一歩の重さ

burazu

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高校2年編

駅での感想戦

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佐藤神田道場での研究会と指導対局に行くために一輝達は真壁天馬五段のアパートの最寄りの駅で待ち合わせをすることとしていた。

 既に天馬は駅のホームで待っており、一輝達の到着を待っていた。

 しばらくすると到着した電車から一輝が降りてきてお互いの存在に気付く。

「よう一輝、お前が一番とは意外だな」
「って言うか俺の家がお前のとこから一番近いんだよ。普通に俺が一番早く着くだろ」
「ふっ、それより一輝、またこの間の順位戦勝ったようだな、これで無傷の3連勝か。昇級候補トップに躍り出たそうじゃないか」
「そう言う天馬も順位戦は無敗じゃないか、お前が足踏みをしない限り順位戦では当分当たりそうにないな」

 一輝のちょっとした皮肉に天馬も皮肉を返す。

「そう言ってお前が足踏みしたら世話がないな。それより一輝、前の順位戦では終盤攻められて攻めが切れてからお前が逆襲して勝ったが、あのまま正確に攻められたらお前が負けていたぞ」
「天馬、それを言ったら前の順位戦で田中先生は合駒に桂馬を選択していたがあれが銀だとお前が負けていたぞ」

 一輝と天馬はそのまま相手の負け筋を探す感想戦のようなものを続ける。

 一輝達が感想戦を続けている時に鎌田美緒女流三冠が電車で天馬のアパートの最寄り駅に向かっている途中にある人物に声をかけられる。

「あれ、もしかして鎌田さんですか?」
「村田君!久しぶりね」

 鎌田に声をかけたのは奨励会員の村田亮二段で、中学2年生である。三段リーグには所属していないものの将来のプロ入りを有望視されているのである。

「今日、行くっていう佐藤神田道場って行ったことないんですけど、鎌田さんはあるんですか?」
「私もないわ。でもそこの娘さんの対局を見たことはあるわ」
「それって、例の長谷さんのクラスメイトっていう人ですか?世間って狭いですね」
「その子だって将棋界と関係ないわけじゃないわ。竹田先生の先輩だった方の娘さんだし」

 鎌田と村田は鎌田が三段リーグに上がる前は奨励会で指すことが幾度もあった仲ではあるが、鎌田が三段リーグに上がった直後に指す機会が減り、今再び一輝達の研究会に入ったことで指す機会が増えた。

「退会の話はやっぱ聞くとなんかぞっとしますね、僕も頑張ってプロにならないと」
「その前に三段リーグに上がらないとね、待っているから」
「鎌田さん、目が笑ってなくて怖いっす」
「あら、今の私に勝てないようじゃ、プロなんて夢のまた夢よ」

 少し村田を脅かすような言い回しをする鎌田だが、鎌田も村田の能力を高く評価しており、三段リーグに上がれば上位に行く存在と見ているのだ。無論2人の仲は険悪どころか比較的良好だからこそ、脅しも脅しにならないのだ。

 ようやく駅に到着し、電車を降りると驚くべき光景を目にする。

「では5五歩のときにはどうする?」
「それは手抜いて2八飛車と王手だ」

 なんと一輝と天馬は将棋盤も駒もない状態で延々と感想戦をしていたのだ。

 もちろん鎌田達にも可能な事なのだが、一輝達はあらゆる分岐で感想戦をしており、何度も巻き戻しを繰り返してたのだ。

 期待のプロのレベルの高さに驚嘆する鎌田と村田であった。
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