一歩の重さ

burazu

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プロ入り後秋から春

勝利を読んで

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 現在都市センターホテルで雲竜太郎棋将と丸井拓八段の棋将戦第5局が行われており、ホテルのロビーで一輝が解説を、その聞き手を小夜が担当していた。

 会場で場を繋ぐトークをしているとある一手が指され、小夜が一輝に尋ねる。

「長谷先生、この手の意味は?」
「これは金の頭を歩で叩いていますが、同金だと思うんですが、そうした場合の狙いが……」

 ここで突如一輝は本格的な読み筋に入ってしまい、度を越えた集中に入りそうで小夜が思わず呼びかける。

「あの長谷先生、解説の方をお願いします」
「えっ、あっ、すいません、ええと……」

 更に小夜は機転を利かせ来場者に呼びかける。

「すいません、皆さま、ですがこの集中力が長谷四段の強さの秘密なんです」

 一部の来場者から笑い声が漏れ、なんとかその場は和やかに事が進む。

 なんとか小夜のフォローもあり、自身の担当時間を無事に終える。

 控室に戻り、休憩しながら盤面のモニターを見ていると後ろより小夜に話かけられる。

「気を付けてよ、解説で深く読むなんて、危うく事故が起きるとこだったわ」
「悪い、なんかこう高度な対局だし、もし俺がどっちかの立場だったらって考えたら……」
「でも次からは気を付けてよ。私もそう何度もフォローできないし」
「分かったよ」

 それからも対局は続き、解説担当者も次々と変わっていった。

 そして終盤に入り、詰むや詰まらずの局面となった。モニターを見ながら、佐渡会長、加瀬五段、そして一輝が検討をしていた。

 そしてある局面を見て佐渡が加瀬に尋ねていた。

「これは一手間違えば、お互い即詰みがありそうですね」
「そうですね、ですがもし最善を指し続けた場合はどうなるんでしょう?」
「この局面においての最善を探すのは難しいでしょう、お互い既に1分将棋ですし」

 佐渡と加瀬が局面の難しさを話していると一輝はなにかに気付いたようだ。

「まさか!」

 そう言って一輝は自身の読み筋で検討用の盤の駒を動かし、その動きに佐渡と加瀬が驚愕する。

「えっ⁉」
「これは⁉」

 更にそれだけでは収まらず、対局者の読み筋も一輝の読み筋と一致していったのだ。

「見てください、本譜の方も……」

 佐渡はここからどちらが勝利者か確信した。

「この読み筋通りに進むとなると勝つのは……」

 音は聞こえないが、モニターでは丸井八段が先に頭を下げていた。投了の意思を示したのである。

 棋将戦第5局は雲竜棋将が勝利し、防衛に成功して幕を閉じる。

 だがその一方でこの雲竜棋将の勝利を誰よりも早く確信したのがデビューして間もない長谷一輝四段だという事に同室にいた棋士や関係者は驚きを禁じ得ない。

 思わず佐渡会長より声が漏れる。

「この先、彼はどのようになっていくのでしょうか」

 棋将戦は幕を閉じた。

 だが明日よりまた新しい戦いが始まる。

 そしてこの春、一輝と小夜は高校2年生へと進級する。
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