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第六章 四種族大戦編

龍族 VS 鬼族

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 ――また原初の鬼族と会うことがあるとはの。永く生きておると何があるか分からぬ。
 
 もう一人の巨体はイバラキを思い出す。確かゼンキと言ったか。あと一人は見たことも無い。

 そしてあの男が鬼王シュテン。
 
 自我崩壊でタガが外れていたとはいえ、魔族と鬼族を半壊させた怪物だ。更に修練を積んだと見える、魔力の質が良い。
 しかし、五百年前の姿のままとは。宝玉の力には驚かされる。

「久しいなベンケイ。最後の大戦で名を聞かんかったゆえに死んだとばかり思うておったが」
「色々あってのぉ、今は魔都に世話になっている」
「左様であるか。昔話もしたいものだが、死んでもらおうかの」
「こちらの台詞じゃ。最期にシュエンをこちらに寄越す気は無いか?」
「儂に聞くでないわ、本人に聞くがよい」

 四人の鬼族はシュエンに目を向ける。

「爺さん、残念だが勧誘を受ける訳にはいかない、正気に戻った今が本当の俺だ」
「そうか、残念だ。では諸共くたばれ」

 ベンケイ達が薙刀を構えた。
 
 懐かしい。
 里の刀の柄を伸ばしたような独特な武器だ。ベンケイは鍛冶師であり薙刀術の創始者だと聞いた。だとすれば鬼王シュテンはその弟子だろう。
 ゼンキは金棒だ。クリカラは今はっきりと思い出した、のあれを振るう姿を。

 しかしこちらには今やクリカラの右腕であるシャオウがいる。里一番の盾士であるヤンガスもだ。シュエンはあの化物の首を斬り飛ばした。

「良し、守りは任せたぞヤンガス。皆で奴らを斬り刻んでやるとしよう」
「へい! あんたらにゃ傷一つ付けさせねぇぜ!」
「本気で戦闘するたァ千年ぶりじゃ。覚悟せぇよ、おどりゃァ!」
「悪いなお前ら、死んでくれ」 

 まずは鬼王が何かをしようとしている。

『火魔術 炎熱領域』

『守護術 堅牢!』
 
 ヤンガスの幅広で刀とも呼べない武器で鬼王の術を防御した。シャオウの父、シャガラの愛刀で特級品だ。

「おぉ……シュエンの守護術を消し飛ばした悪魔族の術だな。確かに聯気れんきとティモシーさんの教えがなけりゃ厳しかったな……」
「問題ないかの?」
「いや、やっぱ俺の足止めの能力は魔物向けらしい。鬼族の戦士四人を一身にってのは厳しいな。すんません里長」
「左様か、では始祖四王の端くれとして新しい鬼王は儂が貰おうかの」
「では、ヤンと俺がゼンキとサンキチを抑えます」

 シャオウは昔からの顔見知り、ベンケイの相手を。
 シュエンとヤンガスには自身の倍はあろうゼンキの相手を任せる。もう一人はサンキチと言っていたか。ヤマタノオロチを斬り伏せた二人だ、問題ないだろう。
 
 若いとはいえあのイバラキを斬って鬼王を名乗る者に余裕は見せられない。
 倶利伽羅刀くりからとうを正眼に構える。
 
「さて、若い鬼王よ。儂ですら相手をした事は無いが、イバラキはどうであった?」
「あんなもんに勝っても何の自慢にもなりゃしねぇ、弱すぎたよ。オラが強すぎたのか、始祖四王が弱いのか。あんたがそうじゃねぇ事を願いたいけどな」

 鬼王シュテンの眼は灰色。鬼族では見た事のない色だ。当然人族でも見た事のある色ではない。
 里に来た時の魔王マモンは今のような紅い眼ではなかった。人族の血で昇化していると見て良いだろう。そうなると鬼王もだ。
 ゼウスとレイの因子で青紫、サタンで赤く、ラセツで灰色に眼の色が変わると見ていい。眼の力を警戒する必要がある。

 ――フッ……儂のこの分析癖は、亡くなった妻の教えであったな。見ておるか、リンファよ。この大戦を無事生き抜いた暁には、お主の墓に礼をせねばならんの。

『風魔術 風魔召喚』

『土遁 土塁壁どるいへき

 土遁の土壁つちかべは風属性に対する防御に良い。
 土遁は何も足止めの術だけのものではない。龍族の鍛冶師の始祖であるシャガラの開発した術だ。大地の自然の力を組み込んで更に強固になった。

「流石は修練を続けている四王だな、中距離の小細工は通じねぇみてぇだ」
「確かに、お主らにも儂の渾身の雷遁を封じられたからの」

 刀で戦う他ない。

 ――儂は術より剣技の方が得意である、望むところだ。

 鬼王は薙刀を正面に構えた。
 鬼族特有の変質気力とはまた違う、あの魔術に似たものを纏っている。更に自然の力か、これは全力で立ち向かわなければならない。
 
 ――成程、薙刀術を極めておる、隙が無い良い構えだ。

 愛刀の倶利伽羅刀には聯気れんきを注ぎ続けている。

『薙刀術 水車みずぐるま

 ――ほう、速い。
 
 間合いを見切り、少し後ろへと下がって避ける。

「へぇ……守護術で受けねぇんだな。オラの斬撃がそんなに怖いか?
「自惚れるでない。守護術に頼りすぎては良い剣士にはなれぬぞ」

 間合いを制す者が勝負を制す。
 そのような事を敵に教えてやる程甘くはない。

 縦横遠心力を利用した自在の斬撃、素晴らしい。しかし、かつて見慣れたベンケイの薙刀術だ。

「ふぅ……流石だな……かすりもしねぇとはな……」
「こうも涼しい顔で避けられては絶望すら覚えよう、降参するなら早い方が良いぞ」

 そうは言ったが、薙刀の間合いの長さは厄介だ。戦には駆け引きも必要、焦らせて隙をつくとしよう。

 懐に入れば薙刀の間合いは潰せる。防戦一方は終わりだ。
 聯気に満ちた刀に一気に雷遁を圧縮する。雷の速さは風どころではない。

『魔法剣技 雷鳴斬らいめいぎり』

 薙刀を引いた一瞬の隙をつき、一気に間合いを詰めて懐に入る。

 仕留めたと思った刹那、クリカラの渾身の一振りはくうを切った。

「なん……だと……?」

 ――見切られたか……刀の切っ先をすり抜けるように……あやつの動きが見えんかった……。

「オラも避けるのには自信があるんだよな。当てるのは至難の業だと思うぞ」

 クリカラの驚く顔を見てか、鬼王はそう言った。
 確実に当たるはずだった、しかし外した。

 ――いや……儂の慢心か。こやつは鬼王を名乗る者、今までで最強の敵である事を認めねばならん様だ。

「お主も守護術で受けぬところをみると、儂の斬撃が余程恐ろしいと見える」
「守護術に頼ったらいい剣士になれねぇんだろ?」
「その通り。良い弟子を持ったの、ベンケイの奴も」

 普通の攻撃では埒が明かない。常識では考えられないあの見切り、眼の力である可能性が高い。
 であれば、その力を上回らなければならない。

 ――となると……儂も覚悟せねばならん。

 そんな事を考えているうちにも、薙刀の斬撃は止まらずクリカラを襲い続ける。聯気れんきを纏った刀でいなし、隙をうかがいつつ間合いを取る。

 ――儂の奥の手は長くは持たぬ。

 勝負は一瞬。

 クリカラの特異能力は雷属性だ。
 今も雷で全身を活性化させ、優位に立っているはずだった。更に出力を上げて鬼王を圧倒しない事には勝てない。
 そうなればクリカラの身は持たない。それでも敵を斬れればそれで良い。

 覚悟は決まった、あとは隙を見て斬り伏せるのみ。

『薙刀術 腰車こしぐるま

 ――焦ったか。
 
 雷の出力を上げ、全身の細胞を叩き起こす。
 常識では有り得ぬ速度で鬼王の斬撃を避け、後ろへ下がる。

 筋肉が悲鳴を上げているのが分かる。が、痛みは無い。ガラ空きの首元を目指して大地を強く蹴った。
 倶利伽羅刀は雷を纏い破裂寸前だ。

『魔法剣技 雷光一閃らいこういっせん

 自身でも制御出来ない程の渾身の斬撃。
 手応えはあった。
 一気に現れる全身の痛みに、クリカラは身体を支えられずそのまま地面に伏せた。

 最期の力で後方を振り向くと、鬼王は立っていた。
 
 ただ、左腕と頭を無くして。
 そして物も言えず地に倒れ込んだ。

 
 ――他の三人はどうだ……。
 
 シュエンとヤンガスは、ゼンキとサンキチを傷だらけにしている。流石はヤマタノオロチを斬り伏せた二人だ。

 シャオウは互角か押している。

 ――流石は優秀な儂の弟子だ、次の龍王はお主だ……。


 鬼王を名乗る者と刺し違えた、十分な戦果だ。

 友に恵まれ部下にも恵まれた。
 皆が平穏に暮らせる地も手に入れた。

 長く生きたが、悔いはとうに無い。

 
 メイファが何かを叫んで指示を出している。
 
 ――もう耳も聞こえぬ、もう良い……皆のところに行かせてくれ……。

 クリカラは静かに瞼を閉じた。 

 ――良い生涯であった……皆、礼を言う……
 
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