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嬉しい転生【彩音の場合】
6.夢なら覚めないで
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「お前って本当音楽ばっかりで面白くねー」
「母ちゃんがお前みたいなの修行僧みたいだって言ってた」
あれは小学生の頃だっただろうか。
ジュニアコンクールで成績を出し始めてた頃。
音楽の道を志すことを決めていた俺に、口さがない同級生が投げ掛けてきた言葉。
その言いぶりに、怒りを感じると言うよりも、確かに、と納得してしまったのを覚えている。
何かを極めたい、と明確にもう己の中で決まってしまっているのだ。
その為に必要なことをするのは当然だし、不必要なものを切り捨てることも当然のことだと知っていた。
結果を出す、結果を出せる人間ということは、その覚悟があるということだ。
「そっか、修行か…」
己の全てを音楽に捧げたい。
もう、それは嘘偽りのない気持ち、決心だった。
◇◇◇◇◇
音楽学園に通い始めてからは、更に充実した。中学までがなまじ進学校で、勉強に割く時間も少なくなかった為、まさにそこは理想的な環境だった。
レベルの高い教師陣、素晴らしい楽器の数々等設備も申し分なく、学園に通う友人達もみんな音楽の虜という表現がピッタリな者ばかりで、切磋琢磨出来る環境はとても充実していた。
そして学園で過ごす二度目の冬、学園の姉妹校である普通科のある秀麗学園から、4月からの2年生に編入生が入るという噂が聞こえてきた。
姉妹校からといっても、この麗華音学園に編入してくること自体がすごく珍しいことだ。年に1人いるかいないか、そのくらいしか話を聞かない。
その編入生はそれは素晴らしいヴァイオリンを奏でるらしい。
たまたま音楽の臨時講師として普通科の秀麗学園を訪れていたうちの先生が、あまりの腕前に編入を勧めただとか。
そんな逸話もあって、学園の中はその編入生の話で持ちきりだった。
「なぁなぁ、瑠衣~。聞いた?4月から入る一個下の編入生の話!」
俺の前の席のレオが、振り返り俺の机にのしかかって、上目遣いにそう言った。
「…聞いたよ。というか、どこいっても誰かがその話してる」
「ヴァイオリン弾くんだってー!しかもめっちゃ上手らしいよ!?俺のヴィオラとデュオ組んでくれないかなー!」
そういって楽しそうにしているのは、同じクラスの萌木 玲央。
自分よりは低い身長も相まって、茶色の短いけれどフワフワした髪、大きな黒い瞳が小型犬のようだなぁと思う。思わずいつもの調子で頭を撫でてしまう。
「うん、レオとデュオ組んでくれるといいねぇ」
「なー!楽しみだなー!しかも可愛いらしいぜー!超楽しみ!」
「あれ?玲央君は神崎さんのファンだったのでは?」
隣からひょいっと声がかかった。
声を掛けてきたのは、隣の席の城野院 光之助だ。
華道の家元の生まれの彼は優美という表現がピッタリで、一つ一つの所作がそれは美しいチェロ奏者だ。
黒い長い髪を後ろに束ね、涼やかな目元、端正な顔立ちで男の俺も見惚れる程の優雅な仕草をする。
廊下を歩くと、女生徒から歓声が上がってるのをよく目にする。
もうそれすら、日常の一コマだ。
「あ、彩音ちゃんは別格なのー!神聖で触れることは叶わない俺の女神なんだから!」
「彩音ちゃん、て。レオいつからそんなに親しくなったの?」
「なってないけどー!でも心で呼ぶくらい、いいだろ!」
「心というか、思いっきり言葉に出ているでしょうが。
まぁ、彼女の奏でるピアノもさることながら、彼女は本当に美しい人ですからねぇ」
いつもレオの口から聞く、神崎彩音さんの話。
1学年下の彼女は、入学した時から学園中の話題の的だった。
国内のコンクールでの受賞歴から注目されていたのは勿論、まず息を飲むようなその美しさだ。
赤い長い髪をかきあげるだけで、芳しい薔薇の花が舞うようだった。
長い睫毛に縁取られた大きな瞳、そして真っ白な肌にその赤い唇がたまらなく映える。
その細い身体で奏でる音はまた、素晴らしく繊細で美しく、彼女という人柄を現しているようだった。
「彩音ちゃん、最近スランプみたいなんだよなー。俺が癒しになってあげたい…」
「よくそんな情報知ってるね?」
「女神のことを知ってるのは当たり前だろ!」
「ふぅん…スランプねぇ。彼女みたいな高潔なタイプが、悔し涙を流すところを想像するとたまらないな…さぞかし美しいんだろうねぇ…」
「げ…」
「城野院…それ…ドン引きなんだけど…」
「え?何が?好きな子を泣かしたいって普通じゃないかい?」
「ぜんっぜん同意出来ません!好きな子には笑っててほしい!」
レオはブルブルと頭を横に振った。そんなとこも犬みたいだなぁ。
「ほらレオが怯えるじゃん…よしよし。城野院、好きな子を泣かしたいって、それ思考が小学生男子だよ?」
レオの頭を撫でて慰める。
「ふふふ、君たちみたいなお子様にはまだ早かったかな?」
「ねぇ、瑠衣、俺あいつの笑顔、怖い…」
「うん、俺も…」
城野院の黒い笑顔を前に、俺たち二人は顔を見合せ大袈裟に怯えてみせたのだった。
「母ちゃんがお前みたいなの修行僧みたいだって言ってた」
あれは小学生の頃だっただろうか。
ジュニアコンクールで成績を出し始めてた頃。
音楽の道を志すことを決めていた俺に、口さがない同級生が投げ掛けてきた言葉。
その言いぶりに、怒りを感じると言うよりも、確かに、と納得してしまったのを覚えている。
何かを極めたい、と明確にもう己の中で決まってしまっているのだ。
その為に必要なことをするのは当然だし、不必要なものを切り捨てることも当然のことだと知っていた。
結果を出す、結果を出せる人間ということは、その覚悟があるということだ。
「そっか、修行か…」
己の全てを音楽に捧げたい。
もう、それは嘘偽りのない気持ち、決心だった。
◇◇◇◇◇
音楽学園に通い始めてからは、更に充実した。中学までがなまじ進学校で、勉強に割く時間も少なくなかった為、まさにそこは理想的な環境だった。
レベルの高い教師陣、素晴らしい楽器の数々等設備も申し分なく、学園に通う友人達もみんな音楽の虜という表現がピッタリな者ばかりで、切磋琢磨出来る環境はとても充実していた。
そして学園で過ごす二度目の冬、学園の姉妹校である普通科のある秀麗学園から、4月からの2年生に編入生が入るという噂が聞こえてきた。
姉妹校からといっても、この麗華音学園に編入してくること自体がすごく珍しいことだ。年に1人いるかいないか、そのくらいしか話を聞かない。
その編入生はそれは素晴らしいヴァイオリンを奏でるらしい。
たまたま音楽の臨時講師として普通科の秀麗学園を訪れていたうちの先生が、あまりの腕前に編入を勧めただとか。
そんな逸話もあって、学園の中はその編入生の話で持ちきりだった。
「なぁなぁ、瑠衣~。聞いた?4月から入る一個下の編入生の話!」
俺の前の席のレオが、振り返り俺の机にのしかかって、上目遣いにそう言った。
「…聞いたよ。というか、どこいっても誰かがその話してる」
「ヴァイオリン弾くんだってー!しかもめっちゃ上手らしいよ!?俺のヴィオラとデュオ組んでくれないかなー!」
そういって楽しそうにしているのは、同じクラスの萌木 玲央。
自分よりは低い身長も相まって、茶色の短いけれどフワフワした髪、大きな黒い瞳が小型犬のようだなぁと思う。思わずいつもの調子で頭を撫でてしまう。
「うん、レオとデュオ組んでくれるといいねぇ」
「なー!楽しみだなー!しかも可愛いらしいぜー!超楽しみ!」
「あれ?玲央君は神崎さんのファンだったのでは?」
隣からひょいっと声がかかった。
声を掛けてきたのは、隣の席の城野院 光之助だ。
華道の家元の生まれの彼は優美という表現がピッタリで、一つ一つの所作がそれは美しいチェロ奏者だ。
黒い長い髪を後ろに束ね、涼やかな目元、端正な顔立ちで男の俺も見惚れる程の優雅な仕草をする。
廊下を歩くと、女生徒から歓声が上がってるのをよく目にする。
もうそれすら、日常の一コマだ。
「あ、彩音ちゃんは別格なのー!神聖で触れることは叶わない俺の女神なんだから!」
「彩音ちゃん、て。レオいつからそんなに親しくなったの?」
「なってないけどー!でも心で呼ぶくらい、いいだろ!」
「心というか、思いっきり言葉に出ているでしょうが。
まぁ、彼女の奏でるピアノもさることながら、彼女は本当に美しい人ですからねぇ」
いつもレオの口から聞く、神崎彩音さんの話。
1学年下の彼女は、入学した時から学園中の話題の的だった。
国内のコンクールでの受賞歴から注目されていたのは勿論、まず息を飲むようなその美しさだ。
赤い長い髪をかきあげるだけで、芳しい薔薇の花が舞うようだった。
長い睫毛に縁取られた大きな瞳、そして真っ白な肌にその赤い唇がたまらなく映える。
その細い身体で奏でる音はまた、素晴らしく繊細で美しく、彼女という人柄を現しているようだった。
「彩音ちゃん、最近スランプみたいなんだよなー。俺が癒しになってあげたい…」
「よくそんな情報知ってるね?」
「女神のことを知ってるのは当たり前だろ!」
「ふぅん…スランプねぇ。彼女みたいな高潔なタイプが、悔し涙を流すところを想像するとたまらないな…さぞかし美しいんだろうねぇ…」
「げ…」
「城野院…それ…ドン引きなんだけど…」
「え?何が?好きな子を泣かしたいって普通じゃないかい?」
「ぜんっぜん同意出来ません!好きな子には笑っててほしい!」
レオはブルブルと頭を横に振った。そんなとこも犬みたいだなぁ。
「ほらレオが怯えるじゃん…よしよし。城野院、好きな子を泣かしたいって、それ思考が小学生男子だよ?」
レオの頭を撫でて慰める。
「ふふふ、君たちみたいなお子様にはまだ早かったかな?」
「ねぇ、瑠衣、俺あいつの笑顔、怖い…」
「うん、俺も…」
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