一歩の重さ

burazu

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高校2年編

解説芸

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 昼食休憩が終了してからも一輝は次の指し手を指すまで時間をかけて考えている。

 そんな時、ademaスタジオでは新たな解説者が投入された。

「ここからの解説は須山貴久七段とわたくし西田のダブル解説でお送りします。須山七段よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」

 この時間帯は西田と須山七段というベテラン棋士との2人で本局の解説を行うものだが、須山はとある解説で有名であり、早速西田はその洗礼を受けることとなる。

「出演まで控室で見ていましたが、後手が攻めて先手が受けるという展開ですね」
「そうですね、長谷四段の持ち味である切れ味鋭い攻めが今の所発揮されていませんね。あ、ここで真壁五段、6五同桂と銀を取りつつ、桂馬を手順に跳ねましたね」
「なるほど、桂馬のジャンプですね、そういえば真壁さんはまだ19歳でしたっけ?」
「はい、私より1つ年下ですからね」

 次の瞬間、須山の有名な解説が炸裂する。

「桂馬のジャンプ。まさに
「え?」
「いや、本局は未成年同士の対局ですから、少年ジャンプが適切ですよね」
「は、はい、そうですね……」

 須山は解説にダジャレを織り交ぜることで有名な棋士だったのだ。当然西田はそのことを知ってはいたのだが、不意をつかれた感じで返答に困ってしまったのだ。

 そんな西田をよそに手はどんどんと進み、またしても須山の解説が炸裂する。

「ここで真壁五段8五歩と歩を打ってきましたね」
「これはしていると歩を取り込まれて玉が圧迫されてアップアップで長谷四段はですよ」
「え、ええと」

 ここで須山はほっとくとホットケーキをかけたダジャレを披露し、更に玉がアップと一輝のダウンをかけた表現をしたのだ。さすがに西田もお手上げ状態に近い。今すぐでも投了したい気分なのだろう。

 解説スタジオは緩やかな空気が流れているが、対局室の緊迫感は更に増しており、将棋会館の検討室でも黒木と加瀬は息を呑むようにこの対局を検討していた。

「黒木さん、真壁さんの攻めがどんどんと激しくなってきますね。AIがいくら後手有利を示していてもこんな細い攻めが続くとは思いません」
「長谷君にいい受け、もしくは真壁君の攻め間違いか。結局最後は地力がでるってことか」
「そうですね、どこかで真壁さんにとっても未知の局面が現れるはず。その時が勝負です」

 黒木達がやり取りをしている中、遂に一輝が動いた。7五角と角を打ち、王手だ。

 遂に一輝が勝負に出た。天馬の研究を崩す時だ。
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