一歩の重さ

burazu

文字の大きさ
上 下
24 / 160
プロ入り後秋から春

スペシャリスト

しおりを挟む
 竜帝戦6組ランキング戦3回戦、一輝と加瀬俊哉五段の対局が始まった。

 先手番の加瀬がまず駒に手をやり、2六歩と飛車先の歩を伸ばしていく。

 どうやら加瀬は居飛車で戦うつもりのようだ。

 それを受け、一輝は8四歩と一輝も飛車先の歩を伸ばす。これは相居飛車戦となる模様だ。

 迷わず加瀬は2五歩と更に飛車先の歩を伸ばしていく。

 一輝もまた8五歩と飛車先の歩を伸ばす。

 ここが作戦の分岐点ではあるが、加瀬は何の迷いもなく7八金と角の頭を守るために金を上げる。角道が開いておらず放置しておくと、角がただで取られるからこうして金で守るのだ。

 一輝も角の頭を守るために3二金と上がる。

 この戦形は相掛かりといい、互いに飛車先の歩を伸ばし、角道を閉じたまま進行する形だ。互いに攻撃性が高く、短手数で終わることも珍しくない形だ。

 加瀬が最も得意戦形であり、先手番ではこの形を目指すことが多いのだ。

 後手の一輝も避ける術として振り飛車にするなどがあったのだが、慣れないことを今下手にするよりは自身も指し慣れた相掛かりを受けた方が良いと判断し加瀬に追随したのだ。

 次に加瀬が指した手は3八銀と銀を上がる手を選択した。従来はすぐに2四歩と突いてすぐに飛車先の歩を交換するのが主流であったが、最新系としては飛車先の歩の交換を保留して銀を上がることで含みを持たせることが主流となっているのだ。

 当然一輝もそこは熟知しており、7二銀とあがる。

 ここから実質的な相掛かりの作戦の分岐点になるが加瀬は迷いなく9六歩と端歩を突く。

 一輝も9四歩と受ける。

 ここで加瀬は待ってましたとばかりに3六歩と突く。これで銀、もしくは桂馬があがるスペースを作ったのだ。

 さすがに一輝はこの場面は慎重になり少し時間を使う。

 昼食の注文も終えるが、一輝はそれでも時間を使い、慎重に指していく。

 一方の加瀬はあまり時間を使わずにいた。この態度から一輝は加瀬が相当相掛かりの研究をしていることを察し、このまま乗るか、加瀬の研究を外して読み勝負に持ち込むかを悩んでいた。

 11:55分になり、加瀬から記録係に休憩してくれるよう懇願する。

「休憩にしてください」
「はい」

 加瀬は自分の時間を多少使っても、自身の手番で休憩に入る方が良いと判断したのだ。

 一輝はまだ盤面を見つめているが、そんな一輝を尻目に加瀬は対局室から姿を消す。

 盤面を見ても形成自体にまだ有利不利はないが、加瀬の研究の深さが計り知れず、一輝はどう戦うかを悩んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。 王子が主人公のお話です。 番外編『使える主をみつけた男の話』の更新はじめました。 本編を読まなくてもわかるお話です。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...