一歩の重さ

burazu

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高校2年編

一手損右玉

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 一輝が梢子に対する指導対局を始めると一輝は初披露の一手損角換わりを戦法として選んだ。

 角交換成立後に一輝は2二銀と銀を上げる。

 梢子も駒組を進めるが、慣れない戦型の為手さぐり状態で進めていく。

 一輝はしばらく居玉の状態を続け、中々玉に手を付けず、他の駒を動かしていく。

 梢子は4七銀とし、腰掛け銀とする動きを見せると一輝はその瞬間5二金とし、駒組を進める。

 梢子が一手進めると、一輝は7三桂と桂馬を跳ねる。

 梢子も3七桂とし、一輝は次の瞬間6二玉と右玉に組む。

 本来将棋というのは飛車を右に使いたい場合は玉を左に、飛車を左に使いたい場合は玉を右に囲うというのがセオリーだが、この右玉は玉と飛車が接近して同時に狙われやすいように見えるが、桂馬を跳ねたことで、飛車が下段に下がることができ、駒の打ち込みの隙を少なくしたのだ。

 場合によっては飛車を左に回し、そこから戦いを仕掛けることもできるのだ。

 梢子は対右玉に慣れておらず、豊富な持ち時間で対抗策を見出そうとしていた。

 その様子を見て天馬が鎌田に話しかけていた。

「まさか一輝の奴、鎌田さんの一手損から今回の戦法につなげたんですかね」
「でも私は右玉は練習将棋でも指したことが無いので、独自に研究をしたんだと思います」
「まさか平手を提案したのも試したくてか?指導対局を何だと思っているんだ」

 天馬がぼやいていると村田が天馬に声をかけてくる。

「多分違うと思いますよ」
「村田君、それはどういうことだ?」
「少し前に僕に電話をしてきたんですよ。僕が力戦型の将棋を好むからどういう戦型がいいか相談を受けたんです」
「相談?」

 力戦型とは早めに定跡から外れ純粋な力勝負になりやすい型のことを言う。

 前例が少ないだけで知識のある者同士には力戦と言えないケースもあるが、基本的に序盤から定跡形から外れた将棋はこう言われる。

「僕は軽い気持ちで右玉なんてどうでしょうか?と言ったんですよ」
「それであいつ……」
「でも僕は角交換しないタイプの右玉が好きだし、長谷さんもそれは知っているはず」

 鎌田の一手損角換わりをヒントに村田の勧める右玉から、指導対局に一手損右玉を採用した一輝。

 梢子の力戦への対応力をこれで見極める目的だと天馬は悟り、そこから一輝の指導対局を静かに見届ける。
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