一歩の重さ

burazu

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高校2年編

勝負どころの長考

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 一輝が下校し始めた時間帯にアパートで1人暮らしをしている鎌田美緒女流三冠は現在パソコンでlive中継をしている真壁天馬五段と倉橋正一八段の対局を観戦していた。

 本日は小夜、美咲、村田とも観戦する約束をしており3人の到着を待っていた。

 そんな中、インターホンが鳴り、それに反応して玄関のドアを開ける。

「はい、あ、村田君。村田君が一番よ」
「そうなんですか、お邪魔します」

 そう言って村田は玄関から廊下に上がり、鎌田の案内で部屋まで行き、早速live中継に反応する。

「形勢は互角、だけど……」
「ええ、真壁先生が時間で負けているうえに、この時間差を活用して倉橋先生がもう1時間は長考しているわ」
「持ち時間4時間の将棋で1時間の長考となると勝負所ですね」

 倉橋の将棋の特徴を把握している鎌田達にもこの局面は既に勝負所になる事が画面越しにも伝わっており、天馬はそのプレッシャーを直に感じている事は2人には想像がつきやすかった。

 2人がlive中継の画面に釘付けになっていると更にインターホンが鳴り、鎌田が村田に声をかける。

「村田君、私が出るから」

 そう言って鎌田は玄関に向かい、ドアを開ける。

「はい、あ、牧野さん、与田さん」
「お邪魔します鎌田さん」
「お邪魔します、あ、この靴って……」
「そうよ、村田君があなた達より先に来ているわ。さ、2人も中へどうぞ」

 鎌田に促されて小夜と美咲も廊下に上がり、パソコンの部屋まで行く。そこで村田が観戦しているのを確認すると小夜が声をかける。

「こんにちは村田君」
「あ、牧野さん、与田さん、こんにちは」

 互いに挨拶を終えると鎌田が4人分のコップを乗せたトレイを持って来て、畳に置いて言葉を発する。

「ごめんね、今うちにウーロン茶しかなくて」
「いえ、ありがとうございます」

 小夜が礼の言葉を述べて、全員でウーロン茶を手にして一口飲んでから村田が鎌田に尋ねる。

「そういえば、鎌田さん、真壁さんの対局の中継なのに長谷さんを誘わなかったんですか?」
「実は1度誘ってみたんだけど、西田先生と一緒に観戦するって言って断られたわ」
「そうなんですか、西田先生と観戦するんですね」
「多分、もう長谷先生にとっては倉橋先生も勝つべき相手になっているはず。最近苦手な相手だった綾小路先生にも初勝利を収めたし、西田先生と深く検討したいんじゃないかしら」

 鎌田から見た一輝は普段の研究会だけでなく、公式戦でもトップレベルの棋士に勝利を収める事でかなりの成長を感じており、参考にするのが難しい存在となっていた。
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