一歩の重さ

高校２年編

主張を通せ

　互いに主張点のある一輝と諸見里の師弟対局、そしてまずは諸見里が口火を開き、4四銀と銀を繰り出していった。そこから数手進むと一輝は一旦玉に手を入れて8八玉とした。少しでも囲いを強化しつつできる限り玉を戦場から遠ざけるのが狙いだ。

　それを見た諸見里は3三桂としてどんどんと攻め駒を加えていく。一輝は攻めに備えて玉周りを固めていくがその間に諸見里は5五銀とし、すかさずに5六歩と一輝は突き、諸見里は銀を4四に引く。

「岸本先生、諸見里九段が攻めの姿勢を見せて、長谷四段は玉を固めているという構図に見えますが、この先の展開はどうなる事が予想されますか？」
「長谷四段は攻めの得意棋士ですし、どこかで反撃の機会をうかがっていると思いますね」
「そうするとどこを攻めの基点にするのでしょうか？」
「色々考えられますね、このまま飛車同士を向かい合わせて別の地点から足掛かりを作るか、もしくは隙を見て飛車を回るとか……」

　岸本の予想が的中し、一輝は飛車を一度引いてから飛車を6九に回った。これは完全に玉頭から攻めるという意思の表れだ。

　諸見里は少しでも守りを強化しようと4ニ金とし、一輝の応手を待つ。

　そこから一輝は再び飛車を2九と戻し、諸見里を翻弄する。

　そこから更に手は進み、一輝は6六銀とし、更に諸見里の玉頭にプレッシャーをかけていく。

　負けじと諸見里は桂馬を跳ねて飛車が回るスペースを作ると8一飛車とし、一輝の玉頭に狙いをつける。

　そして一輝もすかさず攻勢に転じる。そこからお互いに歩を突き捨て、時には端を絡めた攻撃が行われるが、一輝は9八歩と手堅く受け、諸見里の攻めをしのいでいく。

　そして諸見里の攻めが止まると一輝の猛攻が始まる。

　次から次へと諸見里の玉を守る駒を剥がしていき、次第に諸見里を追い詰めていく。

　受けきれないと判断した諸見里も一輝の玉に対して王手をかけていくが、すべて受け切り、一輝の反撃を受けもはや勝ち目がない事を悟る。

「負けました」

　この言葉と共に諸見里は頭を下げて、一輝も頭を下げ、山西女流もこの状況を見て諸見里が投了した事を児童に告げる。

「ここで諸見里九段投了、長谷四段の勝ちとなりました」
「諸見里九段の玉は長いですが詰みがあるので投了やむなしと判断したわけですね」
「本局を振り返ってみていかがでしたか？」
「そうですね、私は諸見里九段のとっておきで長谷四段を翻弄しましたが、持ち前の読みの深さで打ち破ったという印象でしたね」

　非公式戦とはいえ、一輝は師匠の諸見里をも打ち破った。少しづつ一輝も勝ちを重ねトップに近づきつつあるかもしれない。