一歩の重さ

burazu

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プロ入り後秋から春

闘志あふれる新年会

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 竜帝戦6組ランキング戦1回戦を無事勝利で終えた一輝は、学校も冬休みに入り、将棋界も年末休みへと入ったので自宅で研究に明け暮れ、年を越していた。

 今日1月3日に師匠である諸見里武夫九段宅へ向かう為、玄関におり、母とやり取りをしている。

「じゃあ、これを諸見里先生にちゃんと渡すのよ」
「分かってるって、一応毎年の事だし」
「でも今年は一輝がプロになって初めての年越しだから諸見里先生もいつもと違うんじゃない」
「まあ、色々聞かれるとは思うけどね」

 一輝は入門以来、毎年、諸見里門下の新年会に出席はしているが、今年は一輝にとってはプロデビュー後初の新年会であるから多少感じ方は違うだろうとは思っていた。

「それじゃあ行ってきます」
「うん、気をつけてね」

 母よりそう言われ一輝は家を出て諸見里宅を目指す。

 慣れた道であるため、迷うことなくあっという間に師匠宅に到着する。

 一輝がインターホンを押すと、諸見里の妻が出てきて一輝に声をかける。

「あ、一輝君明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「明けましておめでとうございます。これ母からです」

 そう言って一輝は母より手渡された手土産を諸見里の妻に渡す。

「まあ、いつもありがとう。お母さんにもよろしくね」

 そう言われ一輝は諸見里の妻に案内され諸見里が待つ居間へと向かう。

「あなた一輝君が来たわよ」

 妻の声に諸見里が反応し、一輝に声をかける。

「おお一輝か、明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます、今年もよろしくおねがいします」
「まま、座れ」

 師匠に促され一輝はまだ誰も来ていない座布団が敷いてある席に座る。

「そういえばまだ誰も来てないんですね」
「おお、お前が一番だ」

 一輝と師匠の2人だけになり、諸見里から前戦の竜帝戦についての話が出る。

「この間富田さんに勝ったな」
「はい、まあ師匠なら既に知っているとは思っていたので、もしかして報告したほうが良かったですか?」
「いや、師弟とはいえ、今後はお前とも対局することがあるかも知れんから一々勝った負けただの報告する必要はない」

 次の瞬間師匠は自身と富田について語りだす。

「富田さんはわしとそんなに年は変わらんがわしよりもデビューは遅く、わしと違って1度もA級に上がらないまま、今はC1、6組だ」
「何ですか師匠、自慢ですか?」
「そんなわしも今はB2で竜帝戦は4組だ。今のわしの位置にすらいない富田さんに勝ったくらいで調子に乗るなということをわしは言いたいんだ」
「確かにそうですね、でも師匠最近の練習将棋じゃ俺の方が師匠に勝ち越していますけど」

 痛い部分をつかれ諸見里は狼狽しながらも言葉を返す。

「ふ、お前も随分生意気なことを言いよる。だがそうでなければプロ棋士など務まらんからな。だが練習と本番の違いをいずれお前にも思い知らせてやるからな」
「望むところです」

 師弟といえど、プロ同士になったからにはライバルでもあるのだ。静かな闘志がこの部屋には溢れていた。
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