7 / 64
嬉しい転生【彩音の場合】
7.夢なら覚めないで 2
しおりを挟む
何故かそのあと、ニッコリ笑った城野院から何かを握らされた。…手を開くとそれはコンドームだった。
「来たる日のために、恥をかかぬよう練習は必要だよ」
なんで…。まぁ確かにこれまで経験はないし、コンドーム自体も触ったことなかったけど…。
女の子って可愛いとは思うけど、その為に時間を割きたいとか、そこまでじゃないんだよなぁ。
いつものように放課後自習室に向かうと、いつも使う方の自習室が使用中になっていた。
(予約してたんだけどなぁ。仕方ない、他を使うか…あれ?)
通りすぎようとした時、自習室の扉の小窓に、赤い色が掠めた。
奏でていた曲の手を止め、俯いている赤い髪。
(あの髪…神崎さんだ)
その時、レオが言ってた話を思い出す。
『彩音ちゃん、スランプなんだって』
(あぁ、今そういう時期なんだな…。でも自分で乗り越えるしかないし…。部外者が声を掛けられる事でもないな)
もう一度、その場を離れようとした時
「!」
顔を上げた神崎さんの大きな瞳から、涙が一粒こぼれ落ちた。
明かり取りの小さな窓から差す西日に反射して、ガラス玉のような涙が頬を滑った。
陽の光が彼女の顔にくっきりと影を刻んで、そのコントラストの美しさに、そこだけ時が止まったようだった。まるで一枚の絵画のような光景、それは感じたことのない衝撃だった。
「…ッ」
見てはいけないものを見てしまった罪悪感で、高鳴る鼓動を抑え、足早にそこを逃げるように立ち去る。
ドッドッドッドッド
早鐘を打つ心臓が破れてしまいそうだ。
『好きな子を泣かしたいって普通じゃないかい?』
『城野院…それドン引きなんだけど』
昼間の会話が頭をよぎる。
「俺…?」
「あれー?瑠衣、自習室に行ってたんじゃないのー?」
「レオ…」
「ど、どうしたの?瑠衣、顔真っ赤だよ!?」
「…えっ…」
――それから俺は神崎彩音さんの事が頭を離れなくなってしまった。
◇◇◇◇◇
春になり、新入生が入ると同時に噂の編入生の舞宮カノンさんが2年生に入学してきた。
活発そうなオレンジの髪の、くるくると表情を変える子、という印象だった。
音楽が好きで好きでたまらない!といった感じで好感がもてた。
レオはしょっちゅうその子の話をする。
城野院もなかなか面白い子だよ、と黒い笑みを浮かべて言っていた。城野院に、気に入られていい事はない気がするんだけど…。
俺も特に接点はないのに、贈り物をもらったことがある。もらう義理もないので、お返ししたけれど、色んな人にプレゼントしているようだった。
その後、好きな色とか好きな曲とか好みのタイプをしつこく聞かれた。うーん、ちょっと変わった子、なのかな?
学年が違うからそれほど会わないが、学園が同じだと嫌でも他人の噂話は耳に入ってくる。神崎さんのスランプはまだ続いているようで、思う成果は出せていないようだった。
(何か力になりたいけど……。気晴らしに、うちのベヒシュタイン…弾いたら喜んでくれるかな…)
俺の1人暮らしの部屋には、声楽家の叔父が、音楽を志すなら早めにいいものに触れた方がいいと言ってプレゼントしてくれたベヒシュタインのアップライト・ピアノがある。
(いやいや、まさかそんな家に招ける訳ないだろ…話したこともないのに)
そう、神崎さんとは話したこともない。
平素の彼女は近づくことも厭われる程、周りを寄せ付けない美しさがあった。
特に誰かと話してる所も見かけない。
唯一、今年一年生で入学した弟の奏君とは、一緒にいるところを見るけれど。奏君は神崎さんに似て、整った造形をしている美少年だけれど、雰囲気が柔らかく話しやすい。
「あ、レオー、購買のパン買えた?…て、あぁ奏君、お疲れ様」
昼食時の購買の前、レオを呼び止めたそこに、赤茶色い髪を輝かせる神崎奏君がいた。レオとはよく話しているようだった。
奏君はこちらに声を掛けられると、きちんと向き合って一礼をしてくれた。礼儀正しくて好感が持てるなぁ。
「なぁなぁ、やっぱり彩音ちゃんて家でもクールなの!?」
「レオ…家でのことを、聞くなんて失礼だよ?」
「は?姉が?クール?」
奏君は心底不思議だという風に、怪訝な表情を隠さない。
「え?だって、神崎さんて…クールだよね?」
「うんうん、誰とも親しくしてるとこ見ないし…。ちなみに彩音ちゃんなんて俺は今言っちゃってるけど、自慢じゃないけど、本人に向かってなんて絶対言えないから!」
奏君は大仰にため息をついた。
「はぁ…。姉はあんな見た目の癖に、すっごい口ベタの人見知りなんですよ…。高校では友達出来るかなって言ってたんですけどね…。
言うに事欠いてクールって言われてるなんて…。これは難しそうですね…」
「えぇ?人見知り?そうなの?」
「えぇ。あ、そういえば家でよく大河内先輩の話してますよ」
「え」
思いがけない彼の言葉に、俺の時が止まる。
「えーマジでー!?なんで瑠衣の話なんて!!…って瑠衣真っ赤だよ?瑠衣良かったじゃーん!」
「あ、いや、よかったとか、そんな、いや」
「大河内先輩、よかったらあんな姉ですが、よろしくお願いいたします」
奏君は深々と頭を下げた。
「いやいやいや!よろしくできたらするけど、しようにも、そんな、よろしくする機会がないっていうか、あの」
「へぇ~~瑠衣ってば、そうなんだぁ~」
「なな、なに?そうって何が?なに、なんでレオ笑うの!?」
神崎さんが、俺の話…。俺のこと、知ってくれてたんだ…。
言いようもない思いが胸に広がって、緩む口元を止められなかった。
「来たる日のために、恥をかかぬよう練習は必要だよ」
なんで…。まぁ確かにこれまで経験はないし、コンドーム自体も触ったことなかったけど…。
女の子って可愛いとは思うけど、その為に時間を割きたいとか、そこまでじゃないんだよなぁ。
いつものように放課後自習室に向かうと、いつも使う方の自習室が使用中になっていた。
(予約してたんだけどなぁ。仕方ない、他を使うか…あれ?)
通りすぎようとした時、自習室の扉の小窓に、赤い色が掠めた。
奏でていた曲の手を止め、俯いている赤い髪。
(あの髪…神崎さんだ)
その時、レオが言ってた話を思い出す。
『彩音ちゃん、スランプなんだって』
(あぁ、今そういう時期なんだな…。でも自分で乗り越えるしかないし…。部外者が声を掛けられる事でもないな)
もう一度、その場を離れようとした時
「!」
顔を上げた神崎さんの大きな瞳から、涙が一粒こぼれ落ちた。
明かり取りの小さな窓から差す西日に反射して、ガラス玉のような涙が頬を滑った。
陽の光が彼女の顔にくっきりと影を刻んで、そのコントラストの美しさに、そこだけ時が止まったようだった。まるで一枚の絵画のような光景、それは感じたことのない衝撃だった。
「…ッ」
見てはいけないものを見てしまった罪悪感で、高鳴る鼓動を抑え、足早にそこを逃げるように立ち去る。
ドッドッドッドッド
早鐘を打つ心臓が破れてしまいそうだ。
『好きな子を泣かしたいって普通じゃないかい?』
『城野院…それドン引きなんだけど』
昼間の会話が頭をよぎる。
「俺…?」
「あれー?瑠衣、自習室に行ってたんじゃないのー?」
「レオ…」
「ど、どうしたの?瑠衣、顔真っ赤だよ!?」
「…えっ…」
――それから俺は神崎彩音さんの事が頭を離れなくなってしまった。
◇◇◇◇◇
春になり、新入生が入ると同時に噂の編入生の舞宮カノンさんが2年生に入学してきた。
活発そうなオレンジの髪の、くるくると表情を変える子、という印象だった。
音楽が好きで好きでたまらない!といった感じで好感がもてた。
レオはしょっちゅうその子の話をする。
城野院もなかなか面白い子だよ、と黒い笑みを浮かべて言っていた。城野院に、気に入られていい事はない気がするんだけど…。
俺も特に接点はないのに、贈り物をもらったことがある。もらう義理もないので、お返ししたけれど、色んな人にプレゼントしているようだった。
その後、好きな色とか好きな曲とか好みのタイプをしつこく聞かれた。うーん、ちょっと変わった子、なのかな?
学年が違うからそれほど会わないが、学園が同じだと嫌でも他人の噂話は耳に入ってくる。神崎さんのスランプはまだ続いているようで、思う成果は出せていないようだった。
(何か力になりたいけど……。気晴らしに、うちのベヒシュタイン…弾いたら喜んでくれるかな…)
俺の1人暮らしの部屋には、声楽家の叔父が、音楽を志すなら早めにいいものに触れた方がいいと言ってプレゼントしてくれたベヒシュタインのアップライト・ピアノがある。
(いやいや、まさかそんな家に招ける訳ないだろ…話したこともないのに)
そう、神崎さんとは話したこともない。
平素の彼女は近づくことも厭われる程、周りを寄せ付けない美しさがあった。
特に誰かと話してる所も見かけない。
唯一、今年一年生で入学した弟の奏君とは、一緒にいるところを見るけれど。奏君は神崎さんに似て、整った造形をしている美少年だけれど、雰囲気が柔らかく話しやすい。
「あ、レオー、購買のパン買えた?…て、あぁ奏君、お疲れ様」
昼食時の購買の前、レオを呼び止めたそこに、赤茶色い髪を輝かせる神崎奏君がいた。レオとはよく話しているようだった。
奏君はこちらに声を掛けられると、きちんと向き合って一礼をしてくれた。礼儀正しくて好感が持てるなぁ。
「なぁなぁ、やっぱり彩音ちゃんて家でもクールなの!?」
「レオ…家でのことを、聞くなんて失礼だよ?」
「は?姉が?クール?」
奏君は心底不思議だという風に、怪訝な表情を隠さない。
「え?だって、神崎さんて…クールだよね?」
「うんうん、誰とも親しくしてるとこ見ないし…。ちなみに彩音ちゃんなんて俺は今言っちゃってるけど、自慢じゃないけど、本人に向かってなんて絶対言えないから!」
奏君は大仰にため息をついた。
「はぁ…。姉はあんな見た目の癖に、すっごい口ベタの人見知りなんですよ…。高校では友達出来るかなって言ってたんですけどね…。
言うに事欠いてクールって言われてるなんて…。これは難しそうですね…」
「えぇ?人見知り?そうなの?」
「えぇ。あ、そういえば家でよく大河内先輩の話してますよ」
「え」
思いがけない彼の言葉に、俺の時が止まる。
「えーマジでー!?なんで瑠衣の話なんて!!…って瑠衣真っ赤だよ?瑠衣良かったじゃーん!」
「あ、いや、よかったとか、そんな、いや」
「大河内先輩、よかったらあんな姉ですが、よろしくお願いいたします」
奏君は深々と頭を下げた。
「いやいやいや!よろしくできたらするけど、しようにも、そんな、よろしくする機会がないっていうか、あの」
「へぇ~~瑠衣ってば、そうなんだぁ~」
「なな、なに?そうって何が?なに、なんでレオ笑うの!?」
神崎さんが、俺の話…。俺のこと、知ってくれてたんだ…。
言いようもない思いが胸に広がって、緩む口元を止められなかった。
0
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
だいきちの拙作ごった煮短編集
だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです!
初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆
なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。
男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。
✴︎ 挿入手前まで
✴︎✴︎ 挿入から小スカまで
✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで
作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。
リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。
もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。
過去作
なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新)
これは百貨店での俺の話なんだが
名無しの龍は愛されたい
ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~
こっち向いて、運命
アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中)
ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~
改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど
名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海-
飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編)
守り人は化け物の腕の中
友人の恋が難儀すぎる話(短編)
油彩の箱庭(短編)
賞味期限が切れようが、サ終が発表されようが
wannai
BL
賞味期限が切れようが、サ終が発表されようが 〜VR世界の恋人が現実で俺を抱かない気らしいんですが、陰キャに本気の恋させといて逃げ切れると思ってます?〜
VRワールド『LOKI IN HAPPY WORLD』。
プレイヤーネーム・亀吉は、アバターを完璧に亀にしたい。
が、最後の砦である『スキントーン:緑』は対人ゲームモード『コロシアム』の勝利報酬でしか入手できず、苦手ながらプレイする毎日。
けれど、勝率を意識しすぎるあまり他プレイヤーから嫌われるプレイばかりしてしまい、ゲーム内掲示板では悪評を書かれている。
どうにかプレイスキルを上げる方法はないものかと悩んでいたある日、頼めば対人戦の稽古をつけてくれるギルドがある、と噂で聞く。
しかしそのギルド『欲の虜』は、初めてコロシアムでチーム戦をプレイした亀吉を、「お前、いるだけ邪魔だな」と味方なのに鈍器でキルしてきたプレイヤーが所属するギルドだった。
※ なろう(ムーンライト)でも並行掲載してます
投了するまで、後少し
イセヤ レキ
BL
※この作品はR18(BL)です、ご注意下さい。
ある日、飲み会帰りの酔いをさまそうと、近くにあった大学のサークル部屋に向かい、可愛がっていた後輩の自慰現場に居合わせてしまった、安藤保。
慌ててその場を離れようとするが、その後輩である飯島修平は自身が使用しているオナホがケツマンだと気付かないフリをさせてくれない!
それどころか、修平は驚くような提案をしてきて……?
好奇心いっぱいな美人先輩が悪手を打ちまくり、ケツマンオナホからアナニー、そしてメスイキを後輩から教え込まれて身体も心もズブズブに堕とされるお話です。
大学生、柔道部所属後輩×将棋サークル所属ノンケ先輩。
視点は結構切り替わります。
基本的に攻が延々と奉仕→調教します。
※本番以外のエロシーンあり→【*】
本番あり→【***】
※♡喘ぎ、汚喘ぎ、隠語出ますので苦手な方はUターン下さい。
※【可愛がっていた後輩の自慰現場に居合わせたんだが、使用しているオナホがケツマンだって気付かないフリさせてくれない。】を改題致しました。
こちらの作品に出てくるプレイ等↓
自慰/オナホール/フェラ/手錠/アナルプラグ/尿道プジー/ボールギャグ/滑車/乳首カップローター/乳首クリップ/コックリング/ボディーハーネス/精飲/イラマチオ(受)/アイマスク
全94話、完結済。
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。
師匠、俺は永久就職希望です!
wannai
BL
エシャ・トゥリは、学友が発した師匠を侮辱する言葉に挑発され、次の試験で負けたらギルドを移籍すると約束してしまう。
自堕落な師匠には自分がいないと生きていけないから引き留めてくれる筈だと思っていたのに、彼はむしろ移籍を祝ってくれて──。
魔法がある世界のファンタジー
ショタ疑惑のダメ師匠 × 孤児の弟子
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる