん、でも今美緒が棋士を目指している事はきっと嬉しいんじゃないかとお父ちゃん思うばい」
父の言葉を聞いて鎌田はかつて母が奨励会と女流棋士を兼任していた事を思い出し、当時制定された規定で奨励会を自主的に退会し、後悔していないかと思うが、父の言葉を聞き、涙をぬぐった鎌田は父に礼の言葉を告げる。
「ありがとうお父ちゃん、うち、きっとお母ちゃんがなれんかった棋士になるばい、だからここでへこたれとる場合じゃなかとね」
「でも美緒無理しすぎんなよ」
「大丈夫ばい、うちは昔から身体の丈夫なのと将棋が強いのがとりえばい」
わずかだが前向きな気持ちを取り戻した鎌田は母のかなえられなかった夢を追うと改めて決意する。
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