一歩の重さ

burazu

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プロ入り後秋から春

駒の斬り合い

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竜帝戦6組ランキング戦3回戦、加瀬俊哉五段と対局する一輝は休憩室で昼食を早めに終え、対局室に戻り盤面を見つめていた。当然ながら対局室には一輝しかいない。

 次の加瀬の手、更にはそれに対する応手をありとあらゆる角度から盤面を見ながら考えていた。

 休憩が明ける数分前に記録係が戻ってきて、タブレット等の準備をしていた。

 記録係の仕事は当然ながら棋譜の記録だが、時間の管理や、秒読みも行い、記録媒体としては専用用紙とタブレットを使用する。

 そして休憩時間が終了し、対局が再開されるのだが、加瀬はまだ戻ってこない。

 自身の手番で休憩に入っているので、当然再開されると持ち時間は消費していく。

 対局者同士である為、一輝と加瀬は離れて昼食を摂ったので、一輝は加瀬がどこにいるかは分からない。

 ただ一つ分かるのが、将棋会館内にいるということである。何故なら対局が開始されてからは終局するまで外出は禁止なのだ。

 食事も基本は出前か持ち込みであり、それ以外では買い出しを頼むという方法がある。

 5分ほどしてようやく加瀬が戻ってきて、盤面の前に座る。

 盤面の前に座ってもすぐには指さず時間を使っている。

 ここで時間を使う意味を一輝は考えてみた。ようやく加瀬の研究を外せたのか、それとも単なる確認作業なのか、いずれにしても一輝からは不安が拭いされない。

 ようやく加瀬が指した手は2二飛車成で角を取る手であった。

 一輝はこれに同金で応じ、加瀬の飛車を取る。

 飛車角交換自体には駒の損得はほとんどないが、加瀬は早くも攻撃の要である飛車を相手に渡す手を選んだのだ。

 加瀬にも当然考えがあっての事だが、一輝としても攻撃力の高い飛車が手に入ったのは大きく、使いどころをうまく探したいところである。

 そこからも互いの応手は続き、遂に加瀬がその牙をむく。

 5三桂成で歩を取りつつ王手をして一輝は同銀で応じ、なんと加瀬は同角成で自身の角を切ったのである。一輝は同玉と応じ、角を取るが、ほぼノータイムで加瀬は3一角と王手金取りをする。

 止むなく一輝は6二玉と逃げるが、2二角成と金を取られてしまう。

 一輝としては生きた心地がしないが、直ぐに詰むような状況でもない為、一輝も相手玉に迫っていく。

 その際に一輝も飛車を切り、銀を取って攻撃の駒を蓄えていく。

 そこからも少しづつ手は進むが、夕食休憩となり、最後の休憩時間となった。

 この休憩が終わればもう両者には終局まで戦い続ける他ない、そして最後に立っているのは1人なのである。
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