33 / 160
プロ入り後秋から春
勝利を読んで
しおりを挟む
現在都市センターホテルで雲竜太郎棋将と丸井拓八段の棋将戦第5局が行われており、ホテルのロビーで一輝が解説を、その聞き手を小夜が担当していた。
会場で場を繋ぐトークをしているとある一手が指され、小夜が一輝に尋ねる。
「長谷先生、この手の意味は?」
「これは金の頭を歩で叩いていますが、同金だと思うんですが、そうした場合の狙いが……」
ここで突如一輝は本格的な読み筋に入ってしまい、度を越えた集中に入りそうで小夜が思わず呼びかける。
「あの長谷先生、解説の方をお願いします」
「えっ、あっ、すいません、ええと……」
更に小夜は機転を利かせ来場者に呼びかける。
「すいません、皆さま、ですがこの集中力が長谷四段の強さの秘密なんです」
一部の来場者から笑い声が漏れ、なんとかその場は和やかに事が進む。
なんとか小夜のフォローもあり、自身の担当時間を無事に終える。
控室に戻り、休憩しながら盤面のモニターを見ていると後ろより小夜に話かけられる。
「気を付けてよ、解説で深く読むなんて、危うく事故が起きるとこだったわ」
「悪い、なんかこう高度な対局だし、もし俺がどっちかの立場だったらって考えたら……」
「でも次からは気を付けてよ。私もそう何度もフォローできないし」
「分かったよ」
それからも対局は続き、解説担当者も次々と変わっていった。
そして終盤に入り、詰むや詰まらずの局面となった。モニターを見ながら、佐渡会長、加瀬五段、そして一輝が検討をしていた。
そしてある局面を見て佐渡が加瀬に尋ねていた。
「これは一手間違えば、お互い即詰みがありそうですね」
「そうですね、ですがもし最善を指し続けた場合はどうなるんでしょう?」
「この局面においての最善を探すのは難しいでしょう、お互い既に1分将棋ですし」
佐渡と加瀬が局面の難しさを話していると一輝はなにかに気付いたようだ。
「まさか!」
そう言って一輝は自身の読み筋で検討用の盤の駒を動かし、その動きに佐渡と加瀬が驚愕する。
「えっ⁉」
「これは⁉」
更にそれだけでは収まらず、対局者の読み筋も一輝の読み筋と一致していったのだ。
「見てください、本譜の方も……」
佐渡はここからどちらが勝利者か確信した。
「この読み筋通りに進むとなると勝つのは……」
音は聞こえないが、モニターでは丸井八段が先に頭を下げていた。投了の意思を示したのである。
棋将戦第5局は雲竜棋将が勝利し、防衛に成功して幕を閉じる。
だがその一方でこの雲竜棋将の勝利を誰よりも早く確信したのがデビューして間もない長谷一輝四段だという事に同室にいた棋士や関係者は驚きを禁じ得ない。
思わず佐渡会長より声が漏れる。
「この先、彼はどのようになっていくのでしょうか」
棋将戦は幕を閉じた。
だが明日よりまた新しい戦いが始まる。
そしてこの春、一輝と小夜は高校2年生へと進級する。
会場で場を繋ぐトークをしているとある一手が指され、小夜が一輝に尋ねる。
「長谷先生、この手の意味は?」
「これは金の頭を歩で叩いていますが、同金だと思うんですが、そうした場合の狙いが……」
ここで突如一輝は本格的な読み筋に入ってしまい、度を越えた集中に入りそうで小夜が思わず呼びかける。
「あの長谷先生、解説の方をお願いします」
「えっ、あっ、すいません、ええと……」
更に小夜は機転を利かせ来場者に呼びかける。
「すいません、皆さま、ですがこの集中力が長谷四段の強さの秘密なんです」
一部の来場者から笑い声が漏れ、なんとかその場は和やかに事が進む。
なんとか小夜のフォローもあり、自身の担当時間を無事に終える。
控室に戻り、休憩しながら盤面のモニターを見ていると後ろより小夜に話かけられる。
「気を付けてよ、解説で深く読むなんて、危うく事故が起きるとこだったわ」
「悪い、なんかこう高度な対局だし、もし俺がどっちかの立場だったらって考えたら……」
「でも次からは気を付けてよ。私もそう何度もフォローできないし」
「分かったよ」
それからも対局は続き、解説担当者も次々と変わっていった。
そして終盤に入り、詰むや詰まらずの局面となった。モニターを見ながら、佐渡会長、加瀬五段、そして一輝が検討をしていた。
そしてある局面を見て佐渡が加瀬に尋ねていた。
「これは一手間違えば、お互い即詰みがありそうですね」
「そうですね、ですがもし最善を指し続けた場合はどうなるんでしょう?」
「この局面においての最善を探すのは難しいでしょう、お互い既に1分将棋ですし」
佐渡と加瀬が局面の難しさを話していると一輝はなにかに気付いたようだ。
「まさか!」
そう言って一輝は自身の読み筋で検討用の盤の駒を動かし、その動きに佐渡と加瀬が驚愕する。
「えっ⁉」
「これは⁉」
更にそれだけでは収まらず、対局者の読み筋も一輝の読み筋と一致していったのだ。
「見てください、本譜の方も……」
佐渡はここからどちらが勝利者か確信した。
「この読み筋通りに進むとなると勝つのは……」
音は聞こえないが、モニターでは丸井八段が先に頭を下げていた。投了の意思を示したのである。
棋将戦第5局は雲竜棋将が勝利し、防衛に成功して幕を閉じる。
だがその一方でこの雲竜棋将の勝利を誰よりも早く確信したのがデビューして間もない長谷一輝四段だという事に同室にいた棋士や関係者は驚きを禁じ得ない。
思わず佐渡会長より声が漏れる。
「この先、彼はどのようになっていくのでしょうか」
棋将戦は幕を閉じた。
だが明日よりまた新しい戦いが始まる。
そしてこの春、一輝と小夜は高校2年生へと進級する。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
義妹と一緒になり邪魔者扱いしてきた婚約者は…私の家出により、罰を受ける事になりました。
coco
恋愛
可愛い義妹と一緒になり、私を邪魔者扱いする婚約者。
耐えきれなくなった私は、ついに家出を決意するが…?
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる