一歩の重さ

burazu

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高校2年編

注目されし天才

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 一輝が西田とVSをしている頃、関西将棋会館にある棋士室で将棋を指している2人の棋士がいた。

 1人は丸井哲司八段。彼は春先に棋将戦で雲竜棋将に挑戦したものの、番勝負で敗退したのである。

 現在彼は順位戦はA級に所属するトップレベルの棋士である。

 もう1人は近日、一輝と対局予定の綾小路はじめ七段である。過去2回一輝を退けている強豪棋士だ。

 門下は違うが、共に棋士室をよく訪れ、将棋を指すことが多いのだ。

 そんな時、丸井から言葉が発せられる。

「そういやあさ、綾小路君、今度あの長谷四段と対局するそうじゃない?」
「そうですねえ、まさか丸井さんからそう言いはるとは」

 共に関西所属の棋士ではあるが、丸井は広島出身であり、なまりを抑える為、標準語に近い言葉で普段は話している。これはメディア等で解説をする際に、標準語が求められるケースが多い為、意図的にそうしている部分もある。

 一方の綾小路は京都の老舗旅館の三男として生まれ、基本的には丸井同様標準語で話そうとしているのだが、どうも京都なまりがでることもある。

 どちらかと言うと発音の問題だ。

 長い付き合いの為、両者ともそこはあまり気にせず話を進める。

「この間、俺が棋将戦に挑戦した時の都市センターホテルの解説に彼が来ていたんだ」
「それなら、僕も聞きました。何で今その話を?」
「後で聞いた話だけど、あの難しい終盤を正確に読み切ったらしい」
「そんなことが」

 どこまでも落ち着いた態度を崩さない綾小路に更に丸井は言葉を続ける。

「そんな奴に2回も勝っている、綾小路君はすごいな、そんな正確な終盤の奴にどう勝てるか知りたいもんだね」
「ははは、まあ1回目はまだ、デビューしたてで少し序盤戦形に隙が見られたので、うまく咎めて勝たせてもろたんですけど」
「2回目はAIで分析すると、長谷四段がかなり有利を維持していたようだけど」
「彼は30秒将棋で寄せが見えず、僕の玉に詰みがないことが分かったんで、あとは攻めればってことですわ」

 自らの勝因を冷静に分析した綾小路は次戦への意気込みを語る。

「確かに長谷四段は次代の将棋界を担う存在かも知れません、だけど僕らが簡単に負けたら、将棋界も軽く見られるから、力は示しておきます」
「おお、さすが綾小路君。頑張れよ」
「丸井さんも同じ日に東京で順位戦なんで頑張ってください」
「おお」

 一輝の前に立ち塞がる壁は高く厚い。だがそれを乗り越えなければ頂点は見えないのだ。
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