一歩の重さ

burazu

文字の大きさ
上 下
48 / 160
高校2年編

順位戦の重さ

しおりを挟む
 一輝と斉木の順位戦が関西将棋会館で開始され、序盤の駒組がゆっくりと進む。

 一輝の居飛車と斉木の三間飛車という対抗系の形である。

 一輝は斉木の攻めをけん制しつつ、穴熊へと組む。

 一輝は完全に持久戦の展開を望んでおり、斉木も穴熊ではそう簡単に崩せないので攻め手を慎重に探す。

 互いに時間を使いながら手を進めると昼食休憩の時間になる。

 斉木は休憩時間になるとすぐに盤面を離れるが、一輝は盤面をしばらく見つめてから対局室をあとにする。

 順位戦が行われている日は棋士が多くいる為、休憩室にある昼食の注文の品を探すのもひと苦労である。

「あれ、俺の頼んだきつねうどんはどこだ?」
「僕の親子丼は……あった!」
「すいません、私カレーを頼んだんですが、どこでしょうか?」

 様々な声がする中、一輝も自分が頼んだ品を見つけ食べることとする。

 昼食注文はとりあえず1度は全員に聞くが、中には注文せず自宅から弁当などを持ってくる者、コンビニ等で買ってきた物を食べる者、出前のリストにない店への買い出し等を頼む者、携帯食で済ます者等、実にさまざまである。

 また、例え休憩時間であっても棋士は対局が終了するまで会館の外へ出ることが許されていない。

 これも不正を防止する観点からの規定なのである。

 一輝は休憩を終え、対局室に戻り、自分が対局を行っている盤の前に座って再開時間を待つ。

 他の盤の前でも戻っている棋士がおり、再開時間を待っている。

 対局相手の斉木八段も盤面に戻ってきて、対局再開時刻となる。

 斉木の手番で休憩に入っていたが、その斉木もすぐには指さず、しばらく盤面を見ながら考えている。

 座って考えるだけではなく、斉木は再び席を外し、対局室を出る。

 一輝も斉木の考慮時間を利用して応手を座りながら考える。

 しかし一輝もただ座って考えるだけでなく、席を外し、対局室を出る。

 両者ともが盤面の前から姿を消した瞬間だ。

 その後、先に斉木が戻ってきて、盤面を見て一手指す。

 斉木が一手指してから数分してから一輝が盤面に戻ってくると、記録係に声をかけられる。

「指されました」

 その声を聞いて一輝は盤面を見て変化を察し、応手を考える。

 その後も手は進むものの、本格的な戦いは起こることなく、18:00となり、夕食休憩に入る。

 プロ入りしてから既に半年以上の時が経過し、一輝も2日制を除くあらゆる持ち時間の将棋を経験してきたが、時間の長さ、そして対局相手やそれ以外の棋士から漂う空気を感じ、一輝は棋士達が順位戦にかける思いは他棋戦のそれとは違う事を実感する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。 王子が主人公のお話です。 番外編『使える主をみつけた男の話』の更新はじめました。 本編を読まなくてもわかるお話です。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...