一歩の重さ

burazu

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高校2年編

引退した師匠

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 真壁天馬はあるマンションに住む、1人の中年男性を訪ねていたが、その中年男性を師匠と呼んでおり、しかもその口ぶりからどうやら久しぶりの再会のようだ。

「しかし師匠、もう引退されてから3年になるんですね、こうやってお会いするのはそれっきりですよ」
「3年か、引退と言えば聞こえはいいが、俺の場合は成績不振によるもの、いわば戦力外通告だからな」
「それっきり、師匠にもう来なくていいと言われてから来ませんでしたが、今日はどうしても来なくてはいけない理由がありましたからね」
「四段昇段時にも電話で済んだが、わざわざ来たというのは余程だな」

 とりあえず天馬は師匠のマンションの部屋に入り、リビングに到着すると師匠に促される。

「まあ座れや」
「はい」

 ミニテーブルの前にある師匠が用意した座布団に座り、師匠が声をかける。

「それで話ってのはなんだ?」
「師匠、確か師匠には離婚された奥さんとその奥さんが引き取った娘さんがいましたよね」
「どうした急に?」
「木本葵という人をご存知ですか?」

 その名前を出され師匠は驚き、思わず天馬に尋ねる。

「お前が何で葵の名前を知っているんだ?娘がいた事を話した事はあったが、名前を教えてはいなかったはずだ」
「師匠とは苗字が違うんで最初は気付きませんでしたが、葵さんとは2年ほど前から交際しています」
「三段リーグの頃からか、しかしその話を何故今になってしに来たんだ?」
「師匠の娘さんだと知ったからです」

 天馬が理由を話すと更に師匠は深く尋ねてきた。

「だが元嫁が言ってたが、俺をプロ棋士の大川武と話すつもりはないとな。少なからずメディアに出るうえ、俺は将棋界でも異端な方だから、娘に変なイメージは植え付けたくないと」
「ええ、だから知ったのは本当につい最近です」
「苗字も違う、そして娘は将棋に一切関わっていないのに何故分かったんだ?」

 大川の問いに天馬が返答をする。

「俺が四段に昇段した頃に彼女にも連絡して彼女の家でお母さんも交えてお祝いしてもらったんです」
「まさかその時に元嫁が話したのか?」
「はい、もっとも彼女はその時寝ていたので、お母さんがこっそりと俺にだけ、『どんなにあの人から遠ざけても結局近づいてしまうのね』とおっしゃっていました」
「お前がプロになれば必然的に俺の存在はあいつにも近くなる。それで話したのか。だが解せないのはお前が今になって俺の所に来た理由だ、プロ入りと同時に知らせてもよかったはずだが」
「それは……」

 天馬がこのタイミングで師匠である大川に知らせた理由は?
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