一歩の重さ

burazu

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プロ入り後秋から春

終局の時

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 昼食休憩が終わる直前に小夜は自身の座布団に戻り、座って対局再開を待つこととした。

 しかしそこに対局相手の伊原はまだ戻ってきておらず、12:40分を迎え、記録係より再開の声が響く。

「それでは時間になりましたので対局を再開してください」

 そうは言うものの対局相手の伊原が自身の手番で休憩に入った為、小夜としては伊原が指してくれないと進めることができないのだ。

 そんな風に思いをはせていると伊原が戻ってきて、盤面を見てしばらく考えると次の手を指す。

 伊原は攻撃の為に進んでいたはずの銀を穴熊側に引いて、穴熊の守備力を更に高めていく。

 これを見た小夜はしばらく長考にしずむ。

 検討室のほうでも一輝が黒木と奨励会員にこの手の意味を話していた。

「これはまた固めてきましたね」
「ああ、手堅い将棋が基調の伊原さんらしいな」
「ただこれだと居飛車側は攻撃力が落ちてしまうので右桂をうまく活用しないとダメですね」

 そこから更に手は進み、小夜は何度かまとまった長考を繰り返し、段々と時間を消費していく。

 そんな中、小夜の穴熊に伊原の歩が成り、と金が作られ少しづつではあるが駒がはがされつつある。

 遂に小夜は時間を使い果たしたことを記録係より告げられる。

「牧野女流初段、持ち時間を使い切ったのでこれより1手1分以内でお願いします」
「……はい……」

 将棋では持ち時間を使い切ると1手を1分以内で指すというルールが存在する。 そして記録係の秒読みが始まる。

「……10秒……20秒……30秒……40秒……50秒、1、2、3、4、5」

 次の瞬間、小夜は1手指す。残り時間にまだ余裕のある伊原はこの場は慎重に考え、小夜も伊原の手番を利用して懸命に考える。

 検討室の方では一輝と黒木の間で結論が出る。

「長谷君、この対局……」
「はい、伊原さんの勝ちです」

 既に一輝と黒木は伊原の勝ちを読み切っていた。

 そして遂にその時が訪れようとしていた。

「……50秒。1、2,3」
「負けました」

 小夜より投了の意思が告げられ、それを聞いた伊原も頭を下げる。

 しばらく、小夜は黙り込むが、伊原に感想戦の意思を示す。

「感想戦をお願いします」

 そうして伊原と小夜の感想戦が始まる。

 検討室にもその様子は伝わり、黒木が一輝に告げる。

「どうやら感想戦をやっているようだ。俺は帰るが長谷君はどうする?」
「もう少しだけ検討してから帰ります」
「そっか、じゃあな」

 黒木が帰っていく中、一輝は小夜の将棋を見直し何を思うのか?
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